プロローグ:俺の妹になってくれ!!
「…………。」
(今日は少し、冷えるな。)
放課後。学園の屋上にてフェンス越しに夕日を眺めながら、鬼囲 才馬は秋風に吹かれ、その時を待っていた。
遠目から見ても、今の彼は絵に成っている。クールな印象と少し鋭い目付きがワイルドと好評な、自他共に認める二枚目である才馬は、制服の上着がまるでマントの様に風でたなびき、夕暮れをバックにした効果により、現在顔面偏差値が更に五割増しになっていた。
特に、今ここで待ち合わせている人物がそう言った『ちょい俺様系』好きである可能性が高い事を考えれば、その効果は計り知れない。
そう、彼は今、ここで『とある人物』を待っていた。
ギィ……
「……来たか。」
屋上の、あまり立て付けの良くない鉄の扉が開く。その音に、フェンスを掴んでいた手を外し、才馬はゆっくりとその方向を振り向いた。
そこには、思っていた通りの待ち人が立っている。
「……あっ……お、鬼囲君っ。ゴメンね、ま、待たせちゃったかな?」
「いや、気にしないでくれ。今来たところだ。」
「う、うん。」
本当は三十分前から待機していたのだが、こういう時の返答対応は完璧に予習済みだった。
この時の為に恋愛指南書とやらを大量に暗記し、脳内シミュレーションを一日三セット、三日間行った。
今の才馬であれば、今この場に重武装のテロリストが乱入して来ても無傷で制圧可能である。それ以下であれば何の問題にもならないだろう。
「……そ、それで、手紙読んで来たんだけど……どうしたの? いきなり呼び出して。」
「ああ、まずは依望、突然手紙で呼び出してしまって済まなかった。こういうのは面と向かって直接言うのが礼儀と聞いたんだ。」
「う、うん、別に良いよ。私も……め、メールとかより直接の方が良いっていうか……。」
「そうか、やはりな。」
思わずニヤリと歪みそうになる表情を抑える。どうやらバイブルである恋愛指南書の効果は出ているらしい。事実目の前にいる同級生の少女、依望 燈子には好印象の様だ。今日彼女を呼び出す際に書いた手紙でも、その指南書にはかなり世話になった。
才馬は現状上手くいっている事実には満足しながらも、更に相手の状態を詳しく知る為に観察を怠らない。
茶髪をサイドテールにした小柄な体格の彼女は、ともすれば中学生……下手をすれば小学生にも見えるくらいの小柄さだが、それに見合わずスタイルが良い、れっきとした同級生である。
同級生だから当然制服を着ていて、最近衣替えをしたばかりの冬服が夕日に照らされて赤く染まっていた。
その表情にも赤みが差しているように見えるのは、夕日のせいか、それとも別の要因か……何にせよ、期は熟したと言った所だろう。
「早速だが本題だ。今日わざわざ屋上に呼び出したのは他でもない。依望燈子、君に大事な話があるんだ。」
「う、うんっ!! そうだよね、これやっぱそうだよねっ!? あ、あははっ……えっと……ど、どんな話……かな?」
「ああ。まどろっこしいのは嫌いでな、単刀直入に言うぞ。」
「……は、はいっ。」
才馬の言葉を聞いて、燈子が眼を閉じて小さく呟く。まるで大好きなオーケストラの演奏を待ちわびる観客のように、その言葉に聞き入るように眼を閉じた。
完璧なシチュエーションだった。恋愛指南書『今日からリア充』を元にしたシミュレーションパターン101番の確定パターン。
才馬は勝利を確信しつつ、キメの台詞を口にした。
「依望燈子、俺の妹になってくれっ! 俺はお前に『お兄ちゃん』と呼ばれたいんだっ!!」
「は! ……い………はっ?」
「なんだ、聞こえなかったのか? 依望、俺の妹になってくれ。俺はお前にどうしても『お兄ちゃん』と呼んで欲しっ」
パシーンッ!!
そしてその音は高らかに、秋の空へと響き渡った。
紅葉舞う秋の夕暮れ、新たな深紅の紅葉が、才馬の頬に舞い降りる。
これは、ただひたすら欲望のままに妹を求め続けた一人の男と、
ただひたすら自分の想いを貫き続けた一人の純情乙女の、
好意で好意を洗う、本気の恋の物語。
………かなあ?




