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第十五話 早速いない

「よっと到着だな。」

「なんか未だに足が浮いてる感じがするっすね。」


 周りを確認すると有染はちゃんと近くにいて安心した。


「よし、有染さんもちゃんといるね。」


 あれ?虚子がいない。


「ここにいるわよ。」

「うおっ。」


 真後ろで立っていた。

 一瞬脳内から聞こえたかと思って心臓が止まるかと思ったじゃないか。


「ちゃんとセカナイールにいるってことは、有染さんはセカナイールのギルドに行くことになるね。」

「そういうのって住民登録とか関係ないのか?」

「無いんじゃないかな。私たちもそういうの無かったでしょ。」


 相変わらずよく分からないシステムだ。

 兎にも角にも登録をしに行くしかない。

 何も始まらないからな。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「有染・・・っと、登録完了しました。どうぞお受け取りください。」


 早い。

 何でだ。


「意外とあっさりなれるもんっすね。」


 誠に遺憾である。

 僕たちは無駄に命がけだったはずなんだが。


「凄い顔してるね霊明君。」


 当たり前だ。


「・・・・・よし、さっさと行くぞ冒険。」

「お、やる気満々だねえ。次に行くのは・・・ここだよ!」


 地図を開いて指し示した場所は茶色い場所だった。


「砂地?」

「分からないけどなんか未踏の地っぽいからここに行こう。」


 滅茶苦茶な脳みそをしているなこの人。


「未踏の地に挑むなんて冒険者らしいわね。」

「楽しみっすね。」


 まさか僕だけまったく乗りきれていないようだ。

 そしてこの有染は順応が早い。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 こんな場所に謎のオアシスがあるなんてな。


