悪行マッスル神ヨルン・デェ神 2
マッスル神のテーマの神力でっ、すんごい祝福効果が私達に付与されました! 結構浴びた赤い雨の負の効果も消し飛びましたね。
「我らが勇敢なる使徒達よっ! 天界の『マッスルプリズン』より3柱の悪行マッスル神達が脱獄したっ!! 1柱はどうにか確保しっ、もう1柱は我らとは別の神々が今、交戦中だっ。そして問題は最後の1柱!『残忍を楽しむマッスル』を司る悪行神ヨルン・デェ神だっ。ヤツは我らの追撃を掻い潜りっ! 地上のこの大陸へと逃れてきてしまった!!」
たぶんマスクド・ヒロシ神様の言葉に私達はざわめきましたっ。
「悪行使徒騒動の影響も考慮してっ、マッスルプリズンはより厳重に警戒し、我らと日々見張っていたのだが・・この間の神プロレスリングの興行が大成功過ぎてっっ。うっかりマッスル神同士で集まって連日どんちゃん騒ぎをやらかしてしまいっ、その『わずかな隙』をヤツらに突かれてしまった!」
「なんと狡猾なヤツらじゃあっ!!」
合いの手を打つポポクレス神様。隙だらけじゃねーですかっ!!
「・・というワケで再び皆に集まってもらった。ヨルン・デェ神は先程の『災いの雨』で『マッスルによる残忍』の概念をこの大陸中から吸収して力を大幅に高めているっ! 今はゼブンカ火山上空にヤツの支配する魔宮を封じているが長くは持たないだろうっ」
あの辺りですか。マバオの町から意外と近かったですね。
「使徒諸君には四つの入り口から同時に侵入し、一組でもいいからヨルン・デェ神の前までたどり着いてくれ! ヤツは我々神族が直接魔宮に乗り込むのを嫌って『神族払い結界』を念入りに張っていて、我らは直接手出しできない状態なのだ」
「使徒が近くまで乗り込めば対応したマッスル神をその近くの座標に強引にねじ込めるのじゃっ! 我ら誰1柱をとってもあんなチンピラ悪行神に遅れは取らんのじゃっ」
「まぁ最悪仕止め切れなくとも弱体化はできるっ。後は物量で勝てる!」
たぶんマスクド・ヒロシ神様、合理的。
「魔宮攻略の難度はっ?!」
「相手側の使徒はいるんですか?」
「報酬下さ~いっ!」
「脱獄に関してもう少し説明責任があるんじゃないですかーっ?!」
「マスクド・ヒロシ神様ぁっ」
ここから使徒やそのお仲間の方々から質問攻めになりました。
「え~、脱獄に関しては厳粛に受けており、被害を含め極めて遺憾っ。関係者各位に確認を取ると共に厳重注意を」
「酒を飲んでおったから記憶にございませんなのじゃーっ!!!」
「おーいっ!」
「いい加減にしろっ」
「現場は遊びじゃないんだよっ?!」
「天の主神呼んできなさいよぉーっ!!」
大荒れですね。私達とノライオさんとモカミンさんは顔を見合せました。
神の船の船内は一般作業用天使達が運営するちょっとした街になっていました。買い出しも可能で私達はここで装備等の調整を済ませました。
突入までもう間が無いとのことでしたが、時間が来たらテレポートされるらしく、私達とノライオさんとモカミンさんは船内の船の建材と生きている木々が一体化した構造のカフェで待つことにしました。
「毎度、慌ただしいよな」
「神様連中はふわふわしてるがよぉ、摂理の側だ。逃げた悪神どもの拘束自体、もう限界だったんだろうよぉ」
「いい素材が手に入って3号を相当強化できた。マバオで相手したくらいの雑兵なら何百体でも余裕だ! くっくっくっ」
「まっするデスっ!」
「・・レルクちゃん、大丈夫?」
「いやぁ、さすがに最近疲労を感じます。バカンスもうやむやになっちゃったし、これが済んだらしばらくシスター見習いに戻りましょうかね」
まだまだ旅と冒険を続けるつもりだったのに、スルっと口に出ました。自分で思うよりも疲れているんでしょうか?
