第74話 新人アイドルプロデュース大作戦!
私はこれまでに、何度か楽曲提供をしている。
一作目は学園ドラマの挿入歌。
二作目はバラエティ番組のエンディング。
三作目は先輩アーティストのカップリング曲。
四作目は地方フェス限定の応援ソング。
そして今回――五作目。
対象は新人アイドルグループ(全員女の子)。
場所は鎌倉にある事務所スタジオ。
私は椅子に深く座り、腕を組む。
「……五作目って、なんか急に責任重くない?」
向かいに座るのは、当然のように落ち着き払った容子さん。
芸能界の現場を知り尽くした敏腕マネージャー。
私の保護者であり、時にプロデューサーであり、時に鬼軍曹。
「重いわよ」
即答。
「軽いって言ってほしかった!」
「でもあなた、もう“新人”じゃないでしょう?」
刺さる。
確かに私は中学二年生だけど、楽曲提供に関しては五作目。
しかも前三作はそこそこ話題になった。
ネットで“秋月燈由作詞作曲”が検索ワードに出るくらい。
怖い。
◇
新人アイドルグループの名前はまだ仮称。
五人組。
センター候補は結城花音。
ダンスリーダーは高瀬美玲。
おっとりボーカル白石乃愛。
ムードメーカー篠宮理央。
最年長でまとめ役の三嶋紗良。
平均年齢十六歳。
フレッシュすぎる。
私はノートを開く。
「今回は“背伸びしない等身大”でいく」
容子さんが頷く。
「前回は少し技巧に走ったものね」
うっ。
四作目は音楽オタク心が爆発して転調三回入れた。
ダンサーが泣いた。
反省。
◇
打ち合わせ。
容子さんがホワイトボードに書く。
“ターゲット:同世代女子”
“テーマ:不安と希望の同居”
「あなたの強みは何?」
突然の問い。
「……感情をそのまま歌詞に落とせること?」
「そう。技巧は二の次」
私は深呼吸。
正直、ガチャを回せば“作曲センス+補正”は簡単に上がる。
でも今回は使わない。
五作目は、自力でいく。
◇
リハーサルスタジオ。
仮メロディを弾く。
ピアノの単音。
静かなイントロ。
結城花音が不安げに聞く。
「私たちに、合いますか?」
私は笑う。
「合わなかったら変える。あなたたちの曲だから」
容子さんが横から小声で。
「いい言い方」
「今のは素です」
本当に。
◇
問題はサビ。
私はあえて音域を少し広くした。
挑戦させたい。
でも難しい。
高瀬美玲が苦戦する。
「高い……!」
容子さんが冷静に言う。
「下げる?」
私は首を振る。
「半音だけ、上げます」
「上げるの!?」
全員驚く。
私は笑う。
「届かないギリギリが、青春っぽい」
沈黙。
容子さんがじっと見る。
「根性論じゃないわよね?」
「トレーニング前提です」
にやり。
◇
合宿は鎌倉の海沿いのスタジオ。
朝ランニング、発声、振付。
私は作曲者なのに一緒に走らされる。
「なんで!?」
容子さんが当然のように。
「体感しないと書けないでしょう」
正論。
私は海風の中で息を切らす。
五人は必死に食らいつく。
その姿を見て、私は歌詞を書き直す。
“怖くても一歩踏み出せ”
“半音上の未来へ”
……ちょっとダサい?
でも今の彼女たちには合う。
◇
レコーディング当日。
緊張で空気が張り詰める。
白石乃愛の声が震える。
私はブース越しに言う。
「完璧じゃなくていい」
容子さんが私を見る。
「あなたが言うと説得力あるわね」
「失敗してきた数なら負けません」
本当。
五作の裏にはボツ曲山盛り。
◇
トラブル発生。
機材トラブルでデータ消失寸前。
スタジオがざわつく。
私は深呼吸。
「バックアップある?」
エンジニアが青ざめる。
容子さんが冷静に指示。
「外付け確認。クラウド確認」
プロ。
数分後、データ復旧。
私は膝から崩れ落ちる。
「寿命縮んだ」
容子さんが肩を叩く。
「こういうのも含めてプロ」
重み。
◇
完成。
タイトルは『半音上の明日』。
シンプル。
新人らしい。
試聴会。
事務所スタッフが静かに聞く。
サビ。
半音上。
五人の声が重なる。
沈黙のあと、拍手。
私は息を吐く。
容子さんが小さく笑う。
「五作目、合格」
「自己採点は?」
「八十五点」
「厳しい」
「伸び代がある方が楽しいでしょう?」
確かに。
◇
帰り道、鎌倉の夜。
私は空を見上げる。
ポケットには神様ガチャチケット。
今回は回さなかった。
でも、ちゃんと作れた。
五作目。
重かった。
怖かった。
でも楽しかった。
「次は六作目か」
容子さんが隣で言う。
「もう次?」
「止まらないわよ、あなたは」
私は苦笑する。
中学二年生、マルチタレント、そして五作目の作曲家。
背伸びしすぎず、でも半音上へ。
隣には厳しくて優しい容子さん。
新人たちはこれから羽ばたく。
その背中を押せる曲を書けたなら。
私は少しだけ胸を張ってもいいのかもしれない。
五作目は革命前夜。
六作目は、きっともっと高く。