 茶色い場所が示していた場所は綺麗な池を取り囲むように崩れた拠点があった。

 拠点があるということは未踏とは言えないのではないかとも思ったが些細なことだ。


「まあ・・・地図に無いってことは実質未踏の地っすね。」

「謎の気遣いありがとう。でも心配はいらないよ!冒険にこんなことはよくあるよ。」


「それにしてもとっても綺麗な場所ね。」


 拠点は少し壊れているが、それがまた神秘的に写している。



 ・・・・・様な気がする。



「おあつらえ向きに椅子みたいなものも置いてあるっすね。」


 池が近くにあるのか少し涼しい。

 ちょっと寒いくらいだ。


 だがのどかだ。

 オカルト世界でもこんな時間を過ごせるとはな。



 バサッ バサッ


 鳥の音もいいエッセンスだ。

 なんかやけに大きい羽根の音だけどどんな鳥だ。


「いやあ本当に綺麗な場所っすねえ。・・・?」


 ガシッ


「わああああああああ。」


 なんか羽の生えたよく分からない物体に有染が連れ去られた。


「追いかけよう!」

「見逃さないでね霊明君!」

「当たり前だ。」


 ギリギリ見える有染を必死に追いかける。

 有染はよく分からない生き物に肩をしっかりつかまれている。

 遠目からでよく見えてはいないがまあ血が垂れているわけでもないし大丈夫だろ。


「しかしかなり高い位置にいるな。」

「どっかに止まらないかなあ。」


 高い位置を維持しながら飛んでいるなら流石に疲れて少し休憩をするはずだ。


「ちょっと待って、この位置からだとあの洞穴みたいなところに行くんじゃないかしら。」

「待つ必要はないと思うが、あのまま入ってしまったらかなり高い場所まで行くことになるぞ。」


 流石にロッククライムは僕には出来ない。

 何とかその前に取り戻すしかない。


「そうこう言っている内に入られたんだけど。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」


「よし、作戦を練ろう!」

「そんな時間は必要ないわ。」


 珍しく虚子が息巻いている。


「何する気だ?」

「こうするのよ。」


 そう言いながら虚子は自分の体を強化し始めた。


「まさか強化して登る気か?素人が登れるのか?」

「まあ見ておきなさい。」


 自信満々の虚子は岩山を前に立ち一呼吸する。


 そして右腕に力を入れ手を岩山に置き始めた。


 ガッ ガッ


 いやあれは手を突き刺して登っている。

 虚子の上った後に細長い穴がついていた。

 良い観光地になりそうだ。


「もう穴の近くまで登って行ってるね。」

「早いな。」


 今回は虚子が大活躍だ。


「さあ穴の中はどうなっているのかしら。!?」


 風が木を揺らして葉が舞い落ちてくる。

 その影に紛れて何か落ちてきた。


「なんだありゃ。」

「あ、あれ神雨さんじゃない!?」

「!?うおおおおおおおおお!」


 考えるよりも走りだす。足が勝手に動き出していた。


 この高さから落ちれば死ぬかもしれない。と走りながら考えるが上手くまとまる前にもう虚子は落ちてきている。


「くっ、こうなったらチョコレートで僕自身を滑らせる。」


 チョコの勢いとさっきのは知ってきた勢いを足して虚子の落下地点に滑り込んだ。


 ガシッ


「ようしナイスキャッチ。」

「死ぬかと思ったわ。ありがとう禍々士くん。」

「あ、あぁ。」


 こんなに近くで虚子笑顔を見たのは久しぶりで、少し胸の鼓動が早くなった。

 僕はそれを悟られないように立ちながら話を続ける。


「何があったんだ。」

「分からないわ。中に入ろうとしたら突然突風が吹いたのよ。」


 突風か。外敵対策はしっかりとしているらしい。


「大丈夫ぅ?神雨さ~ん。」

「ええ大丈夫よ。部長さんの能力で穴まで飛ばせないかしら。」


 部長のテレポート能力は強力だが出来る範囲がある。

 やはりここは僕しかないかもしれない。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「チョコレートの限界に挑戦するときが来たみたいだな。」

