魔物に襲われた町
クロス達が目的の町に到着した時、木製の防護柵で囲まれた町の門が破られる寸前だった。
押し寄せる百体を超えるオークの群れが木製の門に殺到しており、その門を守るべく衛士隊と冒険者達が奮闘している。
「ありゃ、ヤベェぞ。あのままじゃ門を破られるのも時間の問題だ。むしろ今までよく持ったもんだな」
町を見下ろせる丘の上に到着したクローラーの後部車室から身を乗り出したザリードが眉をしかめる。
「いや、むしろあのオークの群れの動きの方が不自然ではありませんか?」
クロスの言葉にザリードは改めて襲われている町を見た。
「不自然だと?何が・・・あっ!確かに、あれだけの数のオークがいるのに正面だけか!」
「はい、曲がりなりにも亜人であり、それなりの知能と社会性があるオークが百体以上集まって町を襲っているということは、上位種等の指揮者がいる筈です。仮にそうでなくともオークの知能ならば別働隊による攻撃があって然るべきです。あの程度の町の規模と防御柵なら2、30程度の別働隊で町の背後か側面を突けば容易に町になだれ込めます」
クロスの言うとおり、敵の規模と能力に対して戦法が不自然なのだ。
しかも、正面からの単調な攻撃でありながら、オーク達の動きは統率が取れている。
「オーク共の狙いは分からんが、見たところ他に伏兵はいなそうだ。ならば我々にとっても好都合じゃないか?クロスのクローラーなら側面から突入してあの門の前に陣取ることも可能だろう?」
レディアの言葉にクロスは頷く。
「そうですね。クローラーで門を塞いで、遠距離攻撃が可能な人はクローラーの上から攻撃、近距離戦の人もクローラーの直近で戦えば十分な援護も受けられます。負傷したらクローラーの車内でサリーナさんの治療を受けられますし、町の中に下がることもできますので、数の不利を覆す程ではなくとも十分に戦えますね」
今回クローラーに乗ってきたザリードとレディアのパーティーは遠距離攻撃が可能な冒険者が多い。
装甲に覆われたクローラーの中からならある程度の安全を確保しつつ戦える。
「だったら直ぐにでも行こうぜ。俺達はそのために来たんだ。報酬分は働かなくちゃな!」
ザリードの言葉に皆が覚悟を決めて頷いた。
クロスはクローラーを発進させると一気に丘を下る。
「とりあえず門の前まで突っ込みます。皆さんは頭を低くしておいてください」
下手に身を乗り出して振り落とされては大変だ。
クローラーでの突入自体が敵にとっては十分に脅威なので、積極的な攻撃はクローラーを止めてからでも遅くはない。
町を襲う群れの側面に突入すれば、間抜けなオーク数体がクローラーを避けきれずに轢かれて犠牲になる。
それでも構わずに群れを突っ切り、門の前に乗り付ければ、その場に陣取って門を守っていた衛士や冒険者が慌てて飛び退く。
クロスは門の前に盾になるようにクローラーを停めた。
「位置につきました。皆さんお願いします!」
皆に声を掛けながらクロスもライフルを取り出して運転席からオークの群れ目掛けて射撃を開始する。
「よし、ギムリー、ジーナ、前に出ろ」
ザリードのパーティーのギムリーとジーナに加えてレディアのパーティーのゴックスがクローラーから飛び降りてクローラー正面に出た。
その姿を見た衛士や他の冒険者達もクローラーの周囲に集まって守りを固める。
遠距離攻撃が可能なザリード、エリーヌ、レディア、ミリ、ククルの5人に加えてクロスはクローラーの車上からの攻撃だ。
クロスのライフルは頭や心臓を撃ち抜けば1発でオークを仕留められるし、ザリードの魔法は一度に数体のオークを炎で焼くことができる。
レディアは自らの矢に精霊の力を宿らせて威力を増すことができるし、他の弓士3人の狙いも正確で、1発で仕留められずとも、2、3射もすればオークを倒すことが可能だ。
しかも、クローラーの車内に持ち込んだ矢の数は数百本。
個人では携行できない量だが、クローラーの中からの射撃ならそんな心配も必要ない。
クローラーの上からなら一方的な攻撃が可能であり、クロス達の戦いを見た他の冒険者で弓士や魔術士達はクローラーの陰に隠れての攻撃を始める。
ギムリー達はクローラーの前でクロス達が撃ち洩らした獲物を迎え撃つ。
「怪我をした人はいますか?私が治療しますよ!」
サリーナが声を上げるが、取り急ぎ治療が必要な者はいなそうだ。
クロス達が到着する前に負傷した者は町の中に下がって治療を受けているのかもしれない。
とりあえず出番の無いサリーナはクロスの横でクロス達の手伝いを始めた。
クロスに予備の弾倉を手渡したり、その抜群の視力と動体視力でオーク達の動きを見て効率的に戦えるようにクロスやザリードに情報を伝える。
「先頭集団の後方、約20メートルの位置にいる集団が不自然な動きをしています。槍を持った集団が密集しています」
「あれは・・・密集突撃を画策しているようですね」
クロスがライフルを構えようとすると、ザリードが割って入ってきた。
「待て、あれは俺に任せろ。密集しているなら俺の炎で焼き払った方が早い」
そういうとザリードは目標に向けて火炎魔法を放つ。
「クロスさん、約60メートルの位置、集団の右側に一際大きなオークがいます。装備も上等で偉そうです」
サリーナの指差す方向を見れば確かに異質な個体がいる。
オークキング等の上位種らしく、全身を覆う重厚な鎧を纏っている。
「フルヘルムじゃないなら顔面を狙える・・・」
クロスはライフルを構えて狙いをつけるとゆっくりと引き金を引いた。
・・・バンッ!
放たれた銃弾は狙いどおり上位種の顔面を撃ち抜く。
撃たれたオークが顔面から血を噴いて倒れると、周囲にいたオーク達が目に見えて混乱し始めた。
「命中。処理しました」
排莢しながら次の目標に狙いをつけて次々と、淡々とオークを撃ち倒していく。
「はい、クロスさん」
弾倉内の弾を撃ち尽くして弾倉を取り外せば何も言わずともサリーナが次の弾倉を手渡してくる。
そのタイミングといい、目標を見つける選別眼といい、抜群の気遣いと能力だ。
クローラーから降りて戦っているギムリー達や衛士達もクローラーを背にして目の前のオークを着実に打ち倒してゆく。
この様子ならクローラーでの増援の輸送をしないでも済みそうだ。
投稿の間隔が空いてしまいましたが、少しずつ、確実に進めていきます。




