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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
アリーの悩み 樹の悩み
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アリーの悩み 樹の悩み

「じゃあ本題に入るが、お前の契約者の吉永麻梨乃について聞きたい」

 俺はそう彼女に聞く。

「麻梨乃のこと?」

 アリーは意外そうに聞き返す。

「どうしても気になるところなんでな。別に彼女のことが知りたいわけじゃないんだが、悪魔見習いをどんな風に利用しているのかは聞いておきたいんだ」

「……そう。まあ、説明してあげてもいいけど、条件がある」

「条件?」

 俺は少しだけ身構える。

「あなたのその質問は私が今悩んでいることにも関係してくる。だからその相談に乗ってほしい、それだけ。どう?」

「そういうことなら別にいいけど……」

 俺は不思議そうな目でアリーを見る。知りあったばかりの彼女が俺に何を相談するのか分からないが、おそらくその麻梨乃という人物は俺や桜と同じで願いを叶えようとしない人なのだろう、と勝手に解釈した。

「それじゃあ説明する。麻梨乃は会った時はとてもいい子だった。私の能力なんか使わなくてもいいくらい、素直で純真な子だった」

「だった……?」

 なぜアリーの表現が過去形なのか、その理由を聞く。

「でも、私のある行動が麻梨乃を狂わせた」

「ある行動だって?」

 俺は聞き返す。

「それは私の能力のこと。私が願いを叶えることができる悪魔だと知った麻梨乃は私にその能力を見せるように迫ってきた。私も断りきれなかったし、実際に願いを叶えたら試験の合格も早まるだろうと思ったのもあったから、麻梨乃の言うことを聞いてしまったの」

 アリーは悲痛な表情で俺を見る。

「麻梨乃はそれから人が変わったようにわがままになった。おいしい食べ物、かわいい洋服、美しい容姿、それこそ麻梨乃の欲望は際限なく毎日のように私に伝えられる。私も最初はそんな毎日が楽しくて彼女の願いを叶え続けていたけれど、最近それで本当にいいのかって考えるようになった」

 アリーは真剣な顔で俺の方を見る。

「別に試験に合格したくないわけじゃない。でも、このまま変わっていく麻梨乃を見るのは耐えられない。私はどうしたらいい? これが私の相談」

 彼女の相談内容は想像以上に重く、俺は言葉を失う。

「でも、こんなことを会ったばかりのあなたに相談しても仕方なかったのかもしれない。あなたは何度か沙良の能力を見ているみたいだけど、それでもあなたの意思は変わらなかった。だから、あなたに相談すれば何かが変わるかもしれないと思ったけど、結局話したところで現状を打破できる訳じゃないもの」

 沙良は立ち上がる。

「ごめん。そろそろ帰らないといけない」

「もう行くのか?」

「麻梨乃が待ってるから」

 彼女は隠されていた漆黒の翼を広げる。それは沙良やケンが持っているものと同じ、悪魔が持つ固有のものだった。

「待ってくれ。帰る前に1つだけ頼みがある」

 俺はアリーにそう言う。

「何?」

「お前の連絡先を俺に教えてくれないか? 何か力になれることがあるかもしれないし」

 俺は携帯電話を取り出した。

「……ありがとう。過度な期待はしないけど、そのくらいなら構わない」

 振り向いた彼女はいつも沙良が使っているようなリモコンを取り出すと、緑のボタンを俺の携帯に向けて押した。

「それで私のアドレスは登録されてると思うから確認してみて」

 俺は携帯を確認すると、沙良とケンの他にもう1つ文字化けしたアドレスが登録されていた。

「こっちは大丈夫みたいだ」

「こっちにも登録されたみたい。それじゃ、私は帰るけど最後に1つ」

 アリーはそんな前置きをして俺を見る。

「今はまだ言わないけど、このままだとそのうち私は厳しい言葉をあなたに告げなければならない。その前までに自分で気付いてくれたら嬉しい」

「何だそれ?」

 俺は首を傾げるが、

「忠告はした。それじゃ、また今度」

 アリーはそのまま一瞬で姿を消した。

「……俺も沙良に食べ物買って帰るか」

 1人になった俺はフランクフルトとたこ焼きを買いに逆方向へと向かうことにした。



「お、タツッキーじゃねーか。こんなところで会うなんて珍しいな」

 俺がたこ焼き屋さんに着くと、そこにはケンがいた。

「今日はお前1人なのか?」

「いや、買い物するのに桜についてきたんだが、あいつが見て回るのがカバンやら服やらばっかりでな。退屈してたんでたこ焼き屋で暇潰してくるって言って抜け出してきた訳さ」

「そういうことか」

 俺は納得する。

「それよりそっちこそ今日サラっちはいないのか?」

「ちょっと考え事がしたくて別行動をな。あいつは留守番してるよ」

「それでその対価にたこ焼きを買いに来たと」

「そういうこと」

 俺たち2人は苦笑する。沙良の行動パターンはそれだけ読みやすいということなのだろう。

「しかし、タツッキーが何か考えるっていうと……アリーのことか?」

「知ってたのか?」

「桜から教えてもらったんだよ。まさかあいつまでこの町にいるとは思わなかったけどな。おかげであの時は酷い目にあったぜまったく」

 ケンは思い出して渋い顔をする。

「あれは自業自得だろ」

「まあな。で、何を考えてたんだよ」

 ケンにそう聞かれ、少し悩んだ俺はアリーの相談をケンにも話してみることにした。



「それは……、難しいな」

 話を聞いたケンの最初の一言はそれだった。

「タツッキーも知ってるとは思うが、悪魔は本来人間に肩入れしない生き物だ。その後そいつが破滅しようがしまいがそいつの自由ってスタンスが基本だからな。基本的に破滅していく人間を助けるようなことはしない。それが悪魔ってもんだ」

「……やっぱりそうだよなあ」

 沙良が前に似たようなことを言っていたので、やはり同じ答えだったか、と俺は落胆しかける。だが、

「まあでも、その麻梨乃ってやつの意識を変える方法ならなくはないぜ」

 ケンはそんなことを得意げに言った。

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