22 相巻く思惑
殺し合うには良い晴天。
マクゲンティ将軍が方陣による迎撃態勢をとり、異民族達がそこに襲いかかる。
そこを見下ろす山林があり、方陣から立ち上る狼煙がよく見えた。
狼煙を認めた物見の伝令はすぐに、隠れていた林にたどり着く。
群狼傭兵団の団長エリスはすぐさま行動に移った。
「みんな出陣の用意を!」
その声に呼応するように傭兵たちが雄叫びを上げて各々の騎馬へと走っていく。
エリス達、群狼傭兵団の騎馬隊53騎が隠れていた林を発った。
それはマクゲンティ将軍が左右を山林に囲まれ、背後を川に方陣を布いたとの物見の報告を受けた直後。素早い行動だった。
団長エリスを先頭に一団の騎馬隊が眼前の森をなぞるように平野を駆けていく。
最後の最後まで見つからないように慎重に、気づかれないほど素早く。
飛ぶような速度だが、流れるようになめらかな馬さばきを、全員が行う。
53騎の蹄が奏でる振動は、まるで大河のように深く重く、しかし行軍は滑るように。
森を超えれば、そこにいるはずの獲物に向かって一気に襲いかかるために、更に速度を上げるために、少しの間だけ、ほんの少しだけ速度を抑えて進む。
戦いを前にして群狼傭兵団の誰ひとりとして雄叫びを上げる者もいない。
統率の取れた様は、馬の群れというより、その団名の通り集団で狩りをする肉食獣のようだ。
群狼傭兵団のメンバーで林に残ったのはわずか数名の支援役の者たちのみ。
資材を引き上げるために大急ぎで準備する彼らは、その時ふと気がついた。
彼らの雇主であるはずの、クィントス・S・ビスマルクの姿がどこにもないことに。
しかし、それを団長エリスに知らせる術はもちろんない。矢は放たれたのだ。そして彼ら自身グズグズとこの場に留まっている時間はなかった。
クィントス・S・ビスマルクの姿は隠れていた林から離れた川辺にあった。
岸に寄せられた小舟に足を掛け、護衛の斥候武官の男とともに乗り込もうとする姿があった。
フルプレートアーマーに身を包んだクィントスはハンドサインだけで指示を下し、部下たちも淀むことなく行動を開始している。
七十名ほどの男たちは一様に無言で小舟に乗り込んでいく。その統率感は群体生物としての無個性ではなく、狼の群れの如き迫力があった。
煙立つような白髪の面に、浮ついた雰囲気はない。
その顔にあるのは、数時間前まであったトボけた人の良さではなく、加虐と悪意に満ちた軍人の顔だ。
まるで逃げ出すように、クィントス・S・ビスマルクはその小舟に乗って姿を消した。




