窮地と再会
相手方にも冒険者と思われる者達が関与しており、クロス達の集団を追っている。
彼等の実力までは計り知れないが、少なくとも中級冒険者以上、それなりの練度はありそうだ。
そうであれば捕捉されるのも時間の問題だろう。
この5人組に追いつかれるだけでも厄介だが、その背後には彼等を雇ったであろう何者かがおり、その何者かの配下には魔物の群れがいる。
追いつかれればクロス1人では群れを守り切ることは不可能だし、リグやディエラが加わったとしても困難極まりないであろう。
やはり追跡を振り切って逃げ切ることが得策だ。
クロスは追跡者に気取られぬようにその場を離れた。
勘の良い斥候ならばクロスの痕跡に気づくかもしれない。
群れの移動について、追跡を撒く方策を既に講じているとはいえ、一刻の猶予もない状況だ。
クロス自身の移動の痕跡を残さないように、細心の注意を払いつつ、最速でクローラーを隠した場所へ戻ったクロス。
そんなクロスを待っていたのは予想外の危機的な事態だった。
「動くな!少しでも動けばその素っ首を斬り飛ばしますわよ」
ディエラの首すじにサーベルの切っ先を突きつける剣士。
ディエラの剣は足下に落ちている。
ディエラにサーベルを向けるのは神官服の上に軽胸甲を着用した若い女性、以前に森の中で出会ったカティナだ。
サーベルを突きつけられて身動きが取れないままカティナを睨みつけるディエラ。
ジレスティナの護衛の侍女がクローラーの陰から弓を構えているが、手出し出来ずにいる。
クロスは咄嗟にライフルを構えてカティナの頭部に狙いを定めた。
(・・・無理か!近すぎる)
引き金を引けば必中の間合いだが、カティナとディエラの距離が近すぎ、カティナのサーベルの切っ先はピタリとディエラの喉元に突きつけられている。
あと1ミリでも押し込めばディエラの皮膚を破り、ほんの数センチでディエラの命を奪うだろう。
クロスにしても狙いを外す筈もない必中の状況だが、それでも万が一のことがあれば護衛対象であるディエラの命は無く、それどころか再装填の隙もなくカティナのサーベルはクロスに向けられるのは明らかだ。
(銃剣も無しに防げるか?・・・いや、無理だ)
下手をすればディエラとクロスの両方が斬り捨てられるが、そうなれば他の者も無事では済まない。
「頭を狙っている。この距離では外さないし、当たれば即死だ!剣を引け、そうすれば撃ちはしない」
クロスの精一杯の警告にもカティナはディエラから視線を外さないまま薄い笑みを浮かべる。
「虚勢が下手ですわね。優位に立っている余裕が感じられませんわよ」
「・・・虚勢も何も、現実的にこの状況で狙いを外すことは無いし、貴女を撃つことに躊躇もない」
カティナはディエラから視線を外すと、クロスを見据えた。
その切っ先はディエラの喉元のままだ。
「勘違いしないでくださいまし。私は貴方達と争うつもりはありませんのよ。貴方達に用があるから話し掛けてみたら、この女の方が牙を剥いてきたのですわ。いわば私は降りかかる火の粉を払っただけで、正当防衛ですわ。そちらこそ殺気立っていないで私の話しを聞いてくれませんこと?」
敵意は無いと言うが、カティナの目的が分からない。
しかしながら、追っ手が来るまでの時間的余裕もなく、状況的に追い詰められているのはクロス達の方だ。
「分かった。話を聞く」
クロスは3歩程後退ると、銃口の狙いをカティナの頭部から外した。
その様子を見たカティナが苦笑する。
「フフフッ、油断ありませんのね」
頭から狙いを外しはしたが、銃口がカティナの右足に向けられていることに気付いているのだろう。
「貴女の目的が分からないし、わけの分からない集団に追われている中では気を抜くわけにはいきませんからね」
話しながらライフルに銃剣を着装するクロス。
その様子を見たカティナは肩を竦めながらディエラから離れるとサーベルを鞘に納めた。
「確かに、時間的に余裕はありませんわね。分かりました、率直に言いますが、私は貴方達の味方ではありませんが、敵でもありません。私は貴方達を追っている存在について調査しているのですが、それならば利害が一致することもある筈です。少なくともお互いに多少の協力が期待できるのではありません?」
笑顔を浮かべながら飄々と話すカティナ。
切っ先から解放されたディエラは尚もカティナを睨みつけているが、実力の差を思い知らされたのか、カティナの話を聞くというクロスの判断に従うつもりなのか、これ以上の抵抗をするつもりはないようで、拾い上げた剣を納めて侍女が構える弓を下げさせている。
「時間もないことですし、詳しいことは移動しながら話しますわ。私もその車に乗せていただけます?追っ手を引きつけて、先を行く群れから離さなければならないのでしょう?」
クロスが頷くと、カティナはクローラーの車室の上部装甲の上に登る。
上部装甲が半分だけ解放された後部車室にジレスティナの姿は無かった。
最近、仕事がやたらに忙しく、連載中の各作品の投稿頻度が著しく低下しています。
この忙しさはもう少し続きそうですが、忙しくても、1日に1行でも2行でも書くと気分転換になりますので、少しずつでも書き進めていきたいと思います。




