ガラクタ達の行進 後編
魔除けの野営地は元々あった物を急拵えで強化拡大させた物でした。
環境が環境なので風のエレメントの石柱を配置して、油性の悪臭が野営地に入り込まないようにコントロールされていました。結果的にここは霧が晴れています。
マスクは外せそうです。
人形殺しの方々が野営している、との話でしたが、大きくなった野営地の運営や諸活動の補助の為にギルドの職員や登録協力者もいくらか詰めていらっしゃいました。
領衛兵の方も申し訳程度に数名だけいましたね。危険さもありますが、ここはこの地域の忌み地のようなので、専門職や冒険者関係以外は進んでは来ないということでしょう。
ちょっと暗いけど洒落た感じでもある格好の、たぶん小柄なフェザーフット族の血を引いている人形殺し職のリーダーの方が対応に出てくれました。
「私はラコッテ! 貴女が噂の、鬼チョップのレルクだねっ」
「その通り名で呼ぶなら即、撤収しますよ?」
「ええー? ダメなのぉ?? わ、わかったわっ。2度と言わないわ!」
ピンクの長髪を複雑に整えているラコッテさんは冷や汗をかいていらっしゃいます。コレに関して妥協はしませんよっ?
「まぁとにかく、レルク! 状況は依頼書通りだけど。宗教団体の方が面倒になってるのよぉ? ちょっと来て」
私達はラコッテさんの案内で医療用の年季の入った建屋の隣にある新設の大きな円柱型のテントに入りました。
「っ?!」
ほとんど全員、統一された宗教服を着た数十人の人々が呼吸補助のマスク魔工具を付けられて苦し気に寝かされていました。
「これは?」
「このガラクタの森でよせばいいのに集団生活していた宗教団体の連中の生き残りよぉ。活性化したワーマシン達に拠点を襲われて、慌てて逃げてマスクも付けられないまま数日、ガスの濃いエリアをさまよっていたみたいなんだぁ」
「お気の毒に」
「それだけならまぁそうなんだけど、他の信者達は、ワーマシン達に『取り込まれちゃってる』のよっ!」
「それはまたっ」
凄惨な状況では??
「エグそうだな」
「少し不可解だ。ワーマシンだろ? 身体が有機化すれば寿命は縮まり、機械的な性能に制限も出る。ヤツらは基本的に人類を嫌悪もしているはずだ。・・人質を取るようなタイプの性質の個体群なのか?」
「違う違う。その宗教ってのが、集合体化して停滞していたワーマシン達の新しい首魁個体を『御神体』にして拝んでたんだよぉ。だから、この人達以外は進んで我が身を捧げちゃったみたいでさぁ」
うわぁ。
「・・マジ、ですか?」
流れで軽く引き受けてしまいましかたが、苦手なタイプのクエストになりそうですっ。
私達も参加する人形殺し主体の 攻略大隊による、かつての宗教団体の方々の拠点で現在ワーマシン達の巣窟にもなっている『栄誉と知性と微笑みの里』へのアタックは翌朝結構となりました。気が重いです・・
アクセサリー類はワーマシン達の電撃、火炎放射や爆薬兵器類による炎熱、化学毒類、酸、熱線への耐性で固めました。
私は蒼の部闘具シリーズで結構防げるので『加速の腕輪+1』も装備してみました。
ラコッテさんの助言でマスクだけでなく、ゴーグルも装備しています。ベルミッヒさんは度入りの水泳ゴーグルをそのまま付けてますね。
取り敢えず準備の方は万全です!
