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人生観

「三十半ばくらいの時やったかの、初めて読んだ戦争の話でな、絶対に生きて帰ってくる言うとったじいさんが何で特攻で死んでしもたんかいうのんを、孫が、じいさんを知っとる人らから話聞きながら、理由を探っていく、いうやつなんや。何度も読んだ。

 戦争なんかいつ命落とすかわからんもんやけど、そう書いたるいうことはこの小説のじいさんには理由があったいうことやなぁ思て、それもある意味推理やないかと読んでみたんわけや。わしもしたけど、二人も学校で戦争の勉強はしたやろ。せやけどな、その本読んで戦争いうもんを全然わかってへんかったんやなて思たわ。教科書なんか全然アカン。

 二人が読むかもやさかいあんまり内容は詳しい言わんとくけどな、それには一人一人の戦争の体験の話が書いてあるんや。

 戦争いうもんは何でこんなことが許されるんやぁいうんがよぉあってなぁ・・・ホンマ何やねんコイツて何回もムカつくことあったわ。人間、何であんなひどいことが出来るんやろなぁ。みんなが出来へんかったら戦争も、あんな残酷なことも起こらんかったやろうになぁ・・・最後まで読み終わったらなぁ、そぉいうことやったんかぁ、て思たわ・・・泣いてしもたわ・・・何ちゅう悲しい話や思たわ。ワシが読んだんは小説の話や、せやけど戦争はホンマにあって、ホンマに体験した人らの話なんやかな。

 ツレにもな、この本はええ本やから読んでみい、て渡したんや。そしたらみんなも泣いた言うてな。 本、涙と鼻水吸うて、分厚うなって返ってきよったわ。はは、汚い汚い。

 わし、この本で人生観変わったんや。

 読み終わってからな、特攻のことを調べたんや

 自分の乗っとる戦闘機が玉っちゅうわけや。その戦闘機で突っ込まんなんねや。出来んかったからいうて帰ることは出来へん。行かへんいうんは許されへん。突っ込むか、突っ込む前に撃ち落とされるか、燃料なくなって落ちるかしか選択肢はないんや。この時代の人はよぉそんな恐ろしいこと出来たなぁ思う。ワシには絶対に出来へん。特攻に行くんが決まった人の家族らへの手紙、遺書も読んだ。いっぱい読んだ。両親へのや、生まれたばっかりの子供へのや、兄弟へのや。涙が出た。めちゃくちゃ悲しい手紙やった・・・胸が苦しいなった・・・アカンまた泣いてしもた・・・二人の前で泣いてばっかりやなぁ、ワシ。ワシもやけど、今も、読んだ時の時代の男にこんな手紙は書けんて思たわ。

 道歩いとるときに考えたんや。戦争で死んでしもた人らは戦争がなかったら生きてるはずやったわけやろ。いうことは人口もそのままやった。そしたらや、もしかして、今かてもっと人がおったいうことかもしれへん、て。そう思たらな、周りに急に大勢の人が見えたような気がしたんや。こう、賑やかにザワザワしとってな、みんなの楽しそうな笑い声が聞こえた気がしたんや・・・まあ、すぐ見えんなったけどなぁ。そぉやったらめぐり合わせっちゅうもんも変わってワシももしかしたら生まれとらんかったかもやけどな。佑人も祥子ちゃんもな。

 そういうたら昔会うた時、佑人が、僕はもしかしたらなんて考えてもしかたないこと考えへんみたいなこと言いよったわ。小学生のくせに何や落ち着いとって子供らしいない大人びた奴や思とったけど、それまでに何年も暮らしとるんやもんな。そら冷静な目で見てまうわな。今でもそうなんか?せやけど、もしかしたら、いうんも考えるんも楽しい時あるで。

 ・・・小さい時、じいさんの家で額に入れて飾ったる写真見てな。仏壇のある部屋で、あの上のほうに、襖の上に斜めにして飾ってあったんや。見たことあるか?じいさんの親のやつや。ゆうたらワシの曾祖父さんと曾祖母さんの写真いうこっちゃ。もうおらん人らの写真がそこには飾ったるんやなぁいうんはわかったんやけど、隣にな、若い男の人の写真もあってな。何でこんな若い人のんが思うてオカンに誰やぁて聞いたら、じいさんの弟で、戦争行って特攻で船に突っ込んで死んでしもた言うたんや。その時は特攻いうんはわからんで戦争で死んだ人なんやなて思たくらいやった。

 昔の話やくらいにしか思うてへんかったしな。戦争の映画とかも悲しいなるんはわかっとるからそんな見たいもんでもなかったさかい見やへんかったし。でもその小説には何やあらすじだけで引き込まれるもんがあってな。読んでからや、真面目に戦争いうもんを考えるようになったんわ。

 ・・・じいさんの弟は撃墜されて死んだんやのうて、ある命を自ら無くしに行ったんや。特攻は自殺や。自殺と一緒や。曾祖母さんらは人間爆弾にするために・・・そんなもんにするために生んだんやないで。ワシかて娘生まれた時どんだけ嬉しかったことか。守ったらな、成長未届けなて思うたで。せやのに息子が、弟が生まれた言うて喜んどったじいさんら家族は、それを知った時どんな思いやったかと思うたら悔しいわ悲しいわ腹が立つわやで。戦争は【昔の話】で終わらせたらアカンのや。他所の国ではずっと戦争しとる。戦争のない日本に生まれて良かったて思たこと何回もあるけど、平和ボケしとったらアカン。どこでまた変な考えの人間が現れるかわからん。何かせえいうことやないねん。そういうもんを止めるんにも、繰り返さへんようにするんにもこういうことを知っとる人間が一人でも多くおらなて思うんや。

 あるはずのこともなかったことになってしまうんやさかいな。

 じいさんも戦争で死んどったらワシは確実に生まれてこんかった。そう思うたら不思議やわ。

 中にはな、暴走族の特攻で走っとるもんを戦争の名残やいうもんがおるんや。バイクのうるさい音は戦闘機のプロペラの音の変わり、特攻隊員の無念を晴らす変わりに走っとるいうてな。そんなわけあるかい、あんなもんと一緒にせんとってくれや。暴走族はそんなもん欠片も思てへんわ。かっこ悪うてダサいのに、かっこいいて勘違いして、ただ粋がって走ってるだけや。周りがダサイて思うてることに気づいてへんのや。そんなことに気づかへんあいつらはただのアホの団体やで。なぁ、そう思うやろ。

 そうや、オカンの名前〈真澄〉いうんやけどな、じいさん海軍やってその軍歌からつけたしいわ。曲は知らんのやけどな『燃ゆる敵機は 炎と化して 真澄の空に 墨絵をえがく』いうて二番目の歌詞なんや。その真澄からとったらしいわ。オカンの弟の名前も船に因んだ名前で、〈艇史〉いうんや。戦争が終わってから何年もたっとったけど、じいさんの中では終わってへんかったんやろな、死ぬまでそおやったんかもしれへん。

 どっかに戦争をよぉ知っとるジュンネンの人おるんやろうな・・・まあ、その小説に出会わんかったら、こんなこと考えたりもせんかった。めちゃくちゃおもろいやんて言える小説はなんぼでもあるけど、考えさせられる小説は後にも先にもその一冊だけやな。どうや、読んでみるか?何かが変わるかもやで。」


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