第1話 王都のショップ店員
「いらっしゃいませー」
ここは王都のメインストリートからは2〜3本奥に入った、一等地とまではいかないけど立地もいい比較的大きなお店だ。
各種マネキンに色とりどりの水着が着せられた、そんなお店で私は接客をしている。
店内には平積みされた水着は一着もなく、すべてマネキンが着用してディスプレイされている。
その理由は、店長がセクシーな水着が大好きという趣味的な面も大きいが、どれもこれも一点物というのが主な理由だ。
そしてどの水着も、目玉が飛び出るほどの金額ばかりだ。
「うっ、さすがに世界一の腕と言われるだけある。値段も高いな」
今も店内を物色しているカップルらしき客がその値札を見て、目を剥いている。
とはいえそれを見た瞬間に回れ右して帰るわけではないので、恐らく稼ぎも一流なAランク以上の冒険者たちなんだろう。
だけどこれらの水着がとても高価な理由は、王都が誇る超一流デザイナーのだから……というわけではない。
その前にまず、ここは水着屋ではない。
「物理軽減:A 魔法軽減:A 耐久性能:A 耐風&温度調整機能付きか。そして価格は金貨12,000枚。むむむ、だがこの最高クラスの性能に加えて……」
男性客が値札の横の説明書きを見てそう呟くと、横にいる美人な彼女さんの方――その魅力的なボディラインをじっと見ていた。その視線を感じた彼女さんの方が、その男性の視線から自らのカラダを隠すように胸の前で両腕を交差する。
「えっ、私にこれを着ろってこと?
ムリムリムリ、こんなの恥ずかしすぎるわよ。第一こんな布切れ1枚で魔物の攻撃から身を守れるわけないじゃない」
うんうん、私もそう思います。貴女の言っていることは概ね正しい。
ただ、残念なことにその発言には1点だけ誤りがある。
うちのマスターはビキニが大好きな変態だけど、その付与魔術の腕は確かで――いやむしろ不世出と言えるレベルの天才だ。
世界一の名工が打ったプレートメイルアーマーよりも、古代遺跡から発見されたどんな魔法鎧よりも、うちのマスターが防御性能を付与した、こんな布切れとしか思えないビキニアーマーの方が防御性能が高いのだ。
「でもよ、パティ。これって世界一の付与魔術師の作品だぜ?」
「うそよ、ウソ!そんなの絶対にウソ!
私にこんないやらしいのを着せたいために、そんなウソを言っているんでしょう!」
古代遺跡から発見された魔法鎧なんて、性能にもよるけど最低ランクですら金貨1万枚以上はするから、金額と性能だけを比べれば絶対にこっちの方がお得だけどね。
羞恥心さえ捨てられればだけど。
「あなたたちもあなたたちよ。
こんなのにパーティー全員でお金を出し合って、金貨1万枚以上出そうなんて頭おかしいでしょ!もし私にその1万枚の金貨をくれるなら、他の良い鎧を別で買って、裸くらいいくらでも見せてあげるわよ!」
「……え、ほんと?」
「ううん、やっぱ無理」
私も絶対無理だと思った。
だってほんと?って言った瞬間のその男性の顔が、頬を赤らめながら鼻の下が伸びまくりで、マジでキモ過ぎなんだもん。
というかカップルかと思ったけど、ただのパーティーメンバーだったか。
それなら余計に無理だよね。
「でもさ、これ本当にすごい付与魔法の鎧なんだぜ?」
「こんなの鎧なんて言わないわよ!
なんと言おうと無理、あんたのその目が絶対無理!」
まぁそうなるよね。
でもこのままだとパティさんは、絶対に首を縦に振らないだろうなぁ。
うーん、このパティさんの見た目ならマスターも試着にOKを出すだろうし、それならそろそろいつものように私の出番か。
「お客様。このビキニアーマーは確かに見た目こそ頼りないですが、本当に素晴らしい防御性能をもっているのです。試着してその効果を体感することもできますよ」
「……あなたのようなかわいい店員さんまで、私にこんな恥ずかしいのを着せようというのね。この世は変態しかいないのかしら、世も末ね」
ははは、初対面のこんなキレイなお姉さんにいきなり変態呼ばわりされると、さすがに少し傷つくなぁ。
「でも本当にすごい防御性能なんです。話の種だと思って、一度着用してみるのもどうですか?」
「そんなに言うならあなたが着て、その効果を私に見せてよ」
「……残念ながら私には魔力がなくて、これに付与された魔法回路が動かないのです」
魔力がないのはウソだが、事情があって付与魔法が発動しないのは本当だ。
それに今までの経験上、私や他の店員が着てその性能を証明してみせても、本人の疑いは晴れないので、結局のところはパティさん自身が着るしかないのだ。
目の前のキレイなお姉さんがジト目で私を見ている。私はそれをスルーしてにっこりと笑いかけながら、展示されていたビキニアーマーを畳んでパティさんに差し出した。
――パシッ
パティさんはちょっとイライラしながら、私からひったくるように水着を奪った。
「試着室はあちらでーす」
私は満面の営業スマイルを浮かべて、パティさんに店内の奥を指さした。
……
「ねぇ、ちょっと店員さん」
数分後に試着室のカーテンから、パティさんが顔だけ出して私を呼んだ。
「はい、何でしょうか」
私は試着室に近寄ると、そのまま中に招き入れられた。
そこには大きなお胸をゆったりと包む、深い紫色のビキニアーマーをまとった美人のお姉さんがいた。深い紫色のビキニに対して、パティさんの真っ白な肌が光り輝くように眩しい。
うわぁ、パティさんってば、予想以上のナイスバディだ。
私の貧相な胸とは全然違う。思わず自分の体と何度も見比べてしまい、酷くガッカリした。
パティさんはそんな私を見て苦笑しながら
「今ならあなたが言ったこともわかるわ。ちょっと着ただけでこの付与魔術がとても素晴らしいってことも。でもあいつらにこの姿を見せるのは癪だから、ちょっとあなたが試しに攻撃してみてよ」
とナイフを手渡された。
言われるがままにそのナイフでパティさんに軽く切りつけるも、まるで石に向かって斬り付けているようだ。パティさんも自分の見立てが正しかったとうんうんうなずいている。
「でも私は所詮非力な町娘ですよ?彼らに試し斬りしてもらった方がいいのでは?」
「それはそうなんだけどね……見せるの嫌だなぁ」
「もしお買い上げいただけるなら、結局のところ彼らには毎日見られることになりますけど」
「……くっ。よりにもよって、なんでこんなのに付与するのよ。普通の鎧でいいじゃない!」
私も本当に心からそう思いますが、残念ながらビキニ以外だとマスターのやる気が出ないんです。
結局パティさんは顔を真っ赤にしながら、仲間たちに試し切りをさせた後、そのまま購入してくれた。
毎度ありー♪
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