幽霊船の邪宝 1
青い海、白い雲、観光ビーチの魔除けの範囲外の砂浜の端で蠢く人喰い蟹の魔物達・・
「ふふん」
私はビーチの奥に並んだパラソルの下のビーチチェアの1つに、ちょっとゴージャスな水着に袖を捲った適当なサマーブラウスに日除け眼鏡を掛けた格好でゆったり座り、トロピカルポーションドリンクを麦の茎のストローで飲んでいました。
これまたゴージャスなプレミアムサンオイルを塗り込んでいるから日焼けも心配ありません。パッキパキに割れた腹筋がオイルでテカってます。
左腕は『ボレアスの火』のせいで軽く呪われてしまっていて応急処置で浄めの魔法式を印した包帯を巻いていますが、特に痛み等はないですし、問題無し!
ここはついこの間、鳥葬のオブリメッガとがっちがちに戦ってクレーターを作って完勝した旧王都にわりと近い『グレートイーストボザビーチ』の有料エリアです。
この辺りは熱帯に近いので雨季前のこの季節でも快適です。むしろ夏季は暑過ぎて閑散期になるくらいですっ。
業火のユリーズ撃破後、他のマッスル使徒の方々(会ったことないですけどっ)と数名リタイアはしても担当の悪行使徒達は全員キッチリ仕止め、冒険者ギルドのレイドもどうにか犠牲を出さずに撃破に成功!(すんごい費用が掛かって怪我人まみれになったようですが・・)
一連の『悪行マッスル使徒緊急討伐クエスト』は見事達成されたのでした。
私達のパーティーはもうボロボロだったのですが、ポポクレス神様にレア回復薬『ファイナルエリクサー』を天界から取り寄せてもらい一気に復活っ!
その上でポポクレス神様に、
「諸対応で我らマッスル神達はすっかり金欠になってしまったから『全マッスル神プロレスリング』の興行を天界で打って一稼ぎすることになったんじゃ。ファイトマネーは弾むからお主らも出るんじゃ!」
と言われましたが勿論、「まぁやらないですけど?」とキッパリ断り、私達は「薄情者!」等とワーワー文句を言われつつ、取り敢えず『2週間はオフ』も宣言し、中央大陸に戻ってバカンスを楽しむことにしました。
バカンスの費用は貧乏になったマッスル神様達以外の天界神様達から頂いた(私達の所には『古びた庭池の神』だというミドリガメのような神様が急にいらっしゃって慌てました)特別討伐達成報酬から捻出しました。
報酬は色々選べたのですが、3人で話し合った結果『お金が無難』となり、7割は寄付することを条件に結構な額の現金を頂いています。
7割は使徒以外で一連の騒動に対応した方々や出た被害や損失の穴埋めや、聖教会や重格闘士協会(格闘関連にも出さないの? とメハとベルミッヒさんにしつこめにイジられたので!)、床屋やバーテンの協会、魔工師や人里で暮らすエルフの協会に寄付しました。
残り3割は山分けですが、三等分しても都市部に一軒家と格好いい馬車と馬を買い、さらに使用人の方々数名を5年は養えるくらいのお金です! す、凄いっ。
実家には妹と弟の学費の足しになる分くらいを送っておきました。これで母の出勤シフトも少し軽くなることでしょう。
父の売れない本を買い占めて人気を偽装したりするのは喜ばないでしょうし、やめておきました・・
なんだかんだで有料でもわりと人のいるゴージャスなビーチにいる私です。
「くははっ! ゆけっ、『海戦スーツ型3号』!!」
「ピャピャピャーーっっ!!」
海の沖の方で度入りのゴーグルをした水着のベルミッヒさんが3号さんが入った半船形態に変形した海仕様の装着型ゴーレムに乗って、波飛沫を撒き散らしまくっています。
メハは小一時間程前まではビーチで色んな種族の女の子達にチヤホヤされていましたが、しまいに女の子達同士で険悪になってくると面倒臭くなったらしく、近くにある冒険者ギルド支部の分室? を覗いてくるとフラっといなくなっていました。
私は、トロピカルポーションドリンクを飲み干しました。
「ぷは~っ、あんだけ悪行魔人達と戦ったのに、まーたレスリング興行とかっ。やってられませんね」
「まったくだぜぇ~」
「ホントよねぇ」
「っ?!」
両サイドのビーチチェアから何やら親しげな同調っ!
「えっ??」
見ると、右のチェアに身長190センチメートルはありそうな鍛えてるけどヒョロっと細くて手足の長いハーフエルフの水着の青年。
左のチェアには額の上部左右に1本ずつ小さな角のある引き締まった体型で、ホットパンツにヘソ出しタンクトップにパーカーを着た鬼人族の美女がいつの間にか寝ていらっしゃいました!
「ひょっとして・・マッスル神関係ですか?」
「オレはぁよ『やられたら10倍返しのマッスル神』の使徒、ノライオ・シャークマウスだぜぇ?」
三白眼に大きな口でニッと笑って、白い歯を見せてくるノライオさん。ちょっと怖いですっ。
「あたしは『日々の自主トレが100日後のパワー! のマッスル神』の使徒、モカミン・シルクヴェールね」
ニッコリ笑ってくるモカミンさん。おお・・ベルミッヒさんと違ってストレートな美人さんだぁっ。
「あ~、初めて他の使徒の方々に会いました!」
「そうなんだ。まぁ最近使徒になったみたいだもんね」
「オレらはよぉ、結構古いぜぇ?」
「そうですか・・あっ、申し遅れました! わたくしはレルク・スタークラウンです。職業は僧侶で、契約したのは『もう一息のマッスル神』ポポクレス神様ですっ」
「おぅ、よろしくなぁ」
「よろしくね、レルクちゃん」
「ええ。はい・・あの、お二人も、こちらでバカンス?」
突然の『先輩』の登場にドギマギしていますっ。
「俺ら2人とも中央大陸出身で、今回の最後の相手が東の大陸にいるヤツらでよぉ」
「あ、おんなじですね」
「そうそう、それで新人の子が興行をサクっと断って中央大陸でバカンスするっていうからどんな子なのかな? ってなって」
「いやっ、まぁその」
そこだけ切り取られると『凄いダメな子』みたいな感じですっ。
「冷やかしてみようぜ、ってなったワケさぁ」
「そうですか、ありがとう? ございます」
対処に困りました。
「ありがとう、だって! カワイイっ」
頬っぺたをつんつんしてくるモカミンさんっ。こそばゆいっっ。
「や、やめて下さいっ」
「うふふっ」
「ふぇふぇふぇっっ」
笑い方怖いっ、ノライオさん!
「お~いっ!」
そこへ、ハーフパンツにビーチシャツに洒落た日除け帽子といった『結構チャラい格好』のメハが、丸めた何かの資料を手にのんびり歩いてきました。ふん?
私達はグレートイーストボザビーチ近くのホテルのバルコニー付きの部屋(最高ですっ!)に