12 彼女が戦う理由
「お前達も、何被害者面しているんだ、お前達も同罪だろ」
偽りの情報を聞かされた下位貴族達は、自分達の娘も勇者に洗脳されていた事を知りその真実を隠していた王族や上位貴族達に怒りの声を上げるがエリナは、その下位貴族達にも言う。
「私の家族も幼馴染も友達も村長も皆私の話を聞いてくれなかった、お前達もそうだろ、娘の話を聞かず国の言葉を信じた、お前達にとって娘は、国よりも大切じゃなかったって事だろ」
「そ、そんな事は」
「我々は、ただ」
「何だと言うんだ? お前達は、自分達の保身を守るためにしたんだろ? だったら私の村の連中と同じだ、ここにいる奴ら全員私からしたら自分の事しか考えていない無能な奴らだ!! ただの村人だった私と違って力もあったのに、頭も良かったのにそれなのに、お前達は、何もせずただ自分の身を守るだけでこれを無能と言わず何だと言うんだ!!」
エリナの言葉は、その場にいた全員に重く伝わった。
何故ならエリナの言った事は、決して間違っているわけでもない。
「私の好きだった幼馴染は、別の女性と結婚していたよ、私は、その光景を目の当たりにした、わかるか? 好きだった幼馴染が他の女と結婚したんだ、私もあのクズに洗脳されなければ、そこに立つのは、私だったんだ」
突然エリナは、独り言のように語りだす。
「しかも親からは、アンタなんて産まなければ良かったって言われたんだ、私は、全てに絶望して村を出て森の中を走ってた、情けない事に私は、自分で命を絶つ事ができない臆病者だった、だから走っていた何も考えず目的もなくそこで私は、魔物と出くわした、ゴブリンが数匹いたそいつらは、私に襲い掛かったその時私は、思った、ああやっと死ぬ事ができるって、魔物達は、何も考えず人間を襲うからだから私は、魔物なら殺されても良いと思った」
エリナの語りに全員が絶句し冷や汗をかいている者も多くいた。
「だがその時私は、思った、ただで死ぬのも嫌だとだから私は、その時持ち出していたナイフでゴブリンを切り付けた見苦しく抗って無様に死のうとそれが私の死ぬべき姿だと、だが気づいたら私は、ゴブリンを全部殺してた私は、生き残ってた、私は、それから何も考えず歩いた気づいたらこの王都に来ていた、私は、そこで冒険者ギルドに入った、そして私は、討伐の依頼を受け続けた、ランクが上がるのも別に良いと思ってたそうすればより強い魔物の討伐依頼を受ける事ができるから」
「まさかエリナ殿、貴殿が高ランクの魔物の討伐依頼を受け続けているのは」
騎士団長のドレアファスは、ある答えに辿り着いてしまった。
できれば違って欲しいと言う答えに。
「そうだ、より強い魔物なら私を殺してくれる魔物がいると思ったからだ、だから高ランクの魔物の討伐依頼を私は、毎日受け続けているんだ」
「では、スタンピードの時、一人で敵に突っ込みタイラントドラゴンと戦ったのも」
「あれなら、私は、死ねると思ったからだタイラントドラゴンもあの強さならあいつなら私が見苦しく抗って無様に死ねると思ったからだ」
エリナの答えにドレファスは、もちろん他の騎士達、魔導士達そして目の前の王や王妃、王女そして貴族達も絶句していた。
まさか、この国の最高ランクのSランク冒険者が高ランクの討伐依頼をしていた理由が衝撃だったからだ。
「だが、皮肉な事だ私は、村人で何の力もないと思っていたのにまさか魔物と戦える実力があったなんてな」
エリナは、乾いた笑みを浮かべて言う。
「すまなかった」
王がエリナに謝罪する。
「私は、魔王からこの国を守るために別の世界の者を召喚させる儀式がある事を思い出しただからその儀式を使用したもちろんこの国や世界を守るためだ、だが召喚したその者にも自分の世界での生活があったと思うそれを無理やりこの世界に呼んだのだ、ある程度の自由や態度は、仕方ないと思ったのだ魔王を討伐に行ってくれていたから、だから多少の事は、多めに見ていただが勇者が魔王と相打ちになって死んだ途端周りにいた使用人や貴族の令嬢達が急に意識を失い倒れて目が覚めた時に発狂する者もいたどうしたのかと問うたら勇者に洗脳されていたと言っていた、その時勇者の遺体を魔導士に調べさせた、そして勇者は、異性を洗脳する魅了の力を持っていた事がわかったのだ、私は、その時どうしたら良いのかわからなかった、まさか召喚した勇者があんな男だったとは、微塵も思っていなかったのだ、だからもし勇者の真実がこの国に知れ渡ればこの国の信頼も評価も下がってしまい他国にとって弱みを握られると思った、だからこそ私と上位貴族の者達で偽りの情報を流す事にしたのだ、そのせいでそなたのような者が出てしまったのもまた事実、言い訳にしか聞こえないが、それでも許されぬ事をしたと思っている、すまなかった」
王は、再びエリナに頭を下げ謝罪する。
その王の行為に本来なら止めるべきだが誰も何も言えなかった。
「別に謝罪などいらない、今更謝罪してどうなる」
そんな王の態度にもエリナは、冷たく言い放つ。
この時点でも不敬罪でエリナは、死罪になるのだがエリナ自身が死にたがっているなら、それは、エリナを喜ばせるだけだろう、ましてやこの国でタイラントドラゴンをたった一人で討伐できる程の実力を持つエリナを失うのは、国にとっても相当の痛手になると思い誰もエリナを咎める事をする気には、なれなかったのだ。
ましてやエリナがそう言う条件で会いに行くと言ってそれを了承しているのだ、この場にいる誰にも文句は、言えないだろう。
「褒美を与えると言ったな、なら今の真実をこの国のすべての国民に伝えろ」
エリナの言葉に全員が息を呑む。
「それができないなら、勇者に洗脳された被害者全員を調べて既に自殺してしまった者は、仕方ないが今も生きている者には、残りの余生遊んで暮らしても大丈夫な分の金を渡せ、修道院に行っていない者は、今も外に出るのが怖くて家に引きこもっている者も多くいるからな、これだけの貴族がいるんだそれに王なんだから金もそれなりにあるだろ、それと別の世界から呼び出す儀式に関する資料とかもすべてなくせ、やり方を覚えている奴は、他の奴らに伝えるな、自分で墓まで持って行け、それと国王、王妃、そして王女そして今この場にいないすべての王族達に伝えろ、今回の事を忘れるな、これから先後継者が生まれたらその後継者にも伝えろ、そしてその次の後継者にも伝えろ、自分達のした事の罪を未来永劫伝え続けろ、別の世界の者に頼ったからこのような結果になった事、私のような者が出た事を忘れるな」
「それがそなたの要望だな、わかったできる限り善処する」
「その言葉、嘘じゃなければいいがな」
そう言ってエリナは、王の間を出て行くのだった。
今日の事で討伐依頼を受ける気がなくなったのかエリナは、そのまま宿に戻り、自分の部屋に入り、ベッドに横になるのだった。
「言いたい事は、全部言った、無礼だの不敬罪だのと言って死罪になるならそれも無様な死に方になるか」
そう言って、エリナは、眠りにつくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
同時に投稿している作品「魔王様、今日も人間界で色々頑張ります」もよろしくお願いします。




