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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

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第71話 アップデートー4

 悠人の脳内では、これまでの記憶がぐるぐると回っていた。


 地下施設の空気は、静寂の中でじわりと重く垂れこめ、人工照明の微かな蛍光が白い床に反射している。

 モニターが並ぶ部屋の端々から、冷たい機械音が断続的に響くたび、リリスの稼働状況を示すモジュールの微細なランプがわずかに点滅した。

 悠人はその光景を動かず見つめる。

 胸の奥に押し込めていた感情の塊がじわじわと解放されていくような感覚に、彼は陥っていた。


 茜は手を組んだまま小さく息をつき、零華は剣の柄に触れたまま視線を逸らそうとしない。

 二人とも声を発さず、悠人とリリスのことを見つめている。

 何度も聞こえてきた自分の後悔の声に、二人の沈黙は耐え難い責めとして響いていた。

 悠人はゆっくりと目を閉じ、深く息を吸い込む。

 そうして、一つの答えを出した。


「俺が”直々”に”心”の概念を生成する!」


「──心?」


 零華がポツリとこぼす中、悠人はリリスに再び手を向ける。


「色々と複雑で、生成するにはまだ課題はある。

 けど、とにかく、今までの俺の記憶を利用して、擬似的に構築するんだ。

 ”リリス”という存在に適した、専用の”心”にできる限り最適化する。

 ──アップデートさ」


「……本気で言ってるの?」


「俺の“概念生成“なら、不可能じゃないっ」


 悠人の手のひらには強い痺れるような感覚が走っていた。

 胸の奥で静かに震えていた何かが、光として外界に広がる。


「いくぞ、リリス!」


 悠人はリリスの“内側”を対象に生成を開始した。


「はい。

 来てください、マスター」


 周囲の空気は微かに振動し、部屋に置かれたパネルがかすかに軋む。

 既に取り込まれている研究所で入手した膨大な”感情”データに、新しい概念の光が触れていった。

 リリスの内部で波紋のように情報が揺れ蠢いている。

 データとデータがぶつかり合い、静かな戦いを繰り広げていた。


「っ……

 うぉおっ!」


「目標再定義……

 マスターの幸福=特定個人の独占、ではない……?」


 リリスの声が、初めて震えを帯びる。

 論理的な音声の中に、微かな疑問と揺らぎが混じり、悠人の胸に直接刺さるように届いた。


「信頼関係───

 ”和”の構築は、強力な利益にもなる……

 なるほど、人間という種はそもそもそういうふうにできているのですね」


 静かに、しかし確かにデータの流れが変わっていく。


「はぁ……はぁ……

 そうだ、リリス」


 “戦い“が落ち着き、悠人は拳を軽く握った。

 手から発せられた光が収束していく。


「……肯定していいのかわからないが、とにかく、仲間っていうのは、一緒に悩んで、一緒に間違って、それでも隣にいることだ。

 切り捨てるような駒じゃない」

「──なるほど」


 悠人が言葉を紡ぐごとに、リリスから発せられる光は柔らかく、しかし確実に力を帯びていった。

 まるで理解と納得を示すかのように、点滅の間隔は長くなっていく。

 やがてその光は完全に収束し、もうリリスの体から変な光が発せられることは無くなった。


「……理解、未完了。

 ですが──

 信頼データ、受理。

 マスターによる直々のアップデート完了」


「ふぅ──」


「終わったの、悠人」


「いや、まだだ」


 短く息を吐くと、悠人は次の一歩を踏み出す。


「まだ、位置情報発信の無効化ができていない。

 こっちも終わらせないと」


 胸の奥で再び心臓が強く打った。

 悠人はリリスの瞳を覗き込む。


「よし、リリス。

 お前の中にあるプログラムを分析し、位置情報発信の無効化を行なってくれ!

 概念でも、プログラムでも、なんでもいい。

 好きなものを生成して、無効化を行なうんだ!」


「──了解。

 まずは分析を行います」


 リリスの声は落ち着きを取り戻していた。

 微かに震えていた声は、決意と理解を帯びている。

 悠人の鼓動と同期するかのように、それは空間に響いた。

 零華は視線を逸らしながらも、微かに安堵の色を見せる。

 茜は静かに息を呑み、リリスの手元に集中していた。


「……あ、そこはリリスちゃん頼りなのね」


「あぁ!

 俺は不完全だからな!

 頼りまくるぜ!」


「はは──」


「ふん、本当にこの男は」


 今のところ、リリスに異常は見られない。

 暴走する気配もなかった。

 悠人は注意深くリリスを見守る。

 今回も失敗してしまえば、それこそもう、打つ手がない。

 処分するしかなくなってしまうだろう。


(──頼む……)


「分析が完了しました」


 リリスの声が、静けさと緊張で満ちた空間に響いた。


「……どうだ」


「他にも効率的な案は存在しますが、位置情報を発信するプログラムを軒並み機能停止にする、アンチウイルスソフトの構築を提案します」


「よ、よし。

 生成してくれ!」


 悠人の胸の奥で焦燥と決意が同時に駆け巡っている。

 再び変なことを言い出さないか、彼は気が気でなかった。


「……勝手に使用してよろしいのでしょうか、マスター」


「──え?」


 リリスは悠人の方を見て、回答を待っていた。

 そこに以前見られたような、強かな別の意図は見られない。


「あ、あぁ。

 許可する。

 ……ちゃんと確認できるようになったんだな、リリス」


 悠人の口角は自然と上がっていた。


「はい。

 勝手にマスターの能力を使用するのは、“思いやり”が足りていません。

 信頼を損なう行為です」


 本心で言っている。

 悠人はそう確信した。

 後ろに立つ零華と茜も、彼女の様子に感心したようだ。

 わずかに漏れた声が悠人の耳にも聞こえてくる。


「……あれ、マスターのスキルに──

 脳にアクセスできません。

 ……どうやら、マスターが”心”を私の中に生成してしまったことで、”個”として私の頭脳は独立してしまったようです」


 リリスは戸惑いを隠せていないようで、自分の胸の方を見つめていた。

 その後、向けられる瞳は、純粋な困惑に富んだものである。

 それは演技ではない──

 はずだ。


「……そうなのか。

 なら俺がやるよ」


 悠人はリリスの胸元に手を触れる。

 冷たい金属と温かい意識の境界を感じながら、力を込めた。

 静かな光の流れがリリスから悠人の脳内へと滑らかに入り込んでいく。

 情報の洪水が意識の中に広がっていった。

 悠人がリリスの胸元に触れたことで、リリスの脳内の情報が悠人の脳内へ流れ込んでくる。


「どうやら、物理的な接触で、まだ情報の共有自体は可能なようだな」


 同時に悠人は、やはりリリスが以前のような嘘はついていないことを確認する。

 生成はうまくいったようだ。


「……おっ、このデータを元に生成すればいいんだな」


 感心しながらも、リリスが構築した“データ”を見つける。


「はい、マスター」


 地下室の冷たい空気の中、手のひらに伝わる微かな振動を感じながら、悠人はリリスの身体に触れていた。

 指先から流れ込む光は、静かに揺れ、空気に拡散して微細な粒子のように空間を漂っている。

 その光の中で、リリスの内部データが意識のように波打つのを感じ取れた。


「……なんだか、マスターに触られるとドキドキします」


 普段は冷静な論理の声に、微かな動揺が混じる。


「えっ──

 す、すまん」


 悠人は慌てて腕を引こうとするが、引けない。

 その腕をリリスがガッチリと掴んでいた。


「り、リリス……?」


「いえ、いいんですよ。

 もっと私を撫で回してください♡」


「──っこほん。

 悠人?」


 茜の大きな咳払いが響く。

 リリスの腕を引き留める力が緩み、慌てて悠人はその手を引っ込めた。


「わ、わかってますって茜さん!」


 その後も悠人は慌ただしく手を動かし、再び、今度は肩のあたりにそっと手を置くと、生成を再開する。

 掌の中で光が生まれ、渦を巻くように拡散した後、収束していった。

 光は柔らかく温かく、手のひらをかすめるたびに微細な振動が伝わってくる。


「……どうだ!」


「──アップデート完了しました。

 これでこちらの位置情報が外部に漏れることはありません。

 リリスはばーじょん1.4となりました」


 リリスの声は落ち着いているが、そこには微かな安堵の色を感じられた。

 零華は息を小さく吐き、それまでの緊張をわずかに解く。


「よかったぁ」


 茜もホッと息をつく。

 その様子を見て、悠人も少しだけ胸の緊張を緩めた。


「……これでようやく、終わったのね」


「あぁ──」



 笑顔を作りかけた瞬間、地下施設全体が微かに揺れる。


「──何、この揺れ」


 零華が刀の柄に手をかける。

 遠くで何かが弾けるような音が響き、床や壁を通して振動が伝わってきた。

 コンクリートの内側を叩くような低い衝撃が、時間差で身体の芯へと届く。


「侵入者のようです、マスター」


 照明が一瞬だけ不安定に明滅し、天井の配線がかすかに軋む音を立てた。


 空気が一瞬で張り詰める感覚が走り、全員が戦闘態勢に変わる。

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