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世話である!躾はシッカリしないといけない

ちょいと主人公の過去についての描写有り。

設定は有るんですよ、設定は。

 今日も今日とて一日はやってくる。

 とある山間の岩場に特設された場所に、ドッカリと居座る全長2メートルの雛鳥……の頭の上に乗っかっている銀色のスライム。

 こちらが主人公のシノブである。


(朝だね~……)


 (さえず)る雛鳥の声を目覚まし代わりに朝を迎えるシノブ。彼のここ数日はこの場所で始まり、この場所で終わる。

 (なん)か知らんが自分に懐いているこの雛鳥の世話をする事、数日。自分から離れようとしてくれない、この雛鳥に付いていてあげなければならず、結果一日の殆どをここで過ごしている。

 唯一の例外は餌探しにこの場を離れる時だけである……夜、雛鳥が寝てる時に。起きてる間だとついてこようとするので、それ以外の時ではここを離れられない。

――と言う訳で、最近のシノブのスケジュールは、日中は雛鳥の怪我の治療と遊び相手。夜に雛鳥が寝たら餌探し()つ、自分の食事である。

……疲労を感じないスライムじゃ無かったら、とっくにぶっ倒れているに違い無いであろう。それ(ほど)までにキツイ状況なのだが、シノブはどことなく慣れた感じでこなしている。

 ちなみに、親鳥が姿を現す気配は無い……育児放棄かコラァッ!!


(カッコウの托卵とか言わないよね……)


 何だかな~、と思うシノブを他所に、雛鳥は夜の内に集めておいた餌をガツガツ食べている。

 まあ、救いなのは雑食だと言う事だろう。()さえ有れば何でも問題無いのだから。


(それじゃ、今日の診察開始~)


 シノブは器用に頭から背中の方へ移動して、折れている翼の状態を確認した後に、治癒液を塗り込む。外傷ならばすぐに効く治癒液も、内側には効き辛い。そんな訳で地道にいくしかないシノブであった。このペースでは完治はまだまだ先であろう。


(それまでこの子育ては続くのか~。まあ、こうゆうのは()()で慣れてるけどさ)


 その経験からそんなに苦でも無いのは、(さいわ)いと言えるのだろうか? 悩み所であるシノブであった。


(――うん? あ~、はいはい、食べ終わったんだね)


 雛鳥が騒がしくなった事で食事が終わった事を知るシノブ。再び頭の上に戻りヨシヨシと撫でる。雛鳥は気持ち良さそうな声で答える。


(しっかし。ホントこの子の怪我が治ったらどうしよう。どう考えてもついて来ちゃうよね)


 そうなった場合……はい、無理!

 ドワーフの所でも無理なのに、エルフの村で受け入れてくれる訳が無い。獣人の所では家畜が食われてまうわっ!


(う~~ん。親鳥の元へ何とか戻すか……今の内に(しつけ)ておくか……前者は多分無理。結局、戻ってきそうだし……(しつけ)てみるか)




   *   *   *


「「「「「…………」」」」」


 少しばかり時間が経ち昼時。差し入れを持ってきたドワーフの子供達が見たものは――


“おてっ! おすわり! じゃんぷ! まてっ!”


――(しつけ)ているシノブと、それに忠実に従っている雛鳥であった。


「「「「「…………」」」」」


 子供達は何度も目を擦ったり、互いに顔を見合わせては自分の見ているモノが現実かを確かめたりと、落ち着きが無い。

……正直、それは正しい。誰だってこんな光景見せられたら自分の目を疑う。疑って当たり前だ。あっさり認められるかっ!


“よしよし。いいこ”


 頭に乗っかって撫でるシノブ。雛鳥は嬉しそうにしている……どちらも、昨日とは少し違った光景。


「――って! ちょっと待ったぁーーーーっ!!」


 いち早く立ち直った子供が叫ぶ。それに伴って他の子供達も我に返る。


「なにやってんのさ!」

“なにって? しつけ”

「なんでさっ!」

“ひつようだから”


 言ってる事に納得出来るが、なんかオカシクないかと揃って首を傾げる子供達。

……無理もない。スライムに(しつけ)られるモンスターなんぞ見た事も聞いた事も想像した事も無いし。


「……よくできたね」


 何故か疲れた様子で話を進める子供。何かを諦めた様にも見えるが……


“このこ、けっこうあたまがいいよ”


 と、雛鳥の頭の上で撫でながら会話するシノブ。どことなく雛鳥がドヤ顔に見えるのは気の所為だろうか……


「……まあ、いいや。これ、さしいれ」

“どうも~”


