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第十話 可能性のチョコ

 そのモンスターは人間の形、というより虚子の形をして僕たちの目の前に立っていた。


「あれは一体どういうことだ?」

「たぶんだけど人間や生物の体を模して擬態するモンスターかもしれないよ。」


 やはりオカルト世界、色んなモンスターがいるらしい。


 !?モンスターが突っ込んできた。


「守れ!」


 ガキィイイン


 チョコの壁でとりあえず守れたが、離れてくれそうにない。

 体の硬さは人間ではなくモンスターらしいことはわかる。


「部長、とりあえず今は虚子の側にいて守ってくれ。」

「私も戦うよ!」

「ダメだ部長!この前のリネイラさんの時と同じだよ。

 ここには他のモンスターがいるかもしれないんだ。部長はそこにいて僕に任せてくれ。」


 くっ、なかなか強い力で押してくる!


「わかったよ。」


 盾だけでは駄目だ。

 攻めに転じなければ押し切られてしまう、イメージするのは剣だ。

 盾の後ろから攻撃を仕掛ける!


「薙げ!」


 ヒュン・・・


 くそっ避けられた。

 しかし剣の作る速さ、格段に成長している。


「霊明君!回復薬を取って!」


 部長から回復薬を投げて渡される。


 急に渡されては少し焦ってしまう。

 慌てた手では当然受け取れず下に落ちていく。


「くっ。」


 しかし地面に落ちることは無かった。

 何故ならチョコのイメージが完了していたからだ。


 受け取った回復薬を一気に飲む。

 すると減っていた体力がみるみる回復していく。

 これならまだまだチョコを使えるだろう。


「行くぞモンスター。」


 スーテムで買った武器とチョコの剣を持ってモンスターに挑む。


 鎧は必要ない。

 動くには邪魔なだけだ。盾はチョコの壁を必要なときに出せばいい。


 キィィィィイイン


 モンスターの手と剣がぶつかり合う。

 見た目は虚子の癖に中々力が強い。


 だが所詮動きは人型だ。

 力が強くても人間の喧嘩の延長戦でしかないのだ。


「チョコジャベリン、放て。」


 宙に浮かせたままだと無駄に体力を消費するだけだ。

 速攻で作り速攻で放つ。


 そして、モンスターがそれをガードした隙に。


「はぁああああああ!!」

 僕が剣を腹に斬りつける。


 ガンッ!


 モンスターの装甲は思っていたよりも固いようだ。

 簡単にヒビは割れない。


「くぅっ!」


 こちらの攻撃の隙をついてくるモンスターの攻撃。

 こっちもその攻撃を捌ききり攻撃に転じようと試みるが、そう簡単には手を出させてはくれない。


「はぁ・・・はぁ・・・、急にボス級が出てきやがったな。」


 明らかに今までのモンスターと違う強さ、その攻撃力や装甲がこれほどまでに勝ち筋を見せなくするのか。

 流石に攻撃が効かないのではバランスブレイカーだ。


「っ!?ぐぉ、このやろう・・・。」


 考える暇もないくらいに接近戦を繰り広げてしまう。

 一旦距離を取ろうとするがすぐに追いついてくる。

 それに後ろへ退けば退くほど守るはずの虚子や部長へと近づいて行ってしまう。


「はああああ!」


 力を溜めて強引に斬りかかる。

 危険な真似だと思うが活路はこれしか見つからない。


 だがモンスターはその攻撃を受け止め、少し下がって助走をつけて飛び掛かってくる。


 その場で追撃をしないのはありがたいが威力が増した攻撃を繰り返し受けていると体力を徐々に摩耗していく。


 何とか打開したいが部長に手を借りるわけにはいかない。


 ガキンッ! バキンッ!


 チョコの剣が割れてしまった。

 隙が生まれてしまう!


 すぐにチョコの盾を作って防御態勢に入る。


「・・・・・・・・・・?」


 衝撃が来ない。盾を見て攻撃をしなくなったのか?


 ガキインッ!


「ぐおっ。」


 急に衝撃が来た。

 今の沈黙は何だったのか。


 もしかしてチョコの剣が突然消えて困惑していたのか?もしそうならそこが隙になるか。

 

 一種の希望的観測が頭をよぎる。


「活路を見出したかもしれない。」


 後はタイミングだ。

 僕自身は脳筋のゴリ押し戦法一辺倒だから勇気を持つだけだ。


 モンスターが後ろに下がって突撃をしてきた。

 すかさずチョコの剣を作る。


 だが今回は少し脆くイメージして作っておく。


 ガァン・・・バキンッ!!!


「おおおおおおおおおおおお!」


 チョコの剣が割れると同時に正拳突きの形のチョコを作り殴りぬける。


 困惑したモンスターの腹に見事に命中し吹き飛んでいった。


「相当硬くしたはずなんだが、吹き飛ぶだけか。」


 だがモンスターの体をよく見てみると腹の部分が少し欠けていた。


 一応効果はあったようだ。このまま順調に行きたいところだ。


「・・・・・・・・・・・・。」


 モンスターはじっと立ち止まってこっちを見ている。

 こっちが攻めるのを待っているのだろうか。


 スッ・・・・・・


「っ!」

 突然モンスターが動き始めた。それに合わせて突撃体制になる。


 グニュッ


「なっ・・・・・・!?」


 モンスターの背中から突然触手のようなものが生えてきた。 

 節のように二本生える。


 ザクッ

 先端が尖り地面に突き刺さる。その触手を足のように使うさまは蜘蛛のようにも見えた。


 グニュッ


 また二本生えてきた。

 これで四本。本当に蜘蛛のようだ。


 だが今度の二本は地面に突き刺さず宙に浮いている。


 おそらくだが先に生えた方は移動用で、後の二本は攻撃用だろう。

 今までのモンスターと違いすぎるようだ。


 中々気持ちが悪い形状をしている。


 攻撃方法が変わったなら攻略も変わっていく。


 変わるのは敵の隙だけの話だが――――――


 ヒュンッ ズシュッ


「!?う、ぐぅ・・・・。」


 腹に何か刺さっている。

 生暖かいモノが体を流れて服を赤く濡らした。


 血だ。触れると手が赤く染まっていた。


「ぐ・・・ぐあああああ。」

「霊明君!!!」


 後ろから声がする。


 モンスターに集中しすぎたせいで部長のことをすっかり忘れていた。

 もうこの怪我だ何振り構っていられない。


 部長に助けを一瞬求めよう。そしてその間に回復薬を。


「部長!」


 ビュンッ!


 耳に風を切る音が聞こえた。


 後ろを振り返るとモンスターの背中から飛び出た触手が千切れているように見える。


 それは構わない。


 僕は今この腹の血はその触手の攻撃から受けたものだ。

 そして触手は二本千切れている。

 一本は自分の腹。


 もう一本は・・・。まさか!


バタン!!!


「部長!」

「大丈夫、はぁ・・・はぁ・・・。ちゃんと神雨さんは守ってあげられた・・・よ・・・・。」


 油断していた。


 その結果がこの様だ。


「何が任せろ、だよ。部長の方がしっかりと守れているじゃないか。

 大丈夫なはずないだろその傷は・・・・・!」


 部長の傷は自分の受けた傷よりも大きく深く刺さっている。


 部長の能力ならあの攻撃を上手く対処できたのかもしれない。

 しかし失敗すれば眠っている虚子に深い傷を負わせてしまう。


 だからあえて庇う形にしたんだ。


 部長の覚悟は尊くそして気高いものだと思う。

 僕にその覚悟は作れるだろうか。


「いや作るんだ。その覚悟を!」


 やることは変わらない。

 あのゲームと一緒だ。

 相手の動き何て関係ない。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 ただ突き進むのみだ!


 ガキィイイン ガアンッ 


 モンスターの気を後ろに向けない程に連撃を繰り出す。


 体力の消費や分配など関係ない。


 斬り続け、壊れるたびに作り続ける。


 今までのモンスターの動きに触手が加わってさっき以上に自分の攻撃の隙を狙ってくる。


 その攻撃をチョコで守る。視界の外の話だが予測で補う。


 汗でチョコが溶けてすっぽ抜けた。

 後ろに吹っ飛んでいくが気にせず作って斬り続ける。

 連撃の隙をついてモンスターも攻撃をしてくる。

 もちろん防御はするが攻撃の機会を見極め観察する。


 ガキィィイイン ヒュッ・・・・・


「・・・?」


 攻撃の後、モンスターが後ろに下がった。


 もしかしてモンスターの形態は変わったが行動自体は変わっていないのでは?


