01. 出会い
覚醒は突然訪れた。
ずっと使えなかった目と耳に、情報が押し寄せてくる。だが、闇に慣れきった目では、周囲がよく見えない。ここはジャックのアジトではないのだろうか? 俺はまた誰かに攫われたのだろうか。
俺が一人混乱していると、先んじて回復した耳が、通る声をはっきりと聞き取った。
「騎士団だ! ここで違法なオークションが開催されているという情報を得た。全員、その場から動くな!」
怒号と悲鳴。忙しない足音、呪文を詠唱する声に何かが爆発する音。
状況はさっぱりだが、逃げなければならないことは分かる。
生存本能に突き動かされた俺は、自分が黄金像であることも忘れ、足を動かそうとした。が、足元にある布……らしき感触に足をとられ、全身をしたたかに打ちつける。
「う…………」
俺は硬い床に転がって、しばし放心した。打ちつけた箇所の痛みにも、そもそも転んだことにも、本当にびっくりしていた。
俺、黄金像でなくなっている、のか?
思い返せば、ジャックの話し相手をさせられる時、黄金化を解かれるのは耳と口だけだった。目が見える時点で気づくべきだったが、じわじわと広がる痛みに、黄金像でなくなった実感がようやく生まれる。
痛みすらも喜びに変わった。俺は布に絡めとられながら、懸命にもがいた。何故、魔法が解けたのかは分からない。でも、黄金も鍵のかかった部屋ももうまっぴらだ。自由になりたい。普通に生きたい。
だが、ずっと使っていなかった手足は、なかなか思う通りに反応しない。目もぼんやりとしか見えないままだ。その間にも、怒号や悲鳴は大きくなっていく。
焦りを募らせていると、いきなり視界が暗転した。肌に触れるざらりとした感触からして、大きな布かなにかを被せられたらしい。
ダメだったか、と他人事のように思った。心を冷やして、絶望に備える。今度はどこに連れて行かれ———。
「それに隠れてじっとしてて! すぐに助けが来るから!」
若い男の声と慌ただしく離れていく気配。俺は何もされなかったことに驚いて動けず、結果的に彼の言葉に従っていた。
「ボーイとぶつかった時、このメモを押しつけられて……」
「どれどれ……。『ステージの布の下に隠れている男の子を保護して』? 何で自分でしないんだ?」
「自分に聞かれてましても……。渡してきたボーイには逃げられてしまいましたし」
「とにかく布どけるぞ。お前は構えとけ」
若い男が立ち去ってからしばらくして、今度は二人分の足音が近づいてきた。鋭く研ぎすまされた、戦闘の心得がある者の気配だ。若い男の言う「助け」か、それとも……。
誰であっても、生きのびてみせる。
覚悟を決め、目をいっぱいに見開いた。ばさ、と俺を覆う闇が翻る。
ようやく回復した視界に初めて映ったのは、炎が人間になったみたいな赤い騎士だった。騎士は俺を見るなり警戒を解いて、手を差し出してくれた。
俺が最初に助けてくれた彼の正体に気づいたのは、彼を失ってからだった。
次話で完結となります!