 言って子供達が渡してくるのは大きな袋。雛鳥の頭の上から降りてきたシノブは、それを受け取ると雛鳥の背中側の方へ持っていく。

 袋の中身は――大量のクランチラットだったりする。シノブが先日教えたネズミ捕りのおかげで大量駆除に成功したは良いが、その後処理に困っていた所、渡りに船と、この雛鳥の餌として与えている。

……向こう側に持っていったのは子供達に見せない為。R-15な食事風景は見せられない。


「それでさ~。けがはどうなの?」

「なおるの?」

「とべるの?」

“まだまだかかるね”


 シノブに雛鳥の怪我の具合を聞く子供達……ガツガツ食ってる雛鳥は意識の外にして。


「あとどれくらい?」

“さいていでもあといっしゅうかんはかかるとおもうよ”


 大まかな見立てを告げるシノブ。裏を返せば、あと一週間はここに居る事になる。

……その後の事は考えない様にしているが……


「ふ~ん。あっ、たべおわったみたい」


 言われて雛鳥の方を向く一同……嘴の先が赤く染まってるのはスルーで。


「げんきだった~?」

「ふさふさ~♪」

「えへへ~♪」


 雛鳥に纏わりつく子供達を他所に、シノブは食べカスを片付ける。血の匂いに釣られて他のモンスターが来るかもしれないので。


(ホント、子育てって大変だね~)


 何か違うとツッこむ者はこの場には居なかった。




   *   *   *


(月が綺麗だね~)


 すっかり日も落ちた夜。明日の分の餌探しも終えたシノブは、スッカリ定位置の雛鳥の頭の上でのんびり月を眺めていた。


(…………)


 風流な景色の中。何となくシノブの心に浮かぶのは()()の記憶。普段ならば思い出す事もそうそう無いのだが、この雛鳥の世話をしている所為か、それに触発されて思い出す事が多くなっている。


(皆、元気にやってるかな~……やってるよね。あの皆だもんね。無駄な心配だね……でも、怒ってはいるだろうな~。結局、約束守れず終いだし。それが心残りではあるけど、ボクとしては仕方無いと言えるしね~……まあ、今の姿なら幾ら殴られても平気だしね。ふっふっふっ。まさか皆も、ボクがスライムになっているとは思うまい)


 内心でほくそ笑むシノブ。思えば普通とは言い難い人生だったが、それでも生きている事を実感出来る人生ではあった。こうして振り返ってみれば色々と思う事が有るが、当時の自分……いや、自分達にはそんな余裕も無く走り続けていた。その結果があの最後ならば、それは仕方無いとシノブは思う。


(皆揃ってハッピーエンド、といかないのが現実ってものだしね……至善とまでいかなくても、次善は達成出来たんだから良しとしないと)


 それに、もう思っても意味が無い。今、自分はこうして新たな人……スライム生を送っているのだから。かつて出来なかった自由気ままな生き方をしよう。


(……ただ、スライムの寿命ってどの位なんだろ?……まさか1年とか言わないよね)




   *   *   *


――そして一週間後。シノブは変わらずに雛鳥の頭の上に居た。その代わりに変わったのが……


(ーーっ!! 止まってーーっ!! 降ろしてーーっ!!)


……その雛鳥が空を飛んでいる事である。当然、雛鳥の頭の上に居るシノブも空の上。

 何でこうなってるかと言えば、怪我が治った雛鳥がいきなりシノブを乗せたまま飛び立ったからであった。シノブとしても、まさかこの子がもう跳べるとは思っていなかったので、降りるタイミングを失いそのまま……である。


(ちょっとーーっ!! いい加減戻ってーーっ!! 落ちる! 落ちるからーーっ!!)


 内心、大絶叫なシノブである。それもその筈、今シノブは雛鳥の頭にただへばり付いているだけなのだから。命綱が無いとか言うレベルでは済まない。少しでも気を抜けばあっと言う間にフリーフォール。


(だーーかーーらーーっ!!!!)


……しかも、怪我が治った事が嬉しいのか、雛鳥の軌道が半端無い。

 急上昇・急下降に宙返りやバレルロール。果てはインメルマンターンまで繰り出す始末。エース○ンバットもビックリだよ!


(しつけ)が足りなかったかーーーーっ!!!!)


……最も、やられてる方は堪ったもんじゃ無いが……

――この後。差し入れにやって来たドワーフの子供達は、調きょ……ゲフンゲフン、(しつけ)をしているシノブの姿を見て少しトラウマになってしまうのだが……シノブは気づかないままであった。

ご愛読有難うございました。


本人のモンスター図鑑はお休みです。

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