異能の双子と神の宝 3
巴矢彦と珠水彦が寝屋で誓い合った夜からまもなく、ふたりの成人の儀式が執り行われた。
双子が十七歳の年である。
周りの豪族たちの子息たちから比べると、幾分か遅い成人だった。
美豆良に結った髪を冠に納め、凛々しい風貌になったふたりに宰相は満足げに頷いた。
誕生の夜にふたつの星が墜ち、竜の生まれ変わりと噂された男子。それぞれに成長したものだ。
「巴矢彦、珠水彦、ふたりとも今日より大人、成人の男として、一族のために働くのだぞ」
「はい」「はい」
「巴矢彦は石上に行くがよい。石上はわれらの武器の保管庫だ。そこで兵を訓練し、強い軍をつくるのだ。
ヤマト帝国建国の戦いから時もたち戦を知らぬ若い兵もいる。古参のものからはよく学び、若き兵を育てなさい」
「はい、父上。必ず父上に満足していただける仕事を成し遂げましょう」
「珠水彦、おまえは私のもとで宰相の仕事を学ぶがよい。
われらは強い兵だけを頼みにするのではない。古来、神から授けられたもうひとつの役目がある。それをよく学んで、一族の栄えに役立つようになりなさい」
「はい」
宰相の邸で執り行われている成人の儀を、遠くからうかがう者たちがいる。
ずっと双子を追っている鳥の名を持つ黒い男たちだ。
双子の兄のほうは黒烏と呼ばれた男の言うように石上に行くことに決まった。
弟の方は志麻児の手元におくようだ。
「どうやら、長老方と宰相は手を組んだらしいな。片割れは石上に決まった。行く末は大将というわけか。物部はまた強くなるな」
「石上はこれから烏たちが見るだろう。俺らは弟のほうだ」
目が利く男は夜鷹。相棒は百舌だったか。
「あの宰相は信じられるのか?父親を裏切った男だろう?かと言って、磐王に忠心があるわけでもなさそうだ。食えない男だ」
「いろいろと事情があるのさ、俺たちは知らないほうがいい事情が」
話しながら百舌は珠水彦を見張るだけでは限りがある、と思った。なにか仕掛けるか。
「なぁ、夜鷹、宰相が長曾根を処刑して和睦したときに、磐王に献上した『十種神宝』はどこにあるか聞いたことがあるか?」
「磐王に献上したのなら磐王が持っているんだろう。先祖代々伝わってきた神宝まで差し出すとは、気前のいいことだ」
「磐王はあれの使い方を知ってはいないだろうな」
「どういうことだ?神宝は神に国を任されたという印だろう?持っていることに意味があるのではないのか?」
「あれはそういう物ではない。使えるのは速玉彦の血筋の者だけだ。物部は軍を司るだけの一族ではない。霊力の宿ったものを扱えるからこそ物部だ。」百舌はしばらく考え込んだ。
なにかひらめきそうだ。人間離れした勘のいい少年は速玉彦の孫、直系だ。不思議な物部の少年と在るべきところにない神の宝。だめだ、まだ何か足りない。
仕掛けは念入りにやらねばならない。
「また、悪だくみか?百舌。面白いことか?」
「悪だくみどころか、神の御心に沿うことだ。夜鷹、行こう。雨が近い」
先ほどまでの青空は急に湧き出た雨雲におおわれて、棲み処に急ぐ鳥たちの小さな影が低く行き交っている。
「長雨になるかもしれぬな」
百舌のつぶやきは降りだしてすぐ勢いを増した雨の音にかき消された。




