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異世界という名の死後の世界  作者: ヒコ
二章 鬼神襲来編
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第九幕 東条晴哉vs茨木童子


俺は心のどこかでどうせ勝てるだろうと思っていた。

幹部と言われたゴードンでさえ、俺の敵ではなかった。

だから、茨木童子も倒せると舞い上がっていたのかもしれない。

しかし、茨木童子の一撃を食らってそれは疑問へと変わる。


勝てるのか...こいつに...?


晴哉と茨木童子は避けることなく真っ向から互いの一撃を受け、そのまま二人は後方へと飛ばされる。

その衝撃により、互いの姿は瓦礫の砂埃で完全に隠れる。

この状況で迂闊に攻撃すれば、自分の居場所を知られ、返り討ちを食らってしまうから、砂埃が晴れるまでそこから動く訳にはいかない。

しかし、今の晴哉の集中力は想像以上に乱れている。

その理由は茨木童子ほどの強さと戦ったことがないという強敵による焦りだった。

そうこうしている内に砂埃が晴れていく。

晴哉はすぐさま向かい打つ体勢に入るが、そこに茨木童子の姿はなかった。


「どこだ!?」


晴哉は右、左と視線を移動し、後方も確認しようとしたが、


「ちょーっと気づくのが遅かったねー」


先手を取られた。

既に茨木童子は晴哉の背後ーーー。

さらに、彼女はガラ空きになっている晴哉の背中に容赦ない正拳を叩き込む。


「ぐはっ....!!」


あの身体のどこにそんな力が......