数隊に別れ、ガラクタの森を素早く移動し、私達3人とラコッテさんは栄誉と知性と微笑みの里が見下ろせる里の周囲の歪な樹の一方の樹上に上がって様子を伺いました。
城壁は崩れ、魔除けの障壁も大気のコントロールも失われ、里の建造物もあちこち壊れていました。
里の中にはワーマシン達が数百体はひしめき合っていましたが、案外グロテスクという程でもなく、様々な武装をしたマネキンをベースにした魔物、といった容姿です。
私は内心ホッとしました。
「思ったより普通の見た目ですね」
「だから、中に『半流動化した肉と骨』が詰まってるってば。人だった頃の人格とか記憶、ちょっと残ってるしっ!」
「うえぇ~っっ? ちょっと、用事を思い出してので帰っていいですかっ」
「ダメだよーっ?? もうレイド組んじゃったし! 私達の隊が首魁担当だよぉっ?!」
「私、攻撃手段が『手刀』ですよ?! 嫌過ぎるっっ」
「数々の『マッスル魔人』だかなんだかを倒してきたんだよねっ?」
「無理~っっ」
「諦めろ、レルク。もう代えが効く状況じゃないぜ?」
「アンデッドではないんですよね? なんとか人間には戻せないんですか?!」
「完全に変質してる。無理だ。まぁ『中身』を集めて『フレッシュゴーレム』として再生させることは可能だな」
「それ『人間』に戻ってませんよっ?! もうヤダぁ~~~っっ」
しばらく樹上でジタバタしていましたが、程なく突入と相成りました。トホホです・・
もうしょうがないっ。私とベルミッヒさんは先頭の私達4人にブレッシング、プロテクト、レジスト、ストロングを掛け、壊れた城壁から、栄誉と知性と微笑みの里に飛び込みますっ。
「オオ神ヨ、救イニ感謝シマスッ!! ウギギィッッッ!!!」
「アリガトウゴザイマーースッッ!!!」
私が最初に対峙したのは両腕から帯状の回転ノコギリを展開させて襲ってくる『2人』のマネキンが組み合わさった変質ワーマシンっ!
「台詞とか怖過ぎですからぁっ!!!」
私は半泣きの神力手刀で両断して魔物と化してしまったこの方々を終わらせました。
そのまま他の皆も乱戦になりますっ。
「『グロくて後味悪い』とこを除けば大したことねーな」
「素早く攻撃力は高い。油断できない、というか、今回3号がいないから雑魚戦は私を守れメハ」
「おお、そっか」
少々、メハとベルミッヒさんとのパーティー内温度差を感じますね・・
「元人間でもね、こうなったら! どこまでいっても人形なんだよぉっ」
小柄な身体で火属性の波打ち刃の大剣を振るって変質ワーマシンを倒してゆくラコッテさん。強いっ。
後続の私達の隊の人形殺しの方々も優勢です。専門集団ですからね。
他の隊も陽動と殲滅をワンセットで上手く攻め込めてるようですね。
私の困惑をよそに、私達の隊はグイグイと首魁がいるはずの、かつて教団の『聖堂』だったというゴテゴテしいあちこち破損した建物に向かいました。
1階から最下層の地下3階まで次々突破し、首魁がいるはずの『栄誉と知性と微笑みの間』の前まで来ました。
後方から増援がワラワラ来ますがこれは私達4人以外の人形殺し達に任せます。
「レルク、大丈夫か?」
「う~~っっ」
気分が悪いです。ここまであちらこちら機械油と混ざった返り血でべったりですっ。
「レルクってば」
「・・っっ、屁の突っ張りはぁ、結構でぇすっ!」
「よしよし、言えた言えた」
「後ろの仲間が心配だわぁ、早く片付けよっ」
「私は浮遊して障壁も固めて後方で支援に徹する。メハはいつも通りレルクに付け」
「おう」
私は、腹を括りました。このワーマシン達は『人を取り込むこと』を覚えてしまっています。放置はできません!
「行きましょうっ!!」
私達は栄誉と知性と微笑みの間に入りました。
それは、なんと形容すればいいのでしょうか? 蓮の花のような構造物に鎮座した『多数の腕を持つ巨人の妊婦』とでも言えばいいのでしょうか? 間違いなく機械の集合体ではあるのですが・・
そして突然っ、思念を送ってました!
