時は来た! それだけだぁっ!
ギルド支部の『ステータスオーブ』で鑑定して結果! 私のレベルはなんと33でした。
これは地方の冒険者ギルドの代表管理者になっても不思議ないレベルです。元々はレベル9だったのにっ。
ただ、どうも私の僧侶職としての力量はレベル9程度で止まっていて、実質重格闘士としてレベル33に成長しているようでした・・
レスラー・スキルに付属したスペシャルスキルは『ハッピーグラディエーター』『スパンクラーニング』『ソウルタッグ』の3種を覚えていましたが、どれも癖の強いアビリティーです。
さらに特記事項として、『ポポクレス神の使徒』『真なる黄金相当の両腕』の特殊ステータスが追加されていました。完全に怪人ですっ、私!
軽くクラクラしてきます・・・
メハに関しては最初の自己紹介通りの戦士職レベル21のステータスでした。まぁ『床屋・スキル』とか『バーテン・スキル』とか『下級兵・スキル』とかを持ってたりはしましたが。
問題はベルミッヒさんですっ。魔法使い職でレベル28っ! 神に祝福されてなくても高いです! 所持スキルも多才で、『上位博識』『解説』『上位解読』『上位推察』『教師』『傀儡使い』『魔工師』『家屋守護者』『薬師』『狩人』『釣り師』『封印師』のスキルを持っていました。スペシャルアビリティーもそれこそ山のように!
とんでもない逸材が森の奥に隠居されていたものですっ。
一通り鑑定を終えた私達は支部の食堂に集まりました。食堂ではまだ地上にいたポポクレス神様が大食いをし、3号さんが歌いながら食堂内を飛び回ってちょっと騒ぎになっていました。
「3号、鎮まれ」
「ワカリマシターっ!」
3号さんは大人しくベルミッヒさんの頭の上に泊まりました。
「ポポクレス神様はそのお食事の支払い、御自分でなされるんですよね?」
「お金は持ってないんじゃっ! 無賃マッスル! 使徒よっ。任せた!」
言うと思ったっ。
「私が払おう。溜め込んだ素材や魔法道具を売る当てがある、ふふふ」
なんとっ。
「すいません、余裕がなくて、お願いします」
「うん・・ふふ」
「御主人様、太ッ腹!」
「もういい時間だろ? 俺らもここで夕メシにすっか?」
「ここの飯は『普通』だったぞ?」
「どの口が仰られるんでしょうか?」
「この口じゃ! あーんっ」
小さなお口を開けてくるポポクレス神様。お子様過ぎますっ。
あまり構うとややこしくなるので、スッと流して結局ここでお茶だけでなく、夕飯を済ませてしまうことにしました。
ベルミッヒさんはチーズ以外はほぼ菜食メニューとワイン。メハは揚げた魚料理と大盛りパスタと生ハムにビール。私は『今日のお勧め』とフレッシュジュースを頼みました。
ポポクレス神様はデザートにアップルパイをホールで頼んでいましたが、そこで打ち止めだと警告しておきました。
3号さんは魔法石? か何かの欠片をいくつかベルミッヒさんに与えられていましたね。
今日のお勧めは、オリーブクロワッサン2個にキノコ料理とメルメル鶏の香草焼きでした。
「ベルミッヒさん、スキルが多才でしたね」
「ああ・・私に限らず、文明社会に深く関わってしまったエルフは大体こうなる。ふふ。我々の寿命は人間族の3倍から7倍程度。器用で賢く魔力の高い。『外』に出たエルフは取得し過ぎたスキルで埋もれて身動き取れなくなる物だ」
「身動き取れなくなってたんだな」
すぐ口に出しちゃうメハ。
「まぁ、ふふ。だから、我々エルフは僻地で前時代的な簡素な代わり映えの無い暮らしを送っている者が多いのだ。残念だが歴史に悪名を残した闇の魔法使いや闇の神官の多くはエルフ族だ。そのような末路を、恐れている」
「俺だったら出て行っちまうな」
これに関しては同意せざるを得ません。
「私も我慢できるのは40年くらいが限度でしょうね」
「私も退屈に音を上げた口だ。・・それに私は彼らや彼女達が特別邪悪だったとは思わない。ただ間が悪く、心が脆かっただけさ。私も、あるいは、くくくっ」
「ピョピョピョっっ」
まさか、未来の魔王とお食事してるのでは・・
「そんなことよりっ」
いつの間にかアップルパイをワンホール平らげていたポポクレス神様がザックリ切り上げてきました。
「レルクの修行じゃっ! 我は一先ず、神力を押さえた上でレスリングの基礎を学んだ方がいいと思うんじゃが?」
「基礎ですか? まぁスキルだけ覚えて、レベルだけ上がった感じではありますね」
楽器を習ってないけど弾けるようになっていて、しかし実際弾いてみないとどんな演奏できるか判然としない、といった感じでしょうか?
