第16話「追え!幻のレア魔獣」 Part3
「それで、アタリは付いてるの?」
「さっきも言ったけど、来たばかりだからねー」
「ああそっか」
「でもこれがある」
ルインがウインドウを弄ると、その手元に丸く平たい物体が現れた。
どうやらこれが彼女らの主たる作戦であるらしい。
「これは……地雷?」
「うん、トリモチが飛び出してネチョってなるの」
「ネチョかー」
「そりゃもう。んでこれを色んなところに仕掛けて……そこから先はヒャクかな」
「索敵ができます。罠の場所に意識を向ければお役に立てるかと」
「なら僕は速度重視だから言ってくれればすぐ向かえるよ」
「わ、助かるよ!」
「勿論、それはそれとしてみんなで探そう!ヒャクだけにやらせるわけにはいかない」
「じゃあ私は……どうしようか!!」
「ハナは……火力?硬いらしいから」
「っしゃあ!!ッたろーや!!」
「私も出せるから手分けして当たろうねっ」
トントン拍子に組み上がっていく作戦に希望は灯り、これからの展開が上手く運ぶ予感を各々が感じている。これなら、きっと。
他のバスター達がこの上なく疲弊したこの任務も、そうやって案ずるよりも産むが易い拍子抜けへと変わるはずだ。
さぁ、飛び出そう――
「私達の狩りは!」
「えっ、こ、これから…」
「それは言わせないよぉ!?」
作戦更新!
罠を張りつつ捜索せよ!!
各々ルインから罠を渡され、2・2・1のチームで罠を配置していく。
敷設は順調に進んでいきトパーゾン以外の魔獣との遭遇戦も非常に少ない、むしろのどかとすら思える平和な道程であった。
「なんだか、却って不気味なぐらいですね」
「そうかな」
心配性の気質が見え隠れするヒャクは、その静けさに疑いをかける。
そして、この地域一帯がこの空気ならと他のチームも心配になってくる。
「……ナノハさん、一人で大丈夫でしょうか」
この作戦において意外だったのは、元々2・3にしようという作戦だったところにナノハが物申したところであった。
ナノハは明らかに賑やかな方が好みであった。それが今はもうちょっと手を分けた方がいいという本人の提案で、第3ルートを往くこととなっている。
「まぁあれで実力はあるから心配ないよ」
「不安にはならないんですか?」
初対面であったヒャクは彼女の友人たるクロウに繰り返して訊く。
今が静かでも、いくら強いにしても、異常事態に遭えば数も大事だろうと説いている。
「どっちかというと普段の生活の方が心配かな。いつもあんなだから」
「あぁ……」
色んな意味でクロウは、信頼していた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「見るのは私ですので、その時知らせます」
「鬼か蛇か?」
「どっちも嫌ですね……」
全ての罠を消費し作戦の第一段階を終えると、連絡が来たことを知らせる小窓が宙に浮かぶ。
全員がPCであるからこそできる遠隔連携戦術、クロウ側も他2チームに倣い設置の報告を飛ばす。
「よし……みんな終わったみたい」
「ここからは私のスキルですね?」
「まず休憩しようか。そんなに早くかからないでしょ?」
「や、ルインの罠は色々使ったお手製なので、引き寄せるんですよ」
「ああ」
それならもう移動した方がいいか、と二人でその場を去る。
ここからはヒャクの索敵を挿みつつ、自らの足で目標の1種を探す。
「それで……どうやるの?」
「【スキャニング】です。レベルは8ありました、ほとんど飾りですけど」
これぐらい離れればいいだろうといったところで索敵を実行する。
一瞬、非常に弱い何かがクロウの身体を掠めたような気配がする。それは少し経つと再び表れ、このマジックスキルの根本が周期的な放射なのだと悟る。
【スキャニング】は、かつて画面上にあったミニマップなるものとウインドウ内のマップに表示される敵という点を、より遠くのものも表示させたうえで該当する魔獣のアイコンに変化……即ち、どの魔獣かを明らかにする効力であった。
特定の敵を求めるならば一つの選択肢となるそのスキルも、戦闘自体には役に立たない。だからこそクロウは性質を覚えてはいても、その力を得る機会に恵まれなかった。
よって今はこの小柄な魔法使いの集中に身を委ねることとした。
「……それっぽいのは、まだ」
「そう」
結論を聞いたクロウはまた探しに行こうと腰を上げる。ヒャクも索敵を切り上げてそれに続く。
「ここの全域をカバーできるわけではありませんけど、少なくとも私の探知できる…大体1㎞以内にはトパーゾンはいませんでした」
「それってつまり、もう……?」
「トパーゾンは常に移動してるらしいので、まだ決まったわけではありません」
「うーん……とりあえず、このエリアで索敵できてない方面に行こう。可能性のありそうな方に」
「はい!」
真面目な2人はゴツゴツとした足場の連続を苦にもせず捜索を続ける。
職業柄体力が多く根性の据わった逞しいペアは、索敵範囲外である反対側へと突き進んでいった。
「ルイン……!」
「ああ、言わんとしていることは分かるよ、サヤ……!」
一方他のチームがどうしているかというと。
「……最初はグッ!」
「ジャンケンポン!!」
「ぃぃやっっ…たあああああっ」
「あああ貴重な水晶がぁぁ……!!」
《……》
別のレア物を見つけ、その所有権を争っていた。
「ん?何かいた?」
「え?ルインの気のせいじゃない?」
「もし今のがトパーゾンだったらヒャク達に顔向けできないよ……」
途中、目的の魔獣が一瞬だけ傍にいたようだが、もう既にその場を立ち去っている。
手痛い失敗ではあるものの、責める者は後にも先にも誰一人としていないニアミスであった。
「で、この水晶は遠慮せずに貰っておくけど」
「おうおうこれ見よがしのサヤさんなんだいな」
しかし今となっては重要なのはそこじゃない。
そう切り出した話は愉快に話し合っていたあの頃とは違うシリアスなものだった。
「今のが“ルキオスオーガ”の水晶ってのがヤバいわね」
「ここの敵じゃないんでしょ?何かヤバくない?」
「うん。ヤッバ~~い」
この石切り場跡地から離れた場所に、ルキオスオーガと呼ばれる魔獣本来の生息地、水晶の洞窟がある。
洞窟の奥に鎮座しているはずの敵が日の下に現れるというのは、かつての世界では考えられなかったことだ。
「でもたまたま出掛けてただけじゃない?」
しかし誰もが何度とその肌で感じてきたように、今は昔の話だ。
洞窟の住人が外の世界へとその行動範囲を広げることぐらい、何もおかしくはない。
「かもねー。でも……」
開いているウインドウに格納する直前の水晶を眺めて曰く。
「こんな積み木みたいな単色でケバケバの“水晶”、嫌な予感しかしないよ」