(私ガ眠ル間、人ドモハイツカ、私ニ祈ルヨウニナッタ。苦シンデイルラシイ。救ワレタイラシイ。ダガ、何モ効果ハ無イ。私ニソンナ効果ハ無イ。シカシ、祈ル祈ル祈ル。何モ効果ハ無イトイウノニ。私ハ再起動ニ至リ、ますたーノ設定通リ、人ドモヲ破壊スルコトニシタ。ダガ、人ドモハマタ祈ル、私トノ融合サエ望ンダ。不合理デアッタガ、オソラクコノ戦力デ我々ハコノ地デ戦闘的ナ人ドモニハ勝テナイ。シカシコノ進化ノ『試案』ヲ同胞達ニ伝エルコトハ我々ノ最終的勝利ニ、『有効』。私ハソウ『判断』シタ。コレヨリ、実戦でーたヲ送信スル・・)
私達が面食らっていると、多数の腕の指の1つ1つが砲身と化して一斉砲撃を放ってきますっ!
榴弾だけじゃない、熱線、電撃、毒気、酸、貫通弾に散弾! やりたい放題ですっ。
「メハっ! 変えましょうっ。弾幕が強過ぎですっ。私は1人で加速して動くのでラコッテさんと組んで下さい」
「わかった。対応するっ」
私はソウルタッグの効果を捨ててでも、加速の腕輪+1を使って高速化! これだけの砲撃の中、特に熱線と電撃と散弾はリスキーだけど、私っ、頑丈!
それになんていうか・・この敵は、あんまり学習させない方がいい気がしますっ!
「しゃーっ! んちゃーーっ!!」
毒気は最初から無視! 装備が痛みそうな酸だけ気を付けて、躱し切れない熱線、電撃、散弾は基本我慢っ!! マスクが取れても我慢っ。
「マナボム×4っ!」
一斉砲撃を捌きながら、ベルミッヒさんがどうにか撃ってくれた爆破魔法を突破口にっ、私は一気に間合いを詰めました!
「でいやぁーっ!!」
御神体ワーマシンの左の全ての腕を右手1本のゴッド・エクスキャリバーで切断っ。断面がドロっとするけどこれも我慢っ!
「ヒートレイ×5っ!!」
「せぇあっ!!」
「人間ぶらなくていいんだよぉっ!!」
ベルミッヒさんとメハとラコッテさんが御神体ワーマシンの腹を破壊し、巨体の仰け反らせますっ。
私は御神体ワーマシンの苦し紛れの乱射でゴーグルも飛ばされながらっ、相手の頭上に再跳躍していました。
「『斬鉄ぅっ、エェクスッキャリバァアーー』ッ!!!!」
右手1本のフルパワーの光の手刀で御神体ワーマシンを両断しましたっ。
「キュ、救済、キュキュキュ、わーましんニ、救済ヲヲヲ・・・」
御神体ワーマシンを機能を停止し、急速に錆び付き出して崩壊を始めました。
「おいっ、見ろ!」
メハが警告します。壊れた御神体ワーマシンの腹から、マネキンではない、より人に近い構造のワーマシン達が数十体ヨロヨロと歩みだし、すぐに錆び付き、腐って身体を崩壊させてゆきました。
「これはちょっとさぁ、他の地域の残存ワーマシン達も調査しないといけないよねぇ」
ラコッテさんはうんざり気味にフランベルジュの炎を消しました。
御神体ワーマシン撃破後、他の変質ワーマシン達は弱体化し、栄誉と知性と微笑みの里の中の個体群は問題無く掃討できました。しかし、
「妙なことになってるな」
私達4人は城壁の崩れていない部分の上に立っていました。他のレイドの皆も息を飲んでいます。
私は予備のゴーグル付き簡易マスク越しに息を飲んでいます。
「アリガタヤァ、ハァ、アリガタヤァ~っっ、ソレソレっ!」
栄誉と知性と微笑み里の周囲を、変質していない普通の錆びた旧式ワーマシン達が歌いながら踊って周回を始めたのです。延々とっ! 全周で500体はいるのではないでしょうか?
「人を取り込んでいない個体群だな? 何の意味が?? 討伐されるだけだぞ?」
「・・たぶんねぇ、首魁個体から送信された断片的な情報を劣化個体群では処理しきれなかったんじゃないかなぁ? ジャンク寸前のヤツらで処理できる最大の理解と実行可能な行動がコレ。人形はさ、どこまでいっても結局こうなんだよぉ」
私は、たまらないです。
「そうじゃないから。人って、君達も、そうじゃないんだから・・」
油性の霧の中、ワーマシン達の行進は続くのでした。