重い、背中の感覚が逝ってしまう程に。

だが、これぐらいで白旗上げる訳にはいかねんだよ。

晴哉は痛烈な痛みに耐え、その場に踏ん張る。


「へー、意外とやるねー、普通の人間なら今ので立つことが出来ないのにー」


「なめんなよ」


次はこちらの番だ。

晴哉は右拳を握り、茨木童子の顔面へ放つ。

正直この攻撃は避けられると思い、次の手も考えていた。

しかし、茨木童子は避けるどころかその場から全く動かなかった。

そのおかげで、晴哉の拳は彼女の顔面にクリーンヒットし、


「うっ」


茨木童子は地面は裂き、後ずさる。

まだだ、まだ攻撃の手を緩めてはいけない。

茨木童子に食らったあの一撃は思った以上にダメージが大きい。

あんなのを何回か食らえば身体が壊れる。

これ以上攻撃を食らわないためには彼女に攻撃する暇を与えないことだ。


「そんな焦らないでよー、まだ始まったばっかなんだしー」


迫り来る晴哉を茨木童子は何の構えもなく待ち受ける。


晴哉と茨木童子の距離は5メートルーーー。


迫るにつれ、晴哉が視認出来る彼女の全体図が狭くなる。

しかし、それは茨木童子も同じだ。

また、茨木童子は殴りかかろうとする晴哉の拳に集中しているので、下半身には何の注意も払っていない。

晴哉はそれを狙い、足元にある石ころを彼女に向かって蹴り上げる。


晴哉と茨木童子の距離は2メートルーーー。


どれだけ反射神経が良くても、避けるのは至難の技。

しかし、相手は茨木童子だ。

避けられてもおかしくはない。


「うぇ!?」


案の定、晴哉の考えは当たった。

茨木童子は突然に眼前に現れた石ころに驚き変な声が出すが、それでも紙一重で避ける。

しかし、晴哉の本当の狙いはそこじゃない。


「がら空きだ」


晴哉は無防備となった茨木童子の腹に助走を加えた正拳を打つける。


「ーーーーーカハッ...」


茨木童子は後方の建物まで飛ばされる。


「どうだ...?」


今のはかなり強く打ち込んだ。

これで倒せるなんて思わないが、少しは効いていてほしい。


「いい一撃だねー」


しかし、晴哉の願いは虚しく茨木童子は何事もなかったかのように瓦礫から悠々と姿を現す。


「化け物かよ、くそ...」


思わず口から怒気が漏れる。

生前は俺も化け物だなんだと散々言われてきたが、この女はマジもんの化け物だ。

だけど、それは負けていい理由にはならない。


晴哉と茨木童子は互いに距離を詰め、両者の拳が衝突する。

ビリビリと空気が振動し、2人は後方へ僅かに下がる。


「......」


「......」


数秒の間、お互い口を閉ざしたままだった。

その数秒は外的な音はなく、辺りは静まり返っていた。

晴哉は生まれつき鋭い目つきをさらに鋭くし、茨木童子は睨みつける。

しかし一方で、茨木童子は不適な笑みを浮かべていた。


「ここまでやるとは思ってなかったよー、正直君のこと甘く見てた。でも、私を倒すことはできないよ」


茨木童子の言う通りかもしれない。

晴哉は彼女に数発の攻撃を本気で打ち込んだにもかかわらず、彼女はこうしてピンピンしている。


「あ?勝手に決めんなよ。俺はてめぇを倒せると思ってる」


口ではそう言うが、実際のところ倒せる見込みなんてない。

単に強がりを言っているだけだ。


「へぇ、そっか〜」


茨木童子は晴哉との距離を詰める。


「じゃあ、ここから待ったなしだよ〜」


茨木童子の拳が俺の顔に迫り来る。

これは避けれない。

いや、避けなくていい。


晴哉は茨木童子の拳を諸に受けるーーー。


「うっ...!あぁぁぁ!!」


「ぐっ!」


仕返しと言わんばかりに晴哉は茨木童子の顔に拳を打ち込む。

確かに彼女はタフで、晴哉の攻撃などまるで効いていない。

いや、そう見えるだけでこれまでのダメージは蓄積しているのかもしれない。

諦めるのはまだ早い。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


両者一歩も引かない攻防戦ーーー。

いや、攻防戦と言いがたい戦況だ。

防御や回避は一切なく、互いの攻撃を全て受け切るという単純な耐久戦ーーー。

ただ、こんな戦い方は間違いなく晴哉に分が悪い。

その証拠に時間が経つにつれ、晴哉の連打数が最初と比べ、確実に減っている。


そして遂にーーー、


「ごっ......」


力尽きた晴哉はその場で膝をつく。


「どう?わかったー?あたしと君との力の差を」


そんなことはもうとっくにわかってる。

だから、俺はその差を埋めるために死に物狂いで攻撃を続けた。

その甲斐あって、茨木童子は僅かであるが、息が乱れていた。

それは俺に僅かな勝利の芽を見せてくれる。


「っは、力の差?それを知って俺が諦めると思ったか?」


晴哉は膝に手を置き、よろめきながらも立ち上がる。


「......さっきの君とあの女との会話を聞いた感じだと君ってこの街の住人ではないよねー?」


唐突に茨木童子はそんなことを聞いてきた。


「そうだが」


「なんでこの街のために戦うのー?」


茨木童子は首を傾げ、疑問をぶつけてくる。


「別にこの街のためじゃねーよ」


「じゃあ、なんでー?」


「単純にてめぇら鬼が気に食わねえからだ。それ以外の理由はねえ」


「気に食わない、か。それだけであたしたちに楯突いたってわけねー。君って馬鹿なのー?」


「ああ、否定はしねえよ」


自覚はある。

俺はその場の勢いだけで行動することが多く、それが例え自分に損なことだとわかっていても行動してしまう。

しかし、後悔はした事がない。


「さて、俺もてめぇに聞きたいことがある。1年前にてめえらがこの街を壊滅させたことは聞いた。でもなんで、今になってまたこの街にやって来た?一体何が目的なんだ」


他の鬼に聞くより、彼らの支柱である茨木童子に聞いた方が確実な情報を引き出せる。

しかし、それは彼女が素直に喋ってくれたらの話だが......

まず、茨木童子が俺に言う可能性は低い。

デメリットがあるかないかは別として、メリットはない。


しかし、茨木童子は少し悩んだ後「うん」と頷き、


「わかった、教えてあげるー」


あっさり晴哉の質問に答えることを承諾した。


「君が答えてあたしが答えないのは不公平だからねー。まず、この街に来て人間をアジトに連れて行ったのはある者の命令よ」


「ある者?酒呑童子か?」


「違うよー、酒呑はそんなことする人じゃないし」


「なら、一体誰なんだ......?」


茨木童子の強さと先程の鬼共の態度から、彼女は鬼の中でも1、2を誇る実力者だろう。

その彼女に命令できるのは酒呑童子以外考えられない。


「それは言えないなー。名は言うなと相槌を打たれてるからねー」


「......名は言えないってか。じゃあ、連れ去った人々をどうするつもりだ?」


晴哉が本来聞きたいのはそれだ。

殺すのが目的なら、わざわざ鬼のアジトに連れて行く必要はない。

最も可能性が高いのは奴隷として扱われているということだ。


しかし、返ってきたのは晴哉の予想とは全く違う...というより真っ先に除外していた可能性が彼女の口から漏れる。


「殺す、ただそれだけだよー」


「は?」


殺す、だと...?

わざわざ自分らのアジトに連れてまでしてその目的が殺すため?

意図がわからない。

晴哉は彼女の話を聞いて謎が深まる一方だ。


「まあ、殺すのはあたしじゃないけどねー。それに殺すのとは違うっていうか......いや、これ以上はやめておこっか!」


「......結局何一つ明確なことは教えてくれないか。だったらてめえを倒して何もかも白状させてやる」


「まだ、私を倒せる気でいるの?呆れを通り越して苛立ちさえ覚えてくるんだけどー」


「負けると思ってしまえば勝てるものも勝てなくなる。それに少なくともてめえに勝てる可能性はゼロではない。俺はその僅かな可能性に賭けるだけだ」


「は〜、随分とまあ舐められたもんだね。加減したらすぐ調子乗る」


茨木童子の口から聞き逃せない単語が晴哉の耳に入る。

は...?こいつ今なんて言った......?

加減していた......ってことは今までのは本気じゃなかったってことなのか...?


縋っていた僅かな可能性が消えていく。


「もう、ここからは加減なし。本気でいくよ」


茨木童子がそう言った瞬間空気が重くなり、異様な熱気が彼女の周辺を漂う。

それに今まで彼女とは雰囲気がガラッと変わっていた。

恐らくこれが茨木童子の本来の姿なのだろう。


「やるしかない...か」


勝てる可能性がゼロになった晴哉。

しかし、絶望などしていない。

これまで経験した絶望に比べればこの程度なんて事はない。

可能性がゼロなら、少しでも上がるよう考えて考えて、考え尽くせ!


「それじゃ、いくよ。あっさり殺られちゃ駄目だかんね」


「簡単に殺られてたまるかよ」


ここから、晴哉vs茨木童子の第2戦が幕を開ける。

しかし、晴哉は知ることとなる。

茨木童子の圧倒的強さをーーー。


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