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結・・・終わりへ

ジャヌーイ教授は訊ねた。

「君は死の運命に疑問があるのかね?」

「はい。」

「それは何かね。」

「なぜ、僕は死ななければならないのでしょう。」

「それは簡単だ。人は皆死ぬ。君はそれが定められてるだけだ。」

「僕にはそれが自然の運命、定めとは思えません。」

「つまり、人為的に感じると…」

「はい。」

教授は暫く黙り、やがて美術品の周りを歩き回りながら訊ねた。

「君は、伏線、と言う言葉を知っているかね?」

「はい。物語の一見関係ないようで、後に繋がる部分の事ですよね?」

「そうだ。例えば、現場の時計が全て壊れていた。それは一見事件解決には関係ないと思われていたが、実は犯人を特徴づける重要な意味を含んでいた、とかな。」

「…はい。それで?」

「伏線とは予兆、予兆とは運命の定めだ。虚構における伏線は、現実の運命。例えば、喧嘩してマンションを抜け出したから、その後に起きたマンションの火災から命を救われた、とか、謎の番号を夢見て頭から離れなかったが、実は宝くじの当選番号だったとかな。」

「何が言いたいのですか?」

教授は立ち止まってメーランを向いて言った。

「君の死は運命づけられていたのだよ。全てに置いて死への伏線が張られていた。聞いただろう。あの歩道橋から死んだ使者の言葉を。『今や偶然自然の現象すら君が死ぬのを待ち構えている。』その通りなのだよ。」

教授はメーランに一歩一歩ゆっくり迫りながら言った。

「派手さを求めず、ひたすら統一化、平坦化を求める灰色の街で君は一人浮いていた。」

「やはり、それが原因ですね。」

「いいや、勘違いしないでいただきたい。これは灰色の街という組織の殺人ではない。運命だ。その違いを理解していただきたい。これは伏線の一例に過ぎない。」

「では他にあるんですか?」

「君は黒い服を来ている。」

「そうですか。黒は死を現す、て事ですね。」

「そんな安直な話ではない。君は『灰色のボサノヴァ』を聞いたことがあるか?」

「はい?」

「『灰色のボサノヴァ』聞いたことがあるはずだ。」

そう言ってるうちに、笑顔の教授の背後から、ドラムやピアノやベースギターやボーカルが現れ、バーで聞いたあの曲が豪華にジャズ風にアレンジされ、歌われた。


*


♪白いわたしと 黒いあなた

二人で 灰色の幸せ


灰色 それは 砂の粒

砂は海に 運ばれ


Ah!世界を旅する わたしたち

昨日も今日も 青のバカンス

Ah!でもそれで いいのかしら

灰色の幸せが 懐かしくて


白いわたしと 黒いあなた

砂より 運ばれない岩になろう


わたしとあなた ここで作りましょ


灰色の幸せ


*


音楽が終わると演者たちは一礼してゆっくり消えていった。

教授は言う。

「白いわたし…は運命の使者。白いスーツを来た使者。黒いあなた…は黒服の君だ。二人で灰色の幸せ…幸せとは運命だ。灰色の街の、運命。だが砂のように流されてはいけない。君は海を象徴する、永遠の青い世界には行ってはいけない。」

「永遠の青い世界とは何ですか。」

「君が死ぬ時に言おう。」

「しかし…」

「いいから聞きたまえ。神はそれに対し、砂のような軟弱さを求めなかった。だから岩のような強固さを求めた。君が確実にここで死ねるよう、我々に宣言した。あれはそのメッセージだ。そう。だから君はそういう運命なのだ。」

「つまり、僕が青い世界とやらに行かないよう、僕をここで殺しておく、と言う事ですね。」

「全てが良き方向に行くために。」

「冗談じゃない。あなたたち神の使者とやらは何かを隠している!」

そう叫びながらメーランは窓を見た。窓の外の運命の使者がにこりと笑った。

「その真実を隠蔽するために、僕を殺すんだ!やがて僕がたどり着くかもしれない事を恐れて!」

「君は実は以前も真実を口にしたが、まあいい。この真実だけは知られてはならない。灰色の街は不完全だからな…真実を知った時君はここにいられなくなる。」

「どういう事だ!」

「これ以上言わせるな!私だって言いたくもない!あれは本当に恐ろしい事実だ…運命の使者になって見させられた…」

「青い世界を?」

そうメーランが直感的に訪ねられると教授が一気に青ざめるのが見えた。メーランは追い討ちをかけた。

「青い世界が…ここのどこかにあるのですね?」

「うるさい!だまれ!」

「どこですか?教授。」

倒れこんでしまった教授の顎をつかんでメーランは訊ねた。教授は笑いだし、呟くように喋った。

「もはや…いいだろう…実際に…分からないと…な…しかし…分かった所でもはや遅いがな…ぐはは」

そしてメーランを見つめて言った。

「神殿の頂上に、青い世界に直結する穴がある。そんなに殺されたくなければ行きたまえ。二つに一つだ。行け!」

そう言って教授は笑いだし、何も語らなくなった。メーランはもはや会話は終わりだなと察し、美術館から勢い良く出た。白い運命の使者が、黒いメーランを追いかけた。メーランは力の限り逃げた。大学が見え、メーランはその門を駆け抜け、神殿の入り口に入った。神殿内の他の運命の使者がメーランに襲いかかったが、それを振り払いながら、神殿の階段を上がっていった。上の光目指して。


そして屋上にたどり着いた。穴など見当たらない。どこにあるかと探し回った。屋上には神殿を支える巨大な柱四本と、床しかない。メーランはふと思い立って柱を登った。すると、メーランは、柱のうち一本が中空になっている事を発見した。穴は地下へ地下へと繋がり、最深部も突き抜けて穴が開いていた。ここから落ちるしかないか。

どうしようか、勇気が出ずにメーランが迷っていたとき、階段から次々と運命の使者が現れた。殺されるか、否か。

メーランは一つの選択をした。穴に身を投じたのだ。真っ暗の穴の周りが高速に過ぎ去り、やがて明るくなった。それは青かった。青の世界。落ちながらメーランは天を見上げた。巨大な灰色の板。いや、落ちていくうちに箱の底面と分かった。さらに上には雲が見える。そうだ。灰色の街は空に浮かんだ箱だったのだ。街以上の広がりなどあるはずがない。青い世界とは灰色の外にあった。歌の通りだ。流されて、“海”である空へ行く。

そうか。最初自分が疑問した通りだったのだ。ここは虚構だったのだ。ここは空を背景に作られた場所。場所から出たらそこには何もなく、地に足が着くことなく、戻る事もできない。空が背景とはいえ、やがて限界は来るであろう。限界は徐々に来た。青い空はやがて暗くなり、空というレイヤーを抜け、ただの無へと行く。だが、無には何も無いから、落ちるという過程は全て略され、やがて、虚構の世界からも抜け出て落ち、この文字上からも抜け落ち、その果てに、やがて、あなたの足元に墜落する。

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