「そんな時が果たして現実の世界で起こりうるかしら。」


 いや、あるかもしれない。何かしらのギネス記録的な何かなら。


 ・・・今はそんなことを考えている暇はない。


「よし、チョコを岩山に纏わりつかせて階段を作るか。」


 手を這わせて慎重にかつ大胆に階段を作っていく。

 段々にするとは言っても穴から離れては元も子もない。

 途中で切り返し徐々に徐々に穴までの距離を縮めていく。


「ようやくだな。」


 穴の近くまで辿り着いた僕は足元を頑丈にし、そっと穴の中を覗いた。


「有染は・・・・・一人か?さっきのよく分からん奴は奥に潜んでいるのか?」


 少し身を乗り出して頭を穴の方へ入れる。


「!?ぐおおおっ。」


 物凄い風が出口に向かって吹き荒れる。


「頭だけでこれほどの風力とはな。これじゃ虚子が吹っ飛ばされるわけだ。」


「?あ、私の自己紹介中寝てた人じゃないっすか。どうしたっすかこんな所で。」

「どうしたもこうしたもない。お前を連れ戻しに来たんだ。早くこっちにこい。」


 誰もいないうちに早いところ面借りたいんだ。


「いやこのまま穴の近くまで行ったら風で飛ばされちゃうっすよ。寝てた人。」

「寝てた人じゃない。僕には霊明禍々士って名前が・・・ってそういやあの風どうやって耐えているんだお前は。」

「なんとなくっす。」


 なんとなくで耐えられるもので虚子は吹っ飛ばされたのか。

 虚子からすればやりきれないかもしれないな。


「なら穴を防げばいい。行けチョコレート。」

「チョコ?うわっ。」


 穴の大部分をチョコで包み一時期的に風で穴の外に飛ばされないようにした。


「凄いっすね禍々士。なんか甘い匂いがするっすけど。」


 いきなり呼び捨てだ。

 人が人なら勘違いする。


「甘いのは能力的な話なんだがそれはまた後だ。とにかくここを出よう。」

「エスコートよろしくっす。」


 有染が手を出して僕の手を取った。

 僕はその手を少し強引に引き寄せる。


 ビュオオオオ


「風が・・・・・。」

「大丈夫だ。後ろにはチョコが・・・・・。」


 パキイイイィィィィン


「あっ。」

「壁壊れたっすね。」


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオッ


 チョコの壁がぶっ壊れたと同時に風がさらに勢いを増して僕たちの体へ衝撃を加えてくる。

 当然なす術もなく穴の外へと吹っ飛ばされていく。


 風に身を任せて視界を下に向けると地面が見える。

 そして空は綺麗だった。


「あ、これ死んだっすね。」

「いやまだ死ぬには早い。」


 落ちていく体に空気の壁が当たる。

 ゆっくりと手を横にして岩の壁からチョコの足場を作ろうとする。


 だが落ちていく体の速度に耐えられず作って瞬間から背中にぶつかりボロボロと壊れていく。


「ぐえっ。」


 壊れたならまた作り直す。そしてまた壊れる。

 そうして何度も繰り返すうちに段々と速度は落ちていく。


「ぐっ、ぐはっ、がっ、ぐふっ。」

「ちょ、落ちる前に死ぬっすよ!」


 背中に何度も衝撃が加えられていくが、この調子なら(背中を犠牲に)無事に済みそうだ。



「上から霊明君と有染さんが降ってきた!というよりも落ちてきてる!」

「じゃあ助けないといけないわね。はぁっ!」


 下から虚子が勢いよく飛んできた。


「がはぁ。」


 そしてその勢いのままこっちに突っ込んだ。


「無事ね。」

「さっきまではっすけどね。」


 はっ!若干意識が朦朧としている。どうやら何者かにやられたようだ。

 もっと思い出してみる。あの悪魔のような顔を・・・。


 あっ。

「殺す気か!」

「やっぱり無事じゃない。」


 恐ろしいやつだ。

 仲間に殺されかけるとは思いもよらなかった。



 気を取り直してだが有染の体を見る。

「どうやら怪我はないようだな。」

「まあ一応大丈夫っすね。なんかチョコレートの匂いが充満してるっすけど。」


 それは気にするな。誰もが通る道だ。


 しかしこんなに派手にやらかしたんだ。

 追っ手が来そうなものなんだが特に動きがないな。


「それよりいつまで私に抱えられてるのよ。」

「流れだ。もう下りる。」


 虚子に抱えられながら考え事をしてしまった。

 学校でこんなことがあったら最悪血祭りだろうな。


「穴の方から何か出てくる様子はないわね。」

「いや1匹動いてくるっすよ。」


 ?ここからじゃあ何も見えないはずなんだが。


「なぜ分かるんだ?」

「なんとなくっす。」


 なんだこいつは。

 まあいい。とにかくここで足踏みしている場合じゃない。


「よしっ、そろそろ次の冒険でも行こうかな。」

「!?なんか来るっす!」


 有染がそう叫んだ瞬間に穴の中から1匹の大きな何かが飛び出してきた。


「なっデカイなあれは。」

「こっちに来るわ!」

「とにかく走ろう。」


 一瞬チラッと見えたがあれはモンスターだ。

 大きな翼を持っているが鳥みたいな形ではない。

 そしてなんと言ってもモンスター特有の暗い色の体色をしている。そしてなおかつ巨大。


 驚異でしかない。


「有染、ちゃんと走れるか?」

「余裕っす。舐めないで欲しいっすね禍々士。」


 どっから出てくるんだよその自信は。


「・・・いきなり呼び捨て、ね。」


「おい虚子、立ち止まるな走れ。」

「分かってるわ。」


 兎にも角にももう何度目かの逃走劇だ。

 逃げるのには飽き飽きだが仕方ない。



 ガサッ


 モンスターが森の中に入っていった。

 これで終わり・・・って展開になるわけが無い。


 さてっどこから襲いかかってくるのやら。


「っ!禍々士!すぐ横から来てるっす!」

「何!?うわっ!」


 咄嗟に横を向いてチョコレートを出す。

 そのすぐ後にモンスターは横から現れ襲いかかってきた。


 ガァァアン


 衝撃がチョコの盾から全身に響いていく。

 ギリギリでもモンスターから守れたのはいいがなぜ分かった?

 これが所謂有染の能力というわけか。


「次また来るっすよ!」


 それにしてもこいつはしつこい。


 バリイイイイン ボォォォ


「なっ、急に燃えた?」

「ファイアーボールにはこんな使い方出来るんだよ霊明くん。」


 結構誰でも思いつきそうな事だが黙っておこう。

 それに部長転移の力も合わさって驚異になっているかもしれない。


「怯んだすきにチョコでモンスターを覆うか。」


 それなりに大きいモンスターは倒すのに時間がかかる。

 ここは逃げの一手だ。


「準備万端ね。禍々士くんそのままいなさい。」

「はい?」

「鉄拳制裁!!!」


 ヒュンッ ドゴアァァァ


 前を走っていた虚子が猛スピードで後ろに来たと思ったら、今度は物凄い勢いで拳をモンスターに叩き付けた。


 そのまま虚子の拳はチョコで覆われたモンスターの体に深々とねじ込まれていき、やがてモンスターは崩れ始めた。


 おそらく能力で自分をフル強化したのだろう。


 ・・・少しモンスターに同情しそうだ。

 虚子を怒らせるとこれが降ってくるかと思うと恐ろしいな。


「このちょっと綺麗な石が換金出来るのよね。」

「お手柄だね神雨さん。」


 全く虚子の脳筋ぶりには呆れかえるな。

 僕以上の脳筋じゃないか。

 このままだと脳筋パーティーの完成だな。



 ガサガサ ガサガサ ガサガサ


 キィィィィィィィイ


「ぐあ何だこの音。」


 耳を劈くような金切り音に思わず耳の穴深くまで塞いだ。


「た、大量のモンスターがこっちに迫ってきてるっす!!」

「な!?」


 驚くことばかりだ。

 まだこっちに来て間も無いのに。


「おいアンタたち、何ボケっとしてるの。こっちに逃げるよ。」

「よしわかった。」


 ん?


「ってだ―――――」

「誰なの?あなた。」


 ・・・先に言われた。


「私はサネテア。しがない魔法使いだ。とにかくこっちに来い。」

「今はついて行こうみんな。」


 部長の言葉に皆頷きサネテアという魔法使いの後を僕達は必死に追いかけた。

お読みいただきありがとうございます。

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