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第15話「黄金のかたち」 Part3

百万石(ひゃくまんごく)さん」


 その背広の男は店に向かって呼びかけるが、店員含めて誰も反応しない。

 聞こえてはいるはずである。他の客に対してはごく普通に接客を行っているが、その男にだけは無視を決め込んでいる。


「チッ…聞こえてるんでしょ、“よろずや目耳所(めじどころ)”の百万石さーん」


 一度で応じないことに機嫌を悪くするが再度呼びかける。呼び続けるだけの目的はあるらしい。


「また来おって……」


 店員の報告を受けてか、店の奥から厳かな雰囲気の男性が現れる。

 こちらもこちらで背広の男を鬱陶しく思っており、しつこさに憤るような一言が漏れる。


「やっと出てきてくれましたね。目耳所現代表、百万石 次郎さん」

「未だ作法を心得ぬと見える。言葉遣いも、いや態度からだ」

「“中央”と地理的に近いからと自惚れてるような下民こそ、我々への“敬意”を示すべきでは…?」

「虎の威を借り胡坐(あぐら)をかいたような者に、屈することなど無い」


 対話どころではない火花散る対面。

 どっしりと構える次郎という男に対して背広の方は少しふにゃっとしている。

 我々が出る時ではないと留まるクロウとナノハだが、同時に、入っていくことなどできそうもないという雰囲気が躊躇を促していく。


「では、今回も買収の件は断ると?」

「当然だ。怪しい動きをしていることぐらい分かっておるわ」

「それは、あなた方の方でしょう」

「何…?」


 心なしか人の目を冷たく感じる。どうやら、“交渉”はとうの昔に始まっていたらしい。


「そちらは地元に信用されていないと、私個人ではありますが感じております。商人としては致命的な状況、力量不足とも言える」


 彼は、どんな企みがあるかを自ら語った。成功を確信してか、語調も加速していく。

 恐らく用意に手間をかけた結果の自信だろうが、それは全く真逆の、短絡的な顕示欲を晒すようでもあった。


「下らん真似を……」

「我々ならばこの店をより良い方へ導いていくことができる!というわけであとはこの契約書に」

「てやんでぇ!!」



 その一喝は、次郎のものではない。

 激しく吹かれた笛の音のような、少女のものだ。


「あんたこそ商人の隅にも置けないねぇ!!」

芋煮子(うにこ)…ッ!?」

「ああ、娘さんですか。ごめんなさいね、今お父さんと大事な話をしてるから…」

「あっしにとっても一大事だ!!」


 親の話が気になり現れた幼子のような扱いを正面から吹き飛ばし立ち向かう。


「どうせまたこの店を売り渡せってんで、あることない事吹聴して回ったんだろ!んな魂胆透いて見えるよ!!」

「よさんか……」

「いいや父上ここは引き下がれないよッ!ここはあっしにとっても大切な店なんだ……どうしても奪いたいんならここのモン全員に許可とって一昨日来なさいな!!」


 人々は迷っていた。伝えられたことが真実なのか。

 だが、それでも熱いものを感じる心は消せなかった。彼女達目耳所は、やっぱり信用できる。

 そういったざわめきは回り回って元の目耳(めみみ)に伝播する。


「……また来ます」

「一昨日だろうと来るんじゃないよっ!」


 男は不利を悟り、捨て台詞と共に帰っていった。



「……今回はどうにかなったが、お前は本当に…!」

「だけど父上!」

「どもども!」

「今度は何だい!!」

「いやぁー怪シイ者じゃないんです~~っ」


 (うやうや)しいと評するにはおちゃらかな、若く甘い声。

 娘を叱ろうと考えた親という構図へナノハの挿入だ。


「何の用だ」

「その、すみません。こんな時に」


 同時に訪れたクロウはまだ礼儀を知っている。


「今の奴か?」

「え……はい」


 次郎には何となく察しがついている。

 この詫びを入れた女子(おなご)は今の騒ぎを見て事情を聴きに来たのだろう、と。


「2、3週間ぐらい前か…その頃から何かにつけてこの店を渡せと迫ってくる。その連中の1人だ」

「連中、ですか」

「おうよ!どういう気かは知らないけど、しつこいったらありゃしない!」

「芋煮子、戻りなさい」

「父上!」


 相当頭に来ているのか、会話をしている当人らに割って入る。

 まさしく直情的で、何か言わなきゃ気が済まないのが彼女なのだろう。


「いいから行きなさい。真面目な話をしているのだ」

「うぅぅー……わかったよぉ!」

「おい、何処へ!」

「どこだっていいだろ!?」


 また叱られて、不満気なガニ股でどこかへと去っていく。

 クロウらにはかわいそうにと、しかし仕方ないよねとも、思われることとなった。


「娘が騒がしくて申し訳ない。どうにも粗野な子で」

「えっと……いいの?」

「ええ。店のことが絡むといつもこうで……」

「好きなんだね、この店が!」


 次郎は暫し黙る。

 まるで、今の肯定的な評価を外れだと考えているように。


「うーん…ちょっと様子見て来るよ」

「見知らぬ人に任せるのは!」

「えっと、ハイこれ!それじゃ!」

「そ、そういう問題では……」


 ウインドウからセレマの組合に所属していることを示す札状のもの――バスターズIDと呼ばれている――を取り出し見せ、ナノハが駆け出していく。

 たしかに女の子一人では心配にもなるだろうが、見せたからと言ってどこかから現れた謎の人物であることには変わりない。


「店主、さん……?」

「……正直なところ、私はあなた方のことを良くは思っていない」

「ああ、その……すみません」

「いや、今起こったことではない……」


 ここではなんだから、と彼は店の奥へと案内した。

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