9口は災いのもと?
頑張って続き書きますよぉ!
さて、と俺は自身が使用した食器類を洗うために椅子から立ち上がり食器を運びやすいように重ね始める。
「あら、私が洗うわよ?」
「いや、宿を借りてる身でこういうことを厄介になっている人たちに任せるわけにはいかないよ」
「あら、意外としっかりしてるのね?」
「失礼な」
と鼻を鳴らして不機嫌そうな表情を取る。するとアーリィは、
「フフフッ、冗談よ。私の妹を助けてくれる人がそんな図々しい訳無いじゃない♪」
となんとも楽しげに話した。アーリィはそれと──と言葉を続ける。
「リンはここに住むのよ?」
──は?
「え、今…なんて?」
おかしい、聞き間違いだ、そう思って聞き返した。
「だ・か・ら、リン君はここに住むのよ?」
俺は思考が停止した。一瞬なんと言われているのかを脳が理解するのを放棄した。いや、放棄した訳ではないな。何故なら──
──バカな!こんなにかわいい女子とこれまたかわいい幼女とひとつ屋根の下で暮らすだと!?まさか俺にこんな美味しいイベントがやって来るとは!─ハッ!と言うことは俺はアーリィと将来ニャンニャンしたりすることが出来るのか!?っていや待て待て、今考えるのはそういうことじゃないだろ!本題はどうしてそんな話になったって事だ、いったい誰の提案でそうなったんだ!?─あれ待てよ、その提案をもし、もしアーリィとかリラがしたのならやっぱり脈ありって事じゃないのか?マジか!もし、もしそうなら俺は、俺は遂にチェリー君からそつgy──
俺の脳内はこんな感じだったからだ。
「あら、リン君大丈夫?」
「ファッ!?」
「きゃっ!ちょ、ちょっと何?どうかした?」
「あ、いや!な、何でもない、よ!?」
妄想の海への旅を終えて戻ってきた俺は、いつのまにか目の前に顔を覗かせていたアーリィを視界に捉えた。だが俺はすぐにアーリィから弾かれるように目をそらしてしまう。
──あれ、アーリィってこんなに可愛かったっけ?
今まではアーリィのことは意識しすぎないためにも一歩引いた感じで、観葉植物を鑑賞しているような、何だろう、目の保養程度にしか見ていなかった。
だがそれが一緒に暮らすのだと意識した瞬間急に俺との存在─いや関係が急接近した気がした。だからなのだろうか、俺は今、アーリィのことを一人の女性として意識し始めてしまった。もしかしたら─という想いに駈られたからなのだろうか。
「本当に大丈夫なの?すごく顔が赤いけど、熱でもあるの?」
「いいいいいやいやいや!そんなことは無いよ!?ただぁちょっとぉ、なんというかぁ、そのぉ……」
──かかかか可愛すぎて見とれてた!なぁんて言えるわけ無いだろ、この俺が!
ふとその時、キュピーンとアーリィの瞳が妖しく光った気がした。
「ん~?もしかして私に見とれてた!とか!?」
「え!?あ、いや!それは、そのぉ…うん……」
──はぁん!俺のバカヤロォ!
「ってそんな訳──ふぇ?」
アーリィは間の抜けた声を出すと、そのまま石のように動かなくなってしまった。すると辺りには静寂の空間が広がっていく。
──ど、どうしようやべぇ!マジでどうすりゃいいんだ!?
俺はリア充でも無ければ彼女だっていたことがない。つまり恋愛に関してはド素人なのだ。今まで陥ったことのない経験に対して俺は大いに動揺していた。
もしかしたらそれは、本当にもしかしてではあるがアーリィも同じかもしれない。
俺もアーリィも何となく相手に顔向けできなくて俯いていた。今の自身の顔を晒すのがお互い恥ずかしいからだ。俺の場合、鏡が無いから予想しかできないが、きっと面白い顔をしているに違いない。
するといい加減沈黙が耐えきれなかったのかアーリィから言葉が投げ掛けられる。
「……ねぇ、さっきのって…ほんと?」
俺の心臓がドクドクと血液を高速で身体中に送っている。まるで全身が脈動しているかのようだ。
パクパクと口を動かし、何とか言葉を紡ぐ。
「う、あ、ああ。見とれて、たよ」
「ふ、ふ~ん?あ、ありがとね」
「い、いや俺は、しょ、正直に言っただけ、だから!」
「そ…そっ、かぁ…。そんなこと言われたの、家族以外なら初めてだよ」
「え、ええええそうなの!?」
──嘘だろ、こんなに可愛いのに!少なくとも美人とか言われてそうなのに!
「ええ、そうなの」
「お、俺も見とれてる、なぁんて人に言ったのは初めてだよ」
「!?へ、へぇぇ?そうなんだ?ふ~ん」
再び静寂が蘇る。
──どうしてこうなった……。こんなんで一緒に住めるのかい?俺よ。
「あ、そう、言えばさ、俺をこの家に住まわせるように、って言ったのって誰なの?」
何とか俺は話題を変えようかと試みる。
「それは、私と、リラよ」
──な、なんだとう!?
俺の心に僅かに動揺の色が広がる。
「ど、どうしてアーリィとリラはそんなことを?」
「それは……、リラがリン君と一緒に居たい!って言うから…、ちょうど部屋も空いてたし」
「アーリィは、どうして?」
「な、なんとなく……、リラの意思を尊重して……まぁリン君さえ良ければだけどね?」
「俺の返事としては、正直願ったり叶ったりだし、明日は野宿する気満々だったし、YESとしか答えようがないけど」
と俺は言葉を一度切って小さく深呼吸をした。
そして──
「よし!うん、まぁそんな訳だしこれからよろしく、です…」
話題を変えたい!という思いが通じたのだろうか、いつの間にか俺はバッ、と右手を突き出していた。無論この場合の右手は握手のためだ。その俺の突然差し出した握手のための右手にアーリィはそっと手を触れて、
「ええ、こちらこそ、よろしくね!」
と言った。もちろんお互いの顔は熟れたリンゴの如く赤いままだったが。
余談だがその日の夜、リラはどこかから聞こえてくる感情のない男女の笑い声が怖くて以降眠れなかったそうだ。