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自殺紳士  作者: かがりいずみ


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14/15

心中の娘

私には2つの秘密があるんだ。


ひとつは、私の両親のこと。

私の両親は、生活苦のため、

私が2歳のときに、一家心中を図ったんだ。


ガスが充満した部屋の中から、

私だけが運よく助け出されたの。


身寄りがなかった私は、児童養護施設に引き取られて、

里親制度に応募してきた今の両親に引き取られて、

ここまで大きくなった。


私は10歳まで、今の両親を

本当の両親だと思って暮らしていた。


きっかけは、学校で、血液型の話を聞いた時だった。

私はB型で、

『お父さん』はA型で、『お母さん』はO型だった。


なんで?と尋ねたとき、

両親は困ったように顔を見合わせて、

私に本当の両親がいること、

その方たちは亡くなってしまったこと、

そして、最後に

両親たちが、私を深く愛しているって、言ってくれた。


その時の『お父さん』が言った、

『亡くなってしまった』

という表現に、子供心に不吉なものを感じていたのを、

今でも覚えている。


私が両親の本当の死因に気づいたのは、それから程なくしてだった。


最初、両親の死因が自殺だと知ったときには、

『ふーん』というくらいにしか思っていなかった。

正直、顔も覚えていない人たちのことは、遠い遠いことのように感じられていた。


でも、成長するにつれ、

辛いことが増えてくるにつれ、

私の中で、その事実の意味が変わりはじめた。


両親が期待をしていた中学校受験に失敗したとき、

入学した中学校で、仲間はずれにあったとき、

初めての期末テストで、思うような点数が取れなかったとき、


私の心に『死』が忍び寄ってきた。

振り払っても、振り払っても、

血脈の奥から湧き上がってくる昏い気持ち。


私の中には、「自ら死を選んだ人達の血が流れている」

その思いは、まるで呪いみたい、だった。


――よく、無事で生きてこれたね…


うん…

そう、それがもうひとつの秘密。


こっちはもっと不思議で、もしかしたら信じてもらえないかもしれないけど…。


私には『文通相手』がいたの。

残っている一番古い手紙は多分小学校5年生のときのものだった。


整った字で、

『つらくなると、死んじゃいたいって思うことはだれでもあるよ』

『でもね、ぼくは君に死んでほしくなんかないんだ』

『手紙をくれてありがとう。苦しい気持ちを話してくれてありがとう』

そんな事が書いてあった。


当時の私は、お友達に絶交されて悩んでいたみたい。

『文通相手』の人は、私の気持ちを分かるよって言ってくれていたみたいだった。


――その人って誰?


うん…そう聞くよね?

でもね、不思議なんだけど、すごくよく知ってるようで、

でも、名前も顔もわからないの


――どうやって、手紙を送っていたの?


うーん…それも不思議で、

家の郵便受けに、私が手紙を入れておくの

そうすると、その手紙がなくなっていて、

しばらくしたら、返事が来るの。


お母さんが、お返事きたわよ

って教えてくれるときもあるから、


『誰が持ってきてくれているの?』

って一度聞いたことがあるんだけど


お母さんは、うーん、て、ちょっと考えて

あら誰だったかしらって。


だから、知らない人と、私、『文通』してたの


手紙はいっぱいある。

私が辛いとき、なんども、なんども

その手紙には、『こうすればいいよ』とか『こうしなよ』

みたいなことは滅多に書かれていなかったし、

『死ぬなんて考えちゃダメだ』とか

『命を大事にしなきゃダメだ』なんてことも書かれたことはなかった。


そういう意味では、あんまり役に立たなかったかも知れない。


でもね…

いつも、最後に、こう書いてあった。


『いつでも、お手紙、待ってます

 君が困っていたら、必ず、行きます』


それが、本当に嬉しかった。

現に、大学生になって、社会人になって、引っ越しをしても、

やり方は変わったけれども、手紙のやり取りはできていたから。


本当に、不思議な話。


――結局、その人とは会えなかった?


うん…多分…


――多分?


会ったことがないはずなんだけどね。

 ぼんやりとした、イメージだけがあるの。


黒いスーツに、黒っぽいネクタイ

優しそうな目で、いつも私を見ていてくれた人

男の人だった


――男の…人?


え!?違う!違うよ!!

好きとか、そういうんじゃなくて、

どっちかというとホラーじゃない?!


でもね、ひとつ言えること、

 あの手紙、役に立たなかったけれども、

 あれがなかったら、私は、きっと、ここまで来れなかった。


あなたにも、出会えなかった。


うん、そうね。

こんな、変なところがある娘だけど

ねえ、『あなた』…


 明日から、私のこと、末永くよろしく、お願いします、

ね?

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