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わたくしの婚約者となる方が全く予想外の人物だった件。  作者: あめとおと


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20/20

第20話(最終話) わたくしの婚約者は、やはり予想外の王でした



 春でした。


 王都の空気は、冬とはまるで違います。


 街路には花が並び、人々の声が途切れません。


 誰もが同じ話題を口にしていました。


 ――王の結婚式。




「緊張していらっしゃいます?」


 侍女に問われ、わたくしは鏡越しに微笑みました。


「少しだけ」


 本当は、少しではありません。


 王妃になる。


 言葉にすれば短いですが、それは人生そのものを変える意味を持ちます。


 ドレスの裾が整えられる。


 純白ではなく、淡い銀。


 アルヴェイン家の色と王家の色を重ねた、新しい象徴。


「陛下がお待ちです」


 扉が開かれる。


 もう戻れません。


 けれど――不思議と怖くはありませんでした。




 扉が開いた瞬間。


 光が溢れました。


 参列者、貴族、騎士、民衆代表。


 そして。


 祭壇の前に立つ人。


 カイル。


 王冠を戴いてもなお、どこか不器用なままの人。


 目が合った瞬間。


 彼が少し安心した顔をしたのが分かりました。


 ……王でも、変わりませんわね。




 ゆっくりと歩く。


 一歩ずつ。


 これまでの時間を踏みしめるように。


 偽装婚約。


 襲撃。


 政治戦。


 革命。


 すべてを越えて、ここにいる。




 司祭が問う。


「汝ら、互いを支え、この国と民を守ることを誓いますか」


「誓います」


 声が重なる。


 自然に。


 迷いなく。




 指輪が差し出される。


 彼の手は、少しだけ震えていました。


「緊張なさって?」


「しています」


 小声で返される。


「戦場より緊張します」


 思わず笑ってしまいました。




 指輪がはめられる。


 その瞬間。


 大聖堂に拍手が広がった。


 祝福の音。


 争いではなく、未来へ向かう音。




 式後、王城のバルコニー。


 眼下には民衆。


 歓声が波のように広がる。


 カイルが小さく息を吐いた。


「まだ実感がありません」


「わたくしもです」


「……逃げたくなりませんか」


 少し考えてから答える。


「なりませんわ」


 彼を見る。


「隣に誰がいるかで、景色は変わりますもの」


 彼が笑った。


 王としてではなく、一人の人として。




 後ろから声。


「いい顔になったな」


 王弟だった。


 その隣には前王太子。


「国は任せた」


 前王太子は穏やかに言う。


「私は外交の方が向いているらしい」


 軽く肩をすくめる。


 誰も失われなかった未来。


 それが何よりの奇跡でした。




 祝宴が終わり、静かな王城。


 ようやく二人きり。


「……終わりましたね」


「始まりですわ」


 訂正すると、彼は苦笑した。


「確かに」




 少し沈黙。


 彼が真剣な顔になる。


「改めて聞きます」


「はい?」


「後悔していませんか」


 王妃になること。


 この人生を選んだこと。




 わたくしは首を横に振りました。


「むしろ逆です」


 一歩近づく。


「最初に婚約を聞いたとき、思ったのです」


「どんな方なのかしら、と」


 微笑む。


「まさか国を変える人だとは思いませんでしたけれど」




 彼が少し困った顔をする。


「俺もです」


「何がですの?」


「まさか人生で一番必要な人が」


 手を取られる。


「あなたになるとは思っていませんでした」




 夜風が吹く。


 王城の灯りが遠く瞬く。




「ですが」


 わたくしは小さく笑いました。


「やはり間違っていませんでしたわ」


「?」


「わたくしの婚約者となる方は――」


 彼を見る。


「最後まで、全く予想外の人物でしたもの」




 彼が吹き出す。


「それは褒め言葉ですか」


「もちろんです」




 二人の笑い声が夜に溶ける。


 戦いの物語は終わり。


 生きていく物語が始まる。




 王と王妃。


 けれどそれ以前に。


 互いを選び続ける、二人の人間として。







――完。





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