第55話 SEIJOU NEXT
大阪城AR公開から二週間後。
星城学園の会議室に、いつもとは違う緊張が漂っていた。
机の上に並ぶのは、タブレット端末、布地サンプル、ブランドロゴ案。
壁のモニターには、新しいプロジェクト名が表示されている。
――SEIJOU NEXT。
「……これ、本気でやるのか?」
木村拓真がロゴを見つめながら呟く。
「やるよ。」
私は即答した。
大阪城で得た注目は想像以上だった。観光テック分野だけでなく、教育、地域振興、さらにはアパレル企業からも連絡が来ている。
その中の一社。
大阪府に本社を構えるデザイン会社、代表の高槻修司が持ち込んだ提案。
「テクノロジーと学園ブランドを融合させた新ラインを作らないか?」
それが、SEIJOU NEXTの始まりだった。
コンセプトは明確。
“未来を設計する学生のための機能美”。
耐久性、スマートデバイス収納、拡張ARタグ内蔵。
そして、モデルは――
「燈由がやれって言われてるぞ。」
拓真がにやりと笑う。
「断った。」
「だよな。」
私は技術責任者であって、前に立つ人間ではない。
だが。
会議室の扉が開く。
入ってきたのは佐伯美咲。
「えっと……その……私に声が……」
場が静まる。
彼女は俯きながら言った。
「モデル、やってみないかって。」
◇
数日後、撮影当日。
場所は大阪府内のスタジオビル。
高層階のガラス張りフロアからは、遠くに大阪城が見える。
ブランド第一弾のテーマは――
“過去と未来の交差”。
撮影チームの中心は、東京から招かれたフォトグラファー黒川蒼。
鋭い目をした若き実力者だ。
「光は自然光を活かす。AR投影は後処理で重ねる。」
スタッフが忙しく動く。
衣装ラックには、ネイビーとシルバーを基調にしたジャケット。
袖口に埋め込まれたNFCタグ。
裏地には星城学園のエンブレムを抽象化したパターン。
私は機材を確認する。
「AR同期テスト開始。」
『同期完了。遅延一・二秒以内。』
イリスの声が安定している。
スタジオ中央に立つ佐伯美咲。
緊張しているのがわかる。
「深呼吸して。」
私が声をかけると、彼女は小さく頷いた。
木村拓真が小声で言う。
「なんか、すげえ世界だな。」
「うん。でもやることは同じ。」
設計し、検証し、完成させる。
◇
撮影開始。
シャッター音が響く。
黒川蒼が声を飛ばす。
「目線、少し上! 未来を見る感じで!」
モニター越しに見る佐伯美咲は、普段の彼女と違う。
凛としている。
背景に、仮想で再現された戦国期の大阪城が重なる。
現代の服。
歴史の城。
そして、未来を見つめる視線。
「いい……。」
思わず呟く。
高槻修司が隣で笑う。
「ブランドは物語だ。君はもう、それを理解している。」
物語。
確かにそうだ。
星城学園から始まった挑戦。
学園祭。
大阪城。
そして今、新ブランド。
すべて一本の線で繋がっている。
◇
午後。
屋外ロケ。
場所は再び大阪城公園。
一般客の視線が集まる。
撮影許可は取得済みだが、注目度は想定以上。
「SNSライブ始めます!」
広報担当として動く近衛樹。
配信開始と同時に、コメントが流れ出す。
〈これ中学生ブランド?〉
〈かっこよすぎ〉
〈どこで買えるの〉
アクセス数が跳ね上がる。
『トラフィック急増。』
「サーバー増強。」
即座に指示。
私はタブレットを操作し、負荷を分散。
撮影は続く。
風に揺れる髪。
背後にそびえる大阪城。
夕陽が差し込み、金色に染まる。
シャッター音。
その瞬間、確信した。
これは売れる。
◇
撮影終了後。
スタジオで最終確認。
巨大モニターに映し出されるキービジュアル。
未来的なジャケットを纏った佐伯美咲。
背後に重なる戦国の大阪城。
画面下にはロゴ。
SEIJOU NEXT。
沈黙の後、黒川蒼が言う。
「これ、来るよ。」
高槻修司が腕を組む。
「全国展開も視野だな。」
私は深く息を吐く。
学園発ブランド。
だがもう、学園の枠を越え始めている。
◇
夜。
ホテルの屋上。
大阪府の夜景と、ライトアップされた大阪城。
隣に立つ佐伯美咲。
「私、ちゃんとできてた?」
「完璧。」
「ほんとに?」
「未来を見てた。」
彼女は照れ笑いを浮かべる。
その姿を見ながら、私は思う。
ブランドは服ではない。
挑戦の象徴だ。
星城学園の名を背負い、歴史と未来を繋ぐ。
その第一歩が、今日刻まれた。
『マスター、新規予約件数三千件突破。』
「……早い。」
風が吹く。
遠くで木村拓真と近衛樹が騒いでいる。
綾小路英隆は静かに夜景を見つめている。
私は空を見上げる。
次は、海外展開。
次は、世界市場。
物語は止まらない。
大阪城の天守が、まるで祝福するように輝いていた。