「・・そっかぁ。じゃあ俺は終わったらメドキィア山地に住んでるっていう『剣聖』でも訪ねてみるかな?」
「私は元の森の家に籠って『最近の外出』の成果を研究に生かしてみるとするか」
「・・・」
急にもうお別れみたいな流れになってしまい「待って、今の無し」と言いたくなったのですが、ここでっ、私達の身体はうっすら光に包まれ始めました!
(レルク・スタークラウンっ! 我ら神力で魔宮の防衛システムは7割はダウンさせたのじゃっ。負の魔力障壁の内側に、お主達だけならばもう飛ばせるじゃっ!!)
(了解です。ところでポポクレス神様。真なるラッキーコインどこで使えば良いでしょうか?)
(うん? 普通に死にそうになった時に生き残る為に使えばいいんじゃ。今回は他の歴戦の使徒やいかにも戦闘特化な使徒が多くな参加しておる。お主達は無理せんでいいんじゃ)
(・・・)
やっぱり、天の大きな視点のポポクレス神様達にしてみれば『面倒な仕事の1つ』くらいの感覚なんですね。
(少し、考えます)
(うむ、いいタイミングを考えるんじゃぞ? 逃げるが勝ちじゃなからなっ! ナハハハっっ!!! マッスルマッスルっ)
全てが光に包まれました。
気付くと私達は浮遊する、禍々しい十字の神殿の1角の端に他、2組の使徒の方々と一緒に転送されていました。
ここには柱のみで壁面は無く、眼下にゼブンカ火山帯の煙を上げる不毛の大地が見下ろせました。
私はすぐには攻略モードに移れませんでした。
「レルク?」
メハが私を見てきました。
「・・私は僧侶なので、『大体はリカバーできるから多少の被害が出ても仕方ない』という加減の対応には賛同できません」
「うん」
「どうするのだ?」
「ぴょ?」
「あんまり無理はヤバいぜぇ? さっきも言ったがよぉ、神様連中は存外、最終的には最適解で動いてんだ。返って混乱するかもしれなぜぇ」
「フォローはするよ。あたしらも、そろそろ使徒は引退だからさ、最後まで気持ちよくファイトしたいのよね」
他の2組の使徒の方々がさっそく迎撃に出てきた赤土の強化マッスル兵達に応戦を始める中、私は真なるラッキーコインを蒼の武闘具シリーズ化してしまってる神父様の収納ポーチから取り出しました。
(レルク? なんじゃ??)
「真なるラッキーコインよっ! 私達を悪神ヨルン・デェ神の所まで導いて下さいっ!!」
(レルぅーークっ??)
真なるラッキーコインは砕け散りましたっ。途端っ、
ガガガガッッッッ!!!!
凄まじい電撃がっ、おそらくまだこの魔宮を覆っているはずの魔力障壁を破って降り注ぎ、天井や床、強化マッスル兵達を貫いてゆきました! 激しく揺れだす魔宮っ。
(ポポクレス神様っ?!)
(ちょっと待て確認するんじゃ・・・あーっもう! 別の悪行神と戦っておった雷神のヤツが相手に神力ブレーンバスター喰らったのに激怒してプリズンの外にいる『全ての悪行マッスル神』に電撃を落とす神罰を大雑把に発動したのじゃっ、ちょっと状況が)
「チャンスです! 行きましょうっ」
私達は他の2組の方々と共に魔宮の奥へと急ぎました!
(いやっ、じゃから! さっきは皆の手前大きなことを言ったが、ぶっちゃけ我は支援型のマッスル神じゃから最前線に我だけ召喚されても困るんじゃーっ!!)
そんなことだろうと思いましたよっ。でも止まりません! 無用な被害が広がる前にっ、少しでも状況を積極的に進めます!!