異能の双子と神の宝 1
真っ白だ。
上も下も真っ白だ。
空も地面も、ただただ白い。
雪だ。
真っ白な空から雪が湧いて降ってくる。
ここは、どこ?
こう白くては上も下もわからない。
吹雪いてる。夥しい白があらゆるものを覆い隠していく。
遠く、薄っすらと見える。あれは木立か。
ああ。飛んでいるんだ。
わたしは。飛んでる。
鳥のように。
おっと、急に下がって来た。
どうも、うまく高さを保てない。
雪がはげしいせいか。
いきなり、目の前に大きな雪の塊が現れた。
ああ!ぶつかる!
塊りは大きな口を開けて目を開けた。
雪男!雪の大男だ!
ぶつかる!その衝撃を予感して思わず目をとじる。
身をかわせたのか?わたしは。
気がつくと雪をまとった大男はずっと遠くに去っていた。
大男は何かに向かって手を振っている。
何かを誰かを呼んでいる。
雪の降るなかで。
誰を?
「はーやー・・・・」「はーやー・・・」
男の声が雪の中に吸い込まれていく。
はや、、、ひこ?
巴矢彦?
そうだ、巴矢彦はどこだ。どこにいる?
「巴矢彦!!」
「珠水彦?珠水彦?」
となりに夜具を並べて寝ていた巴矢彦がいつのまにか覗き込んでいる。見慣れた寝屋の天井を背景に。
「ん、巴矢彦、いたのか、、、」
「ずっととなりで寝ているさ。俺を呼んでいたぞ。俺の夢をみていたのか?」
「夢?ああ、夢をみていた。雪が降ってた」
「雪?」
「そう、、雪の中で大きな人が誰かを呼んでいたんだ。はやー、と。それで巴矢彦を探した。夢のなかで」
巴矢彦には双子の弟、珠水彦が危うげで不安だった。
珠水彦には普通の人間にはない特徴があったからだ。
最初に気がついたのは珠水彦本人よりも、いつも傍にいる巴矢彦の方だった。
珠水彦は小さなころから花が好きだ。と、周りの大人は思っている。
だが、珠水彦が花を眺めているとき、いつも虫が周りを飛んでいる。
時折、首をかしげ、小声で独り言を言う。
「おまえ、虫の話聞けるのか?」まるで虫と話しているように見えて思わず聞いた。
「聞けないの?」不思議そうな顔で珠水彦は聞き返した。
虫たちはどんな遠くのちいさな出来事も珠水彦に運んでくる。
だから珠水彦は、邸に籠っていても誰よりもいろんなことを知っている。
知って、その小さな心に隠してきた。
もうひとつ、珠水彦には秘密がある。
それは夢をみることだ。今夜のように。
眠りに落ちて夢を誰でもみる。
人によっては夢をよく憶えている者もいる。
だが、珠水彦の夢は、ふつうの夢とは違う。
珠水彦は起きているときはただ、花の前にぼうっと立っていることがほとんどで、寝ているときは夢のなかで飛び回っている。
どこか、この世に生きていて影がうすい、気をつけて見ていないとふっと消えてしまいそうな。
そんな危うさを感じて、いつも珠水彦がたしかにいることを確かめる癖がついてしまった。
「俺は、おまえが心配だ」珠水彦の男子にしては細い肩を抱いた。ここに居る、ということを確かめたかった。
同じ姿顔を持って生まれたが、武芸に長けた巴矢彦の方が筋肉がつき、雄々しい姿に変わりつつある。
双子は幼子の時のように見分けがつかないほどではなくなってきている。
「わたしには、巴矢彦の方が心配だよ」兄の肩に顎を乗せた弟が耳元でつぶやいた。
「気づいてる?自分の異能に」
「異能?弓や太刀が得意なことか?心配することじゃないだろう?」
「鉄に淫されし者」耳元の声は脊髄を震わせるように響いた。