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2048年 再会

 親よりも先に逝くのは、一番の親不孝。 

 そう思う。

 けれど子供からすると、自分よりも親に先に逝かれるというのも同じようにつらく想像し難いこと。

 胸を苦しいほどに締め付けられ、どこまでもいつまでも込み上げる悲しみは誰も味わいたくない。

 自分より生きてほしいと願う。 

 けれど、自然の摂理からするとそうもいかない。     

 人は生きるために生まれて、生きるために歩み続ける。

 そして順番に還っていく。

 けれど、もし自分だけがずっと取り残されていくとしたら・・・家族や友人たちが、自分だけを置いていなくなっていったら・・・。



 冷たい風が頬を撫でると同時に霊柩車が最後の挨拶と、甲高く長いクラクションを鳴らした。

 それを合図に、周りの嗚咽も大きくなる。

 僕は、その群れから離れて同級生、森井を見送った。

 六十七歳だった。

 参列者も同世代ばかりで、若いといえるのは孫らしい小さな子どもたちだけだ。

 三カ月前、働いてる花屋のオーナーの見舞いに行った病院で、昔の知り合いに似ていると声をかけられた。それが森井との数十年ぶりの再会のきっかけだった。

 昔の同級生に会えたのに早すぎる別れ。

 霊柩車はとっくに見えなくなって、参列者もまばらになり始めていた。

 拳に握り締めていた手がかじかんでいる。もういいかなと、パンツのポケットに手を突っ込んだ。

 帰ろう、そう思って寺院に背を向けた時だった。

「よお、アンタ・・・よお・・・」

 僕から少し離れて正面に立つ老人が話しかけてきた。

「は?」

誰だ?記憶にない顔だ。

「奥井やろ?」

「え?」

「奥井佑人、二月二九日生まれ。あー、今の見た目は・・・一八歳くらいか?ホンマは七十六歳やろ」

 正解。

 名前も、誕生日も、年齢も、そして・・・本当の年齢も。

 僕のことを知っているということは昔の知り合いか?

 老人をじっと見つめて観察した。けれど、全く記憶にない。

 もし、子供の頃の知り合いだと見た目はすっかり変わっているからわからないだろう。

「よー見ても、わからんやろ。お前の知っとる頃のわしとは、年を取り過ぎとるからな。」

「はあ・・・」

「川田や、川田哲司。お前さんが小学一年の時に会うた。」

「小一の時・・」

だめだ、思い出せない。

「まあ、なかなか思いだせへんやろなー。五十年近くたっとるからなー」

「森井の知り合いですか?」

「ああ、そうや。立ち話もなんやから、茶ぁでも飲まへんか?」

そう言って川田という老人は歩きだした。思い出すことはできないけれど、とりあえず後を着いて行った。

高羽町の4丁目の方へ歩いた公園近くにあるスイーツ店に入って行く。

「おー、空いとるわ。」

 僕は入り口で少しためらったものの、結局入っていき、座る川田さんの向い側に座った。

 川田さんの年齢が入るにはかわいい店だなー。

 少ししか席がなく、主にテイクアウトのようだ。

 ケーキもあったけれどコーヒーだけを頼み、運ばれてくるまで僕は黙ったまま考えていた。

 知らない人間の後をついて行くなんて、なんて無防備なことをしているんだろう。

 何十年も昔ならともかく、今の世の中は大人でも一人で歩くのは安全とは言えない。

 コーヒーが運ばれてきた。

 僕はミルクだけ入れて、少し冷めるのを待った。そして、正面に座る川田老人を見る。

「何や、まだ思い出せんへのか?寂しいのー。まあ、そらそうか。わしらと違ってお前はもっと大勢のもんと会うとるもんのお。」

 確かに僕は、年齢の割に同級生や知り合ってきた人数が、どの学年の時もみんなより多い。

 その原因は、閏年の二月二十九日生まれにある。

二月二九日生まれの者は、その暦通り四年に一回しか年を取らない。

 ゆえにその日に生れた僕は、本来なら七十三歳になっているところだけれど、まだ一八歳にしか成長していない。

 僕は保育園に八年通った。森井はそのうちの一年だけの同級生だった。

 黙っていると、川田老人が話だした。

「森井は、大学の時の後輩やったんや。まさか、病気で先に逝ってまうなんてなー。見舞いに行った時に、お前のこと聞いたんや。そんで聞いたことある名前やなー思てな。」

 川田哲司はコーヒーを一口飲んでコップを置き、両手で真っ白な髪をかき分け、僕に見えるよう頭を傾けた。

 そこには、何十年という年月をえたと思える古い大きな傷があった。

 僕は、飲もうと持っていたコーヒーカップをゆっくりと下ろし傷を見つめた。

 デジャブの感覚が起こった。

 その傷には見覚えがある。

 どこかで・・・。

 そう、昔、僕が子供の頃に・・・。

 そして僕の記憶は、ゆっくり何十年と遡っていく。



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