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74.パリオダ鉱床跡について

 旧パリオダ鉱床跡。

 リオニア王国と旧ニブラス王国にまたがる地域に形成された鉱石の採掘地である。

 二国間の関係が比較的良好だったことと、パリオダ家の当主が有能だったこともあって、両国に鉱物を供給し、利益を得ていた。

 パリオダ家は鉱床の所有者であり、リオニア、ニブラスの二国で爵位を持っていた。

 その特異な立ち位置から、二国間の連絡口としても重用され、ある意味独立国のような立場であった。

 アケチロンド砦をはじめとした、複数の城砦型都市をいくつも保有し、私的に登用した太守らに治めさせていた。


 そのパリオダ家の没落は、現当主への代替わりに始まった。

 新当主の若い頃の評判はけして良くない。

 むしろ悪い。

 歴史の上では、愚かとかうつけとか言われた若君が成長することで名君となるとか、実は有能で王とか皇帝にまで登り詰めるみたいな話はあるが、このパリオダ家の若君はどう見ても暗君だった。

 統治に興味はなく、かといって尚武にいそしむこともなく、経済が得意なわけでもなく、芸術を振興するようなこともなかった。


 美食にいそしみ、権力をかさにきて喧嘩にはげみ、金遣いは荒く、いつも若い女性とちんぴらをはべらかしていた。


 当主になると、真っ先に口うるさい前当主の近臣を罷免した。

 意見をした老臣を処刑し、追従する者を登用した。

 所有する都市の太守らも次々に自分の息がかかった者に変え、税率もあげた。


 そうなると、まともな者はどんどんパリオダ領を離れていった。

 都市からも人がいなくなり、領地は衰退していく。

 酒で頭をやられたのか、誰かに操られたのか、当主は産出量が落ちてきていた鉱床を閉めることにした。

 パリオダ家の権力と財力の源であるそれを閉めるということの意味を、彼が理解していたのか。


 ちなみに産出量が落ちたのは、鉱床で働く労働者が激減したからだが、彼にそれを教えるほど気骨のある家臣はいなくなっていた。


 それから一気にパリオダ領は衰退した。

 鉱物がとれないパリオダ領など、リオニア、ニブラスどちらにとっても役に立たない。

 今まで見過ごされていた太守の私的登用や、税の搾取などが咎められ、爵位は下げられ、領地は縮小した。


 完全に没落する寸前に起こったのが、魔王軍の侵攻であった。

 一瞬でニブラス王国は壊滅し、リオニア王国にも魔獣の軍団が攻めてくるようになった。

 悪知恵だけははたらくパリオダは、全ての責任を魔王軍に押し付けた。

 悪政も、鉱床のことも、なにもかもを魔王軍の策謀だと王国に報告。

 金を積まれた財務卿や軍務卿はパリオダの言を支持したため、リオニア王国内でパリオダは貴族として存続することになった。


 その縁で、旧パリオダ領内での盗賊団の横行などの不法行為を行うようになったのは関係者しか知らないことである。



 というわけで懐かしのパリオダ鉱床跡に、俺は来ていた。

 依頼主である鍜治屋のデンターは疲れきって座っていた。

 幸い、冒険者の残していた野営の跡が利用できたため、火をおこし煮炊きもできた。

 今は暖かいスープが出来上がり、二人でそれを飲んでいるところだ。

 目張りした建物の中のため、外から見られることもなくゆっくりできる。

 おそらく、定期的にこのあたりを見回る冒険者がいるのだろう。

 半年前までここには盗賊団の拠点があった。

 それが再び結成されぬように巡回しているのだ。


「隣の建物の中に急勾配の坑道があって、露天掘りされた場所へ繋がっている」


「へえ、そうなんですか。詳しいですね」


 そこが罠に使われていて、実際に嵌まったとは言えなかった。


「来たことがあるからな」


「はやく調査したいなあ」


 到着した時点で日が暮れかけていた。

 街道が荒れていたことで、予想より時間がかかってしまった。

