10スキンシップ
お待たせいたしました。連続3話投稿です。
俺たちは握手をしたあと、アーリィは水場に食器をそのままにしていたのを思いだし、慌てて取りに向かった。
俺はそのあとに続いて自分の使った食器類を持って水場へと向かっていく。
右手に持つ食器が道中カタカタと揺れて音が鳴る。
──いやぁしっかしまさかあんなことを体験する日が俺の身に来ようだなんて夢にも思わなかったなぁ。
つい先程の出来事を思い出す。地球にいた頃の俺ではまずあり得ない展開だった。そもそも異性と話す機会がなかったし、いじめなどは特になかったものの友人なども俺にはいなかったので、俺は言葉通り灰色の青春を送っていた。
だがこちらの世界に来て、異性と知り合うことができた。しかもその異性とどちらも不快になることなくお互い友好的に接することができていた。俺はそれがたまらなく嬉しかった。
そんなことを考えている間に俺はいつの間にか水場の目の前に来ていた。
「よい…しょ、ふぅ…」
「お、やってるね」
「ええ、ってあら?」
アーリィは視線を落とし俺の持っている食器に目を移す。
「あら、ごめんなさい、私としたことがすっかり忘れてたわ!」
「あ~いいよいいよ元々自分でやろうとしてたんだし」
「あ、それもそうねぇ、じゃよろしく♪」
「ははっ、了解」
そう言い俺も水場の前に腰を下ろし持ってきた食器を洗い始める。
「あらダメじゃない、ここはこういう風に磨くのよ?」
すると横からアーリィのダメ出しが飛んでくる。
「えっ、とこうかい?」
「ん~ちょっと違うわ、もっとここからなぞるように…」
「あ、こういうこと?」
「そうそうそんな感じ。ほら綺麗になったでしょ?」
「おお本当だ、んじゃ次もそんな感じに…」
「ああ違うわ、それはもっとこう…こんな感じに…そうそう!」
「へ~、食器によって洗い方が少しずつ変わるんだね」
「フフン、そうよ?だから食器を洗うのも簡単じゃないのよ」
「ほう、なるほど」
──食器を洗うのですら色々考えるんだなぁ。
俺の世界には洗剤、なんていう便利なものが存在したがこの世界にはそんなものはもちろんない。スポンジ状の何かの素材で水洗いするだけだ。
俺はそのあとも他にいくつかアーリィから助言されつつ洗い物を進めていく。そうして終わった頃にはすっかりお互いいつもの調子で話を出来るようになっていた。
「さ、ちょうど良いしリンにも手伝ってもらおうかしら?」
「ん?何を?」
「これをその洗った食器と一緒に持っていってちょうだい?」
「ああ分かった……、ってアーリィは運ばないの?」
俺がそう言うとアーリィは、
「あら?リンがいるのに私が運ぶと思ってるの?」
「……はぁ。分かった運ぶ、運びますよ…」
「フフッ、よろしく♪」
ニコッと小さな微笑みを見せた。
当然俺はその笑顔に見とれてしまう。
──ううう、やっぱりかわいいぃ……!
何とか赤くなってしまっていそうな顔をアーリィから逸らし、
「よ、っと」
重なった食器を持つ。そして俺が歩を進めるとアーリィはその後ろから小鳥を追いかけるようにして俺の背をついてくる。そしてその間俺とアーリィは、
「………」
「………」
言葉は1度も交わさなかった。
「よ、い、しょっと」
食器を全て棚にしまい、ふぅ、と一息ついた。
「お疲れ様、ありがとね♪」
「いやいや、この程度訳無いよ」
「あら、頼もしいわね?じゃあ今度はもっと重いものでもお願いしようかしら?」
「ええ…、できれば勘弁してほしいナ……」
「さぁて、それはどうかしらね?」
悪戯っぽくそう嘯くアーリィはやっぱり可愛かった。なんというか仕草の一つ一つが目を引いて離さないのだ。もし、この仕草が全て演技ならば大したものだと称賛せざるをえないだろう。
「ん~~…」
とアーリィは大きく伸びをする。
「じゃあもう遅いしそろそろ寝ましょうか!」
「ん、そうだね」
「それじゃ、お休みなさい」
そう言って欠伸をしながらアーリィは階段を上がろうとする。
「あ、待って」
「?何かしら?」
「非常に申し訳ないんだけど……俺の部屋って、どこだっけ?」
「あら、リンって確かもうその部屋で寝ていなかったかしら?」
「う~んそうなんだけどね…」
とここでまたもやアーリィが俺をからかうように言葉を口にする。
「あ、そうだ、何なら私の部屋で一緒に寝る?」
──えええええ!?
「えええええ!?」
突然のアーリィの提案に俺はしどろもどろになる。
「そそそそれはあれだ、ほらやっぱりちょっと……!」
「アハハハハ!冗談よ、もう!もしかして本気にした?」
「…………」
「あ、あら?どうかしたの…て……。あ、うん、ご、ゴメンね?」
「…流石に質が悪いよ」
「ご、ごめんなさい…」
ちなみに俺の目には涙が溜まっていた。それを見てアーリィは思わず謝罪した。
「んん、コホン、と、とりあえずリンの部屋は廊下の一番奥の部屋だからね、それじゃお休みなさい!」
「う、お、おやすみ」
そうして別れたアーリィが逃げるように自分の部屋に戻るのを確認しながら俺もアーリィが指で指し示した、自分に宛がわれた部屋へと戻っていった。




