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聖女の姉は聖女を騙る  作者: 原々


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1/5

プロローグ


「……ここ、間違いなく『花牢の聖女と三つの誓い』の世界だよね……。」


 目覚めた後、自室に1人きりかどうか辺りを見回して、嘆息する。

 ファンタジー作品のお姫様が寝ているような、天蓋付きのベッド。見覚えのある城の内装。そして、記憶よりも幾分か小さく感じる手足。

 

 どうやら自分は、前世でやり込んでいた乙女ゲームの世界の中に転生してしまったらしい。

 

 前世の記憶は、そこまで特別な人生、ってわけでもなかった。

 ただ、元々病弱で入院しがちだった私は、入院中の暇つぶしに、と与えられたゲーム機で、乙女ゲームにどハマり。


 様々なタイトルを遊んだ中でも、特にやり込んでいたのが『花牢の聖女と三つの誓い』だったのだ。

 前世の死因については、まあ、何とか社会人になっても幼い頃からの虚弱が治らず、ある冬にインフルエンザを拗らせてそのまま――という流れだ。

 入退院を繰り返した挙句にインフルエンザで早死になんて、両親には迷惑をかけただろうな、とちょっと申し訳なく思う。


 それはともかく、イザベル・デ・オルティッツ――名門貴族オルティッツ公爵家の一人娘、10歳。それが、この世界で生まれてから今までの「私」だった。

 だが、今はもう一人娘ではない。

 

 ロサ・デ・オルティッツ――このゲームの主人公であり、いずれ「花の聖女」と呼ばれる少女であり、生まれたばかりの妹。彼女の誕生により、私は2つの人生を通しても初めて「お姉ちゃん」という存在になった。

 

 そう、今日は母子共に容態も落ち着いているからと、初めて妹と対面することになっていた。

 会うまでは、この年の離れた妹について、ワクワクやドキドキ、また子どもらしく両親の愛情を取られるのではないかという一抹の不安を抱えていた、と思う。


 しかし「妹」の姿を目にした瞬間――私には、短命とはいえそれなりの量の前世の記憶が流れ込んできて――意識を失ってしまった。


 そして今に至る、というわけである。

 これは困ったな、とぼやく。自分が死んだという記憶はもちろんショックだったが――正直、「イザベル」としてそれなりの年月を生きてきた私には、ピンと来ないところもあった。


 困るのは、前世の記憶から分かるこの世界の未来だ。

よりにもよってこのゲームは、主人公や攻略対象が死んだり、なかなか酷い目に遭ったりするのが日常茶飯事レベルの、R-18指定の乙女ゲームだったのだ。


「な、何とかして平穏に暮らさないと……」

 そんなゴタゴタに巻き込まれて死ぬのも、それより酷い目に遭うのも御免だ。

 幸運なことに、私――「イザベル」は主人公の姉でこそあるが完全なサブキャラであり、全滅エンド以外では中盤で他国に嫁いでフェードアウトするキャラクターだ。

「とりあえず、全滅エンドにさえならなければ安全に暮らしていけそう……かな……多分」


「――ああ!お嬢様、目を覚まされたんですね!」

 水差しを持って部屋に入ってきたメイドが、素っ頓狂な声を上げる。

 

 それを聞くやいなや、今世での私の父親――コルデス・デ・オルティッツ――が、部屋に飛び込んできた。


「イザベル!ああ、かわいいイザベル――大丈夫かい?どこか具合の悪い所は?」

 顔を真っ青にして聞かれる。病弱だった前世と違い、今世では大した病気もせずにすくすくと育っていたはずだ。

 そんな娘が倒れるというのは明らかに異常で、父親がこれだけ焦るのも無理はない。

 そういえば、前世の両親も、体調を崩す度にこうして心配してくれていたっけ……。

 まったく前世も今世も、親には恵まれているらしい。


「私は大丈夫です、お父様。さっきは少し……そう、昨日寝付きが悪くて、あまり眠れなくて。それで少し貧血になっただけだよ。」

 平静を装い、応える。ここで前世なんかの話をしたら、気絶した時の打ちどころが悪かったのかと余計な心配をかけること間違いなし、だ。秘するが花、ということにしておく。


「そうか……それなら良いんだが。まだ体調が優れないだろう、今日は寝ていなさい。ロサにはまた別の日に会うことにしよう。」

 お父様の言葉に、大事なことを思い出す。

 妹。ロサ。主人公との初対面が、途中で終わっていたのだった。


「……いえ、お父様。私、今日ロサに会ってみたいです!体調はもうすっかり元気ですから!」

 正規ルートでは、イザベルはロサと生まれたその日に顔を合わせているはずだ。序盤にそんな回想シーンあったし。

 ここで主人公に会う、会わないで妙に今後の展開が変わってしまうと困る。

 正直、ここまで幼少期のことが今後に影響してくるとは思えないが……念には念を入れておきたい。


 その後もお父様は何やかんやと休ませようとしてきたが、何とかごね倒し、面会の時間を設けてもらうことができた。


 お父様と共にお母様の居室に戻る。お母様は幾分か疲れが見えたが、私の姿を見るとベッドの上から優しく迎え入れてくれた。


「――イザベル、さっきは急に倒れてどうしたの?もうびっくりして、私の心臓が止まるかと思ったわ……」

「……ごめんなさい、ちょっと貧血で」

「まあ、謝ること無いのよ。大事ないなら良かったけれど……無理はしないでね?」


 純粋に心配をしてくれる言葉に、貧血だと嘘を付くのは凄まじい罪悪感に襲われる。別に騙してはいないし、言ったら余計心配されるだろうし……と内心で言い訳を並べてみる。

 そんな私の様子を心配そうに見つめながらも、お母様はお父様の方へと目をやった。


 既に涙ぐんでいたお父様が話しかける。

「アントワーヌ、本当によく頑張ってくれた……」

「嫌だわあなた、もう100回は言っているわよ?」

 アントワーヌ、とはお母様の名前だ。

 それにしても、相変わらずの仲睦まじさ。

 これまでは何とも思っていなかったが、なまじ20代半ば日本人の感覚がインストールされている今の自分には、いささか面映ゆさを感じさせる。


 ふと、お母様が抱きかかえている「妹」を見やった。角度のせいで顔は良く見えないが、ぐっすりと眠っているようだ。

 私の10分の1ほどしか無さそうな小さな体を見て、不思議な気持ちになる。

 ――本当にこの子が、あのゲームの主人公になるんだろうか。この、ただ健やかに眠っている子どもが――。

 

「イザベル、こちらに来て、顔を見てみなさい。」

 お父様に促されるまま、ロサの近くまで静かに歩みを進める。

 今世では初めての兄弟姉妹だし、前世でも兄しか居なかったから……自分が「お姉ちゃん」になるのは、初めてだ。少しだけ緊張する。

  

 そのまま、母の腕で安らかに眠っているロサを覗き込む。と同時に、ロサが目を覚まし、こちらを見上げる。

 いや、見えてはいないのかもしれない。――前世の記憶では、赤子の目が見えるようになるのはかなり後のはずだ。

 御託はともかく、その澄んだ碧色の瞳も、豊かな金色の巻き毛も、新生児とは思えないほど愛らしかった。


「……かわいい」

 ふと、口から思ったことが溢れた。流石は主人公、ということだろうか。生後数週間の見た目なんて、私は猿と同レベルだった自信しかない。


 そっと、指をロサの手元に差し出してみる。途端に、ぎゅっと小さな手に握られる。

 そして、確かに、ふにゃっと笑った。

 

 それを見て、私は――

「…………絶対、お姉ちゃんが守ってあげるからね……!」

 このゲームにおける過激な要素――監禁・心中・殺人etc――から、絶対に妹を守るという固い決意をしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


初めて小説を書くっていうのに連載作品やろうとしてる阿呆はこちらです……お目汚しですが、皆さんの時間を少しでも楽しいものにできたら幸いです。


とりあえず完結を目指します。

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