第73話 神様ガチャ履歴書
私は正直に言おう。
神様ガチャチケットは、逆行した当初からあった。
そして私は――遠慮なく、しかし計画的に、何度も回している。
中学二年生、芸能界を駆け回るマルチタレントにして【月読計画】のテスト協力者。
秋月燈由。
現在、ガチャ累計回数は――
数えるのをやめた。
だって三桁が見えてきたから。
怖い。
◇
最初の十連(※十日分)は、ほぼ実験だった。
小学生の私は純粋だった。
一回目:体力ポーション。
二回目:経験値ポーション。
三回目:表現力+5。
四回目:空気読みスキル。
五回目:魔力回復ポーション(※魔法は使えない)。
「神様、魔力って何?」
《気分である》
「雑!」
だが、効果はあった。
転びにくくなり、喋りが滑らかになり、空気を察する子どもになった。
クラスでの立ち位置が微妙に向上。
ずるい?
ちょっとだけ。
◇
中学入学。
私立星城学園の門をくぐる朝。
私は一回回した。
“集中強化”。
結果、入学式の長い校長先生の話を最後まで聞けた。
奇跡。
◇
芸能活動が本格化してからは、ガチャ使用はより戦略的になった。
ロケ前:体力ポーション。
生放送前:表現力補正。
ダンス特番前:バランス感覚。
試験前:経験値ポーション。
私は自分で言うのもなんだが、運用がうまい。
〈最適化傾向を確認〉
イリスが淡々と評価する。
「褒めてる?」
〈事実を述べています〉
冷静。
◇
だが、事故もあった。
“魅了+25”。
過去最高値。
鎌倉駅前でのイベント。
通行人が立ち止まり、犬まで寄ってくる。
「わん!」
「犬にまで!?」
スタッフが焦る。
「距離!距離取って!」
SNSはバズる。
フォロワー急増。
だが翌日、効果切れ。
「あれ、今日は普通だね」
友人の水瀬真帆が言う。
刺さる。
私は悟った。
魅了は麻薬。
以降、控えめ運用。
◇
《白月研究棟》。
鷹宮圭介が資料を叩く。
「感情応答の深度が足りない」
私は心の中でガチャる。
“スキル:言語化能力”。
きらん。
「それって、正解を返すんじゃなくて、揺らぎを共有するってことですよね?」
沈黙。
研究員ざわり。
鷹宮圭介が頷く。
「……面白い」
イリス。
〈外部補正の可能性〉
「言うな!」
◇
しかし最近、私は考えるようになった。
私はどこまでが自分で、どこまでがガチャなのか。
例えば“自己制御”。
これは使わなかった日に自然獲得したスキルだ。
努力ボーナス。
神様がくれた。
《使わぬ勇気も評価対象》
「評価制!?」
どうやら神様はログを取っている。
怖い。
◇
ある日、私は試した。
三日間、ノーガチャ生活。
一日目。
普通に疲れる。
二日目。
普通に失敗する。
三日目。
普通に笑う。
「……あれ?」
私は気付く。
ガチャなしでも、私はちゃんとやれている。
屋上でカードを見つめる。
「依存してない?」
《自問できるなら大丈夫だ》
神様が珍しく優しい。
◇
だが大勝負の日は別だ。
全国放送の特番。
プレッシャーで胃が痛い。
私は回した。
一回目:体力ポーション。
二回目:集中強化。
三回目:表現力+10。
フルバフ。
本番、噛まない。
転ばない。
笑いも取る。
拍手。
楽屋で崩れ落ちる。
「これチートでは?」
〈努力値も高水準です〉
イリスがフォロー。
私は天井を見る。
「神様、これでいいの?」
《お前が自分を誇れるなら良い》
ずるい。
泣きそうになる。
◇
現在。
累計取得スキルは二十を超え、ポーション消費は数知れず。
だが私は知っている。
ガチャは万能じゃない。
友達との喧嘩は、自分で謝らなきゃいけない。
テストのミスは、復習しなきゃいけない。
転んだら、立つのは自分。
ガチャは立ち上がるときの湿布みたいなものだ。
万能薬じゃない。
◇
夕暮れの私立星城学園。
私は筆箱からカードを取り出す。
金色は少し擦れて、でもまだ輝いている。
「今日どうする?」
〈残り三回〉
「誘惑するな!」
私は笑う。
そしてカードを戻す。
「今日は回さない」
空が赤い。
鎌倉の海が光る。
神様の声が遠く響く。
《累計が増えても、本体はお前だ》
「うまいこと言うなあ」
青春はレベル上げ。
努力は基礎ステータス。
ガチャは補助装備。
私は三桁目前の中学生。
ちょっとだけチート。
でもちゃんと悩む。
そして今日も前に進む。
ガチャチケットは最初からあった。
何度も回した。
スキルもアイテムも山ほどもらった。
それでも――
最後に選ぶのは、秋月燈由自身だ。
明日、回すかもしれない。
回さないかもしれない。
その選択ごと、きっと経験値になるのだから。