「我が祝福したお主であれば1日道場に通えば基礎くらいは身に付く! 明日はジムトレしてくるのじゃっ。ジムマッスル!」
「それなら俺も久し振りにギルド教練所で訓練してこよっかな? 走り込み以外で!」
「私は明日はマバオの古い知り合いに会って回ろう。墓参りもあるだろうが・・ふふ」
「うむ、では我は天界に帰るぞ? 基礎トレが済んだらなんかしら実戦のアレをいい感じにアレしておくんじゃぞ?」
「はいはい、アレですね」
「さらばじゃ! お休みマッスルっ!」
ポポクレス神様は光と共にテレポートしてゆきました。
「明日は明日として、俺、この後、知り合い何人かで夜競馬行ってくるわ」
「メハも拠点はマバオだったのですか?」
「いや、ここもだが他に2つの町を行ったり来たりしてた」
落ち着かない暮らしですね。
「根無し草だな。くくく」
「いいだろ別にっ」
「悪いとは言いませんが。私はこのあと聖教会の支部に行ってきます。流れでギルドの方に先に行きましたが、ほんとはすぐ顔を出すように散々ヤンソンで言われていたのでっ」
微妙に怒られそう!
「私は今夜はマバオの魔法使い会に顔を出す。3号、行くと会に知らせてこい」
「了解デスっ! ピョー!!」
3号さんは食堂の窓から飛び去ってゆきました。ギルド支部にも窓口があるはずですが、直接魔法使い会の会館? にでも行ったのでしょう。
「では、完食後は散会ということで!」
夜は別行動となりました。
翌朝、私は1人、ギルドの方で話を通してもらい紹介を受けたレスラー職のジムに恐る恐る行ってみました。
まだ早朝なのに! 気合いや、ドタドタ走り回ったり、打ち合ったり、『受け身』したりする音がジムの外まで響いています。
「3号さんじゃないですが、ぴょえ~っ、て感じですねっ」
こうなってなかったら一生近付かなかったかも?
「失礼しま~すっ。わたくしっ、体験入門を予約したっ、レルク・スタークラウンと申しまぁすっ!」
思い切って声を掛けながら中に入ると、モワァっ! 物凄い汗の熱気と『マッスル臭』が私の鼻腔を直撃しましたっ。
中は半裸でムキムキな男達とっ、あとは1割くらい、水着みたいな格好のやはりムキムキなお姐様方がみっちりといらっしゃいますっ。格闘してらっしゃる! スープレックス打ってらっしゃるっ!
ぴょえ~っっ、私、結構ガリ勉少女でしたからねっ?!
「おうっ! 来たかぁっ。お前ぇがマッスルの神に祝福された『巫女レスラー』かぁっ!!」
トレーナーらしきマッスルなドワーフ族(小柄ですが頑強な種族です)の方がズンズン近付いてきますっ。
「巫女レスラー??」
初めて呼ばれたのですがっ。
「あのっ、私は、基礎をですねっ」
「時は来た! それだけだぁっ! まずは股割りから『500キロ天然石』を担いでスクワット2000回でウォームアップだぁっ!!!」
「ぴょえ~~~っっっ」
こうして、私の地獄のレスラー体験が始まったのでしたっ!