第六十一話
「うわっわっわぁぁ!!?」
「頑張ってよ、マジで。アンタがチカラ抜けば、死ぬのは私の方なんだから」
マスコットは、飛べる。
それは間違いではない。だが、まだ魔法少女ではないニアスは知らなかった。
魔法には体力を消耗し、マスコットもそれは例外でないことを。
「ふにぃぃぃ!!」
「あー…………死ぬ? 私」
「に、いいいぃぃぃ!!」
パタパタと、手の平からはみ出した両足を動かしながら、なんとか落下する。
その速度は落ちてはいるが、それでもまだ速い。
加速に対して、減速が間に合っていない。
「しかない…………もっと壁に近寄れない?」
「っ!…………くぅぅぅ!!」
その無理なオーダーに、なんとかカステムは答える。
代わりに余計な体力を消費した為か、加速はさらに進んでしまう。
だが、ニアスにとっては問題ない。
ニアスは自身の右足を、マンションのベランダの方へ差し出した。
ガン! と言う無機質な音と共に上に弾かれるも、即座に元の位置に戻して、またガン! と弾かれる。
その、繰り返し。
右足を犠牲にした、落下のブレーキ。
やがて速度は落ち切り、ニアスは地面にふわりと着地した。
「はぁ、はぁ…………その足、大丈夫?」
「うーん。骨にヒビ、ぐらいの軽傷だけど、それより靴がやばいかも」
骨にヒビが入ることを軽傷、とニアスは考える。後のことを考えると怖いが、痛みを我慢すれば走れる。だが、靴へのダメージは甚大であった。
擦られた時に焼けついたのか、ところどころ溶けて、靴紐も一部ちぎれている。底面と側面の接合が外れ、靴としてのフォルムを崩している。
逆に、靴がダメージを守ってくれたからこそ、骨にヒビ程度のダメージですんだ、とも言える。
「おぉ、本当に怖いな」
上を、見上げると。炎羅はこちらをじっと見下ろしていた。
睨みつけているのではない、監視しているのだ。
その証拠に、その目にはなんの感情も見受けられず、片手には携帯電話のような物まで見える。
何か、指示を出している。
おそらく、部下を使ってニアスを追い詰める算段なのだろう。
「しょうがないな」
多分、ここに何人来ようと捕まることはない。けど、物理的に退路を断たれれば、突破には時間がかかる。
そうすれば、炎羅は降りてきてニアスを捕まえてしまうだろう。
今度こそ、詰む。ニアスは深くため息をついて、カステムと向き合った。
「カステム…………だっけ?」
「! そ、そう! これ何がどうなって…………」
「説明は後でするから…………取り敢えず、なるよ」
「え?」
「なるよ、魔法少女」
「…………本当? なりたくないんじゃないの?」
「なりたくはない。けど、今は魔法少女のチカラがいる」
「…………ごめんなさい」
「押しかけみたいなことをする癖に、ちゃんと謝るんだ」
「私たちだってこんなこと……いえ、始めましょう、『契約』を」
ちょこん、と。カステムが小さな手をニアスに差し出す。
ニアスはその手を握り締めた。
「究極魔法『機構』起動 マスコット権限による契約承認を要請 承認」
虚空に、白い光と共に物体が現出する。
それは2枚のカード。そして魔法のステッキ。
オーソドックスな杖型とは違う、落ち着いた、可愛らしいタイプのピアス型ステッキ
ピアス型?
ニアスの額を汗が伝う。
「私、ピアス付けたことないんだけど」
予想外の危機が訪れた。




