第16話「追え!幻のレア魔獣」 Part4
「……いない」
クロウは、焦り始めている。
「いないッ!」
「いない」
「ここ……」
「コイツじゃない」
「……いない」
「流石に堪えますね、ここまで見つからないと」
自らの足で歩き回り、途中索敵を挿む。罠にかかった敵を確認し、そして処理する。また設置。
それを繰り返して既に2時間が経過しようとしていた。
「魔獣ももう倒さずに逃げて次行こうか……」
「今まであまり気にしてなかったんですけど……明らかに索敵の合間に“湧いて”ますよね。これじゃたしかにキリがない」
「番が近くにいるなら、孕むまでもなくすぐ出るよ。……こんなところだけゲームっぽくて」
索敵でトパーゾンがいるかの確認、索敵位置を変えるのを兼ねて探索、そして再び索敵。その繰り返し。
地道な作業である分、成果が無い間の精神への負担は大きい。
「でも、湧いてるということはその中に紛れている可能性があるということです。頑張りましょう!」
しかしと可能性を示し、ヒャクは疲れ始めてきたクロウを励ます。
事実かどうかは怪しいものの、今していることが無駄ではないという清涼剤を掲げることでモチベーションを刺激しようとしている。
「ふぅ……そうだね、ここで諦めたら次の一歩で見つけられるものも見つからない」
付け焼刃じみたところはあるが、一応精気を出させることはできたようだ。
トパーゾンの元来の発生条件という希望的観測を加え無間の闇へと挑むような論調ではあったが、それが悪い事ばかりとは限らない。
踏み出して、見つけ出す。そのために執念へと浸かり始めていた血眼を深呼吸で落ち着かせ、気持ち新たに次の場所へと移動するのであった。
「この毛は……ゴリアロックでしょうか」
「うーん…こんなピンクだっけ?」
「あ、こっちはロッセクト」
「戦闘の跡があるんならこっちはハズレかな……」
「でも倒した後に確率で出るんですよね?ならこの方が可能性あるかも」
捜索の道中、争いの痕跡を見つける。
見るからに破壊困難だと分かる無機質な図形に不自然に入れられた、数か所の蜘蛛の巣のような亀裂。
ごく最近できたことを感じさせる傷痕は、プレイヤーが時々口に出していた“フラグ”という単語がピタリと収まる、嵌め絵の空白のようであった。
「いるね」
「やっぱり分かります?」
何かが近づいている。
その腕を鷲掴むような剥き出しの殺気はバスターでなくとも感じ取れることだろう。強力な魔獣、所謂ボスクラスエネミー特有の気配だ。
殺気が強くなると同時に、その巨大な体躯が徐に姿を
「ん?」
「あ」
「ぃたいたいたいたいたいた……!」
その側らに、大振りなネズミのようなシルエットが目に入る。
よく見ると宝石のような光沢を放つ部分が存在し、無意識のものか小動物特有の小刻みな震えのようなもので頻繁に反射が乱れる。
目への少量の不快感をものともせずに、ようやく表れた存在のことを小声で確認した二人はまず道を阻む巨大な魔獣へ攻撃をしかけていく。
「せいっ!」
「【バーン】!」
ボスクラスということはそれだけ強力な個体であるということ。だが彼女らはそんな事実に目もくれず斬撃と尾を引く火球で一瞬のうちに地へ伏せさせてしまう。
「トドメ!クロウさんはあっちを!」
「任せて」
とはいえそれだけで終わる相手ではないだろうと追跡はクロウに託された。
残ったヒャクは大量のマナを宙に集めて大技の構えだ。
そして第一目標のトパーゾンはというと、凄まじい逃げ足の速さで既に姿をくらましていた。
それなら得意分野だぞと言わんばかりに飛び出したクロウは予想される進路へと舵を切った。
「多分、こっち行ったはず」
しかし、“多分”である。
魔獣が放つ殺気を感じ取って先手を引き寄せた2人であったが、今度はその殺気、もっと言えば巨大な気配によってトパーゾンが隠れてしまう。
よってクロウはほとんど勘によって走り始めたことになる。
「いない、もう見失った…?」
とはいえ当てずっぽうというほどではなく、概ねこっちを向いていただろうという方向へとすっ飛んでいったはずだ。
しかし、見渡す限りは石の山。少し積み上がった箇所から探してもそれらしい生物は見つからない。
ウインドウのマップならば、と開いてはみたものの、敵を示す点そのものが見当たらない。
「常時高速で位置を変える……」
クロウは自分の速さに自信を持っていた。ユウの授けてくれた力への、絶対的な信頼。
相手は、恐らくそれを越える速度や機動性を持つ。
「厄介だな」
よって、少し拗ねる。
〔見つかりましたか?〕
ヒャクからのメッセージ。質問の後には報告の文章が続く。
〔【スキャニング】による索敵でも確認はしました。でもクロウさんと同じぐらいの速さで別の方向へ向かいました〕
(見失っただけか……ならやりようはあるはず)
同じぐらいの速さというのなら、瞬間移動はただの迷信となる。
また遭遇したら、今度は逃がさない。今彼女は脚の筋肉強化が脳みそにまで到達したかのようにストレートな作戦を目論んでいた。
〔追記、他にバスターが来たみたいです。場合によっては合流しましょう〕
どことなくゲームにおける任務情報表示の匂い漂う追記も読み終え、とりあえずはヒャクと合流することにした。
~なんの学にもならないTips~
ヒャクの本当の名前は「人間合格100満点点」




