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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(3/3) 『決着』

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第98話 真実の神殿ー5

「がはッ──!?」


 しかし、”圧”のようなものが周囲に発生する。

 攻撃が悉くいなされ、相殺され、弾き飛ばされていった。

 装備の効果をなんとか無効化しても、風間次郎自身の魔力によって、攻撃が阻まれたようだ。

 彼の肉体に攻撃が届く頃には、彼が片手で対処できる程度に威力が減衰している。

 火力不足。

 風間次郎は後ろへと飛び、悠人たちの攻撃が届くことはなかった。

 押し切れない。

 悠人たちを絶望させたのは、先ほどの自分たちの攻撃を防いだのが、スキルでも何でもなかったということだ。

 ただ彼の膨大な魔力の”圧”によって、攻撃が捻じ曲げられ、捌き切られてしまっていた。


「うん!

 君たちの動きは悪くないが、悪くないだけだな!

 B級程度か!」


「このっ──」


 その男は楽しそうに笑いながら、続け様に放たれる一撃一撃を受け流していく。

 彼の身のこなしは、まるで重力から解き放たれているかのようだった。

 悠人の生成した概念武装が空を切るたび、風間は踊るような足取りで死線を掻い潜る。

 神殿の静謐を切り裂く金属音だけが、絶望的な実力差を証明していた。


(──俺が、守らなきゃいけない。

 俺がみんなをっ……!)


 悠人は前に出る。

 焦燥が胸を焼いていた。

 リリスの放つ精密な射撃も、茜が練り上げた高密度の魔力も、風間次郎という圧倒的な個体の前では、文字通り子供の火遊びに等しい。

 当たり前だ。

 皆、A級探索者以下の戦力。

 普通なら叶わないだろう。


 それでも皆が戦おうとしているのには理由があった。

 悠人のスキルの存在だ。

  悠人は自身の脳細胞をフル稼働させ、リアル生成AIへのアクセスを限界まで強めていく。

 この未知のスキルが鍵だ。

 皆の戦う希望となっている。

 悠人は、防具の強度、剣の鋭利さ、それらすべてを「勝利」という一点に収束させるべく、概念を編み上げていった。

 剣を構え、さらなる攻撃の体制を整える。

 直後、背後から鋭い衝撃が走った。


「──え?」


 視界が揺れ、肺の空気が一気に吐き出される。

 悠人の身体は、前のめりに崩れ落ちた。

 背中に刃を突き立てられたようだ。


(なん──だ……?)


 防具のおかげか、防具の性能を見越した上で手加減していたのか。

 防具を貫通して、出血することはなかった。

 だが、衝撃そのものは防具を透過し、脊椎を伝って全身の神経を麻痺させる。

 悠人は視線を動かし、犯人を見た。

 風間次郎も、ネクロスも、確かにまだ前方にいる。

 突き立てられた刃、それを握っていたのは──


「……神崎──?」


 信じられない光景だった。

 彼女は、感情を押し殺した表情で、倒れた悠人を見下ろしている。

 広間の白亜の床が、視界の端で歪んで見えた。

 耳の奥では、高い金属音のようなものが鳴り響き、自分の鼓動だけが異常に大きく聞こえている。

 なぜ、という言葉が喉の奥でつかえて出てこない。

 共に死線を潜り抜け、互いの背中を預けてきたはずの信頼が、音を立てて崩れ去っていく。

 その手に握る剣が、自分に振るわれたという事実を脳が拒絶している。

 彼女の瞳の奥にあるのは、かつての信頼でも、現在の敵意でもなかった。

 それは、外部からの強制的なコマンドに従う機械のような、冷たく空虚な色彩。


「どう、して……」


 悠人は力無く地面へと崩れ落ちる。

 全身の力が指先から抜けていった。

 生成したばかりの剣が、持ち主の手を離れて乾いた音を立てて転がる。

 ネクロスが仕組んだ「理屈」でも、風間次郎の圧倒的な「暴力」でもない。

 最もあり得ないはずの「裏切り」が、悠人の心を物理的な傷以上に深く抉っていた。  

 ネクロスの冷笑が神殿の天井に響く。


「ハハ、滑稽だね。  

 情緒という脆い鎖に縋った結果がこれだ。

 天野悠人くん、君は少し、信じてはいけないものを人間を信じすぎた。」


 零華の瞳には、以前のような鋭い光は宿っていない。

 代わりにそこにあるのは、底の見えない虚無と、何かに強制されているかのような不自然な静寂だった。  

 彼女の構える刀の先が、冷たく、無機質に悠人の喉元を狙っている。

 その震えることのない刃先が、彼女の決意、あるいは、彼女を縛る呪縛の深さを物語っているかのように見えた。


「下がれ」


 零華は唖然とするリリスと茜に短くそう告げると、悠人に向かって手をかざす。


「がっ──!?」


 次の瞬間、悠人は未知の衝撃に襲われた。

 概念でも、物質でもない。

 理解の外側から殴りつけられるような衝撃。

 それは悠人が、ラーニング機能で今まで見てきた彼女の攻撃と、全く異なる波動だった。

 熱いとも冷たいとも形容し難い、ただ「存在を拒絶する」ための力が脳髄を直接揺さぶる。

 それは既存の彼女の魔力体系からも逸脱した、未知の「攻撃」だった。

 脳内を走るリアル生成AIのログがノイズで塗りつぶされ、論理回路が次々とショートしていく。

 悠人の視界が白濁していった。

 ネクロスがほくそ笑んでいるのが、彼のぼやけた意識の向こうで見えている。


 (──すべてはコイツの筋書き通りだったのか……?)


 ネクロスの指先が指揮者のように動き、戦場という名の舞台を残酷に彩っていた。  

 風間次郎は戦うのをやめ、退屈そうに頭の後ろで腕を組んでいる。

 彼にとっては、この劇的な幕切れすらも予定調和に過ぎないのだろう。


 悠人の思考が、途切れる。


 身体が自由を失い、重力に従って床へと沈み込んでいった。  

 感覚が麻痺し、周囲の喧騒が水の中に潜った時のように籠もって聞こえる。  

 冷たい床の感触さえも、次第に遠のいていった。

 脳が生存を維持するためのエネルギーを遮断し始めているのか、視覚情報の処理が追いつかなくなっていく。

 自分が誰であるか、なぜここで戦っていたのか。

 そうした根源的な記憶さえもが、砂の城が崩れるように曖昧になっていった。


「──悠人っ!!」

「マスター!」


 茜とリリスの叫びが、遠くで響いた気がした。  

 彼女たちの声には、これまで聞いたこともないような恐怖と絶望が混じっている。

 リリスが矢を放ち、茜が暴走気味の魔力を展開するのが、薄れゆく光の中で断片的に見えた。

 二人は必死にこちらへ駆け寄ろうとしているが、風間の影が、そしてネクロスの障壁がそれを許さない。

 仲間たちが絶望に染まる姿を直視することも、今の悠人にはできなかった。


 その悲鳴にも似た呼び声に応えようと、悠人は必死に手を動かそうとする。

 しかし、指一本動かすことさえ叶わない。

 生成スキルも、魔力の循環も、すべてがその「未知の衝撃」によって凍りついたかのように停止していた。  


 心臓の鼓動が、一つ打つごとに重くなっていく。

 呼吸がままらななくなり、酸素を求める肺の動きも、ついには最小限の反射へと落ち込んでいった。

 茜の放つ魔法の輝きが、リリスの叫び声が、急激に遠ざかっていく。

 戦場の喧騒は徐々に形を失い、ただの単調なノイズへと変わっていった。

 仲間の流す涙も、敵の嘲笑も、すべてが他人事のように感じられるほど、意識の解離が進んでいく。

 零華の冷徹な横顔が最後に視界に焼き付き、そして悠人は思い出していた。


 彼女と出会い、共に歩んできた日々を。

 それはすべて偽りだったのか。

 それとも、この裏切りの裏側に、彼女なりの絶望があるのか。  

 答えを求める思考さえも、今はただの贅沢だった。


 ただ一つ言えるのは、出会った時から、思えば彼女のスキルと言えるようなものを見ていないということ。

 神崎零華はずっと何かを隠していた。

 ただ悠人は、それを触れてはいけないものだと察して、放っていた。

 間違っていない。

 間違っていない選択だったはずだ。


 重厚な虚無が、己のすべてを塗りつぶしていく。

 希望も、悔恨も、生成すべき未来のイメージさえも、一滴の雫となって闇の海へと消えていった。

 抗いようのない脱力感が全身を支配し、意識の縁が急速に削り取られていく。  


 天野悠人の意識は、完全な闇へと沈んでいった。

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