 これで、また盗賊団が住み着いていたら大変なことになるところだった。

 腰を落ち着けて、暖かい飯が食えるというのは運が良い。


「今日はもう休んで、明日調査を始める、でいいな?」


「ええ、もちろんです。足が棒のようですよ」


 干し肉を戻したスープと途中で狩った獣の肉を焼いたものが夕食だった。

 冬眠に向けて脂を溜め込んだ獣の肉は、柔らかくうまい。

 肉のダシがよくでたスープもうまい。

 穀物がないのがやや不満だが、量も味も満足だ。

 ちゃんと準備した遠征でないので、このくらいが精一杯だ。

 こんなことになるなら、ニコに弁当を作ってもらえば良かった、と俺は思った。


 やがて、デンターは横になり、俺は火の番をしながら見張りをすることにした。


 不思議なほど静かな夜だった。


 何ごともなく、夜は更け、朝が来た。



「うおおおおおおッ!!」


 朝からうるさいのはデンターである。

 夜明けからごそごそと動き回り、ゴロゴロと坑道を転がるように落ち、露出した鉱物を見ながら叫んでいたのだった。


「朝っぱらからうるせぇなあ」


「み、見てくださいよ、ギアさん!良質な鉄鉱石ですよ!魔力石もけっこうあります。もしかしたら、魔鉄鉱があるかもしれません!」


「ほお」


 魔鉄鉱は、魔界ではありふれた鉱石だがこのあたりでは珍しいものだ。

 鍜治屋にとっても、王国の財政にとってもプラスになるだろう。


「私はもう少し、ここを調査します。うわあ、これは凄い。なんでこれを閉めちゃったんだろうなあ」


 自分の興味にすべて振り切ったデンターを、俺はとりあえず放置してあたりを探索することにした。


「こ、このマークはいったい!何を現しているのか!?なんの符丁かな!まるで剣を突き刺したような跡だ」


 それは、俺が上に登るために壁に刺した跡だ。



 冬の空気は乾燥して喉が痛い。

 定例の剣の素振りをする。


 鍛練をしていると、昔の暗黒騎士時代のことを思い出す。

 二番隊が集まって、素振りや型の練習、立ち会いなどを朝の隙間を縫ってやっていた。

 二番隊だけなのは、一番隊が鍛練など無用という考えだったからだ。

 魔力が高ければ、攻撃力上昇や身体能力向上などの魔法を使って高い力を発揮できる魔人にとって、鍛練など無駄な努力としか見られなかった。

 そんなに魔力が高くない雑種ハーフ出身の俺は、そこまで魔法を運用できない。

 そのため、自身の力を引き上げることで総合的な力を純血の魔人のレベルまで高めることにしたのだ。

 そのかいあって、二番隊の隊長職をいただけたわけだが、部下の騎士たちもそれを習いたがった。

 それもあって、朝の鍛練を始めたのだった。


 参加者の中でもいろいろな奴がいた。

 真面目に取り組むもの、要点だけをうまく取り入れるもの、適当にやって同僚に注意されるもの。

 その中でも、若い魔人の女騎士が熱心だったなあ、と記憶がよみがえる。

 確か父親が獣人だという混血児ハーフで、肉体的には獣人の特徴があまり出なかったタイプだった。

 ただ魔人の血を引く割には魔力はあまり伸びず、身体能力の方がとんでもなかったことを覚えている。

 確か、名前はアユーシ……だったか。

 勇者との戦いの際にも、ネガパレス防衛に奮戦して、生き残ったはず。

 たくさんいた部下の中でも、印象が強かったので覚えていた。

 魔界で無事暮らしているといいが。


 と、俺は朝焼けの中、素振りをしながら元の部下たちの無事を祈った。


「ギアさん!!見つけましたよ、モリア銀です、私の探していたものです!」


 回想しつつ、懐かしい思い出にひたっていた俺の耳に、デンターの大声が響いてきた。

 なにやら見つけたとのことだが、大声すぎる。


 俺は苦笑いしながら、デンターのいる場所へ向かった。

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