 そういうことなら話は早い。

 さっきは試さなかったがモンスターが後ろに下がるときは間合いを計りなおしているのだろう。


 つまりそこは隙になる!


 だったらもう一度攻撃をさせるまでだ。


「ふう・・・。」


 部長は今はちゃんと治療しているだろうか。

 気にはなるが同じ轍を踏まないように後ろを向くつもりは無い。


「行くぞモンスター。」


 二つの剣を構える。

 声を理解しているとは思えないがモンスターもそれに応えるように構える。


「はぁあああああ!」


 キィイイィィン ガキィィィィン


 また連撃だ。


 そろそろ体力が尽きてきている。

 ここで終わらせないとそろそろ駄目になりそうだ。


「!?」


 二本の触手が左右から襲い掛かってくる。

 チョコレートフォンデュのようにチョコを出して体を守る。


 チョコのベールに包まれながらモンスターの攻撃を防御する。


 ヒュッ・・・・・・


 後ろに下がった!


「はああああああああああああ!」


 このまま突進して腹の穴にチョコを突き刺す。


「貫け!」


 モンスターも今までと違う行動に驚いているのか、突進の対処が出来ずに懐まで引き入れる。

 そしてそのままチョコレートを体に迎え入れた。


 ガキィィィイイイイン 


「ぐぅううううううう。」


 間一髪のところで防がれてしまった。


 だがモンスターの腕と触手の二本は使い物にならない程ボロボロにした。

 

 これなら!



 一瞬目の前のモンスターが消えたように見えた。


 その直後に自分の影が大きくなり、その影は後ろに飛んでいく。

 モンスターが跳躍し後ろの虚子たちを先に攻撃する気だ。


「待て――――ぐっ・・・。くそ・・・。」


 こんな時に腹の痛みや体力の消費が効いてきた。


 前に前にと進み続けたせいで虚子までの距離が相当開いてしまっている。

 僕が走って向こうにいる間にモンスターは殺し終えているだろう。


 ・・・ここまでなのか。



「これは・・・。」


 ふと下を見ると何かが虚子まで延びている。


 モンスターの体液か?

 いやそんなものは出ていなかった。ならこれは何だ。


 少しの考えの後すぐに浮かび上がる。

 これはチョコレートだ!


 汗で滑ったチョコレートの残骸が虚子たちの近くまで飛んでいたようだ。


 だがこれが何だというのだ。

 この絶望的な状況ではどうしようもないことだ。


 そんな弱い考えの頭に懐かしい言葉が浮かんでくる。


 ―――――――チョコの可能性―――――――


 そうだまだチョコの可能性はこれで終わりではない。


 ――――――イメージしろ。


「このチョコレートで僕自身を運ぶことは出来ない。だが攻撃なら。」


 このチョコレートを経由して攻撃を喰らわせる。


 ――――――そうだ。


 わざわざ武器の形にする必要はない。


 ――――――イメージするのは波。高波の勢いでモンスターの腹を貫く。


 もうモンスターは虚子たちの近くへと飛んでいる。


 ――――――やるなら今しかない!


「波打て!僕のチョコレェートォォォォォー!!!!!」


 膝を着きチョコレートに指を這わせチョコレートを大量に出す。


 勢いの付いたチョコレートは波が出来、その勢いは止まらずにまた大きな波を作って最終的に槍のような鋭く強大な波を作り出す。


 グシャアアアアアアアン!!!


 そしてその大きな波は隙だらけのモンスターの腹に突き刺さった。


 だがその勢いは止まらない。

 モンスターの腹を食い破るようにその波は大きく膨張した。


 バキイィィィィン


 モンスターの腹の穴が大きくなっていきヒビが体全体にいきわたる。

 そしてそのまま崩壊を始めた。


「よ・・・かった。助け・・・・ら・・・・れ・・・・・・・・・て。」


 瞼が落ちていく。


 そのまま草のベッドに僕は眠った。


「はっ。」

「おはよう禍々士くん。こんなにいい朝なのに寝坊とは感心しないわね。」


 目を覚ますと虚子が目の前で皮肉の混じった笑顔を見せる。


「おはようおはよう霊明君。元気かい?」


 部長の無駄に元気な声が聞こえる。


「まぁ元気だと思う。」


 いつも通りのそっけない返事をするが内心かなり嬉しい。

 ようやくこの日常に帰ってきたと思える。


「色々とこの世界の事情を聴いたわ。そしてこの部活の内容も。」


 僕が寝ている間に部長が虚子と話していたんだろう。


「虚子はこの世界どう思うんだ。」

「朝起きていきなりその話をするなんて、って今なんて言った?」

「ん?だから虚子はこの世界どう思っているんだって。」


 なんで二回同じ事を聞くんだ。


「今虚子って言ったわね。」

「言ったね。」

「あっ。」


 しまった。つい昔の馴染みで言ってしまっていた。


「まぁあのモンスター?との戦いの時も聞こえてたんだけれども。」

「いやな奴だな、なかなか。」


 だがこんな他愛ない会話が今は楽しい。

 それほどにあのモンスターとの戦いは熾烈を極める戦いだった。

 あの時のことをもう一度思い出しながら布団に入った。


「って今から寝ないでよ霊明君!」


 もう一度起きた時部長と虚子は少し準備をしていた。


「もう出発?」

「それはまだ先だよ。先に神雨さんの冒険者登録しないとね。」


 そうだ、虚子はまだ冒険者ではない。

 それに能力もまだ知らない。


 どんなものか楽しみだな。


 それはあの道場に行くということも含めて。


「シュリットさんって言う人よね。楽しみだわ。」

 それを言えるのも今の内だ。



 ということで道場まで虚子を連れてきた。


「ここね。」

「あぁ頑張れよ。」


 虚子を道場の中に招き入れる。

 中にはシュリットさんがスタンバイ状態だ。


「今日はお前が冒険者になる資格があるか私が見極めてやる。

 人は瀕死の寸前で力を覚醒するもの。」

「そうなの。」

「さぁ能力をイメージしろ。いざ尋常に勝負!」


 相変わらずいきなり勝負してくる。

 言っていることも前と全然変わっていない。


「イメージ、イメージね。といってもこういうことには疎いのだけれど。」


 シュリットさんは槍を持ったまま突進してきた。

 戦闘スタイルまで前と変わっていない。


「このままだとお前を一突きだぞ!」

「あら、そうなの。じゃあ、えい。」


 虚子の体が少し赤いオーラに包まれた。

 これが能力なのか。

 だがもう目の前にシュリットさんはいる。


 スッ・・・・・ トン・・・・・ ドサッ・・・・・


 槍を寸前で避けて首に手刀を喰らわせシュリットさんが倒れた。


「勝ったわ、これで終わり?」

「・・・・・・・・・・・・、あぁ終わりだ。」

「なら早く起きてもらいましょう。回復回復。」


 虚子が手を翳すとシュリットさんの体が緑のオーラに包まれていく。


「ん・・・・・はっ!!!」

「あ、起きたわ。」

「まさか眠っていたのか。私は。」

「はいそうです。」


 虚子はこういう系の能力か。

 体を強化したり回復させたりする補助タイプ。

 いよいよこの展開がゲームらしくなってきた。


「おまえにはこれをやる。これで修行は終わりだ。・・・・・ではな。」


 僕の時よりも別れるのが早い。

 おそらく相当ショックなのだろう。


「虚子、帰るぞ。」

「本当に終わりなのね・・・・・。」


 今の状況でその言葉は傷つけることしか出来ないだろうな。


「あれ、もう修行終わっちゃった?」

「ええ。」


 少しかわいそうに思えてきた。

 同情しますシュリットさん。


「じゃあ今日から本格的にオカルト研究部、始動なんだね。」

「いやもう一人いないといけないんじゃ。」

「細かいことは言いっこなしよ禍々士くん。」


 虚子に諭されるとは。


「よ~し、オカルト世界の研究の冒険へ出ぱ~~~~~つ。」

「ってまだ虚子の準備が出来てないだろうが。待って部長!」

「ふふっ楽しくなりそうね。」



空を見上げると青い星が光っている。

 今にもこの地上へと降り注ぐ勢いで光輝いている。


 ・・・・・まぁそんなことはあり得ないのだが。

「なんて考えてると本気で落ちてくるんだよなぁ。こんな世界じゃ。」


 そう、この世界はそんな普通の世界じゃあり得ないようなことが起きてしまう。

 なんせこの世界は不可思議な力が蔓延する世界なのだから。

「って部長も虚子ももういないじゃないか。僕を置いていくなよ。」

 

 だがこんな世界でも楽しくやっていけたらいいと切に思う。


お読みいただきありがとうございます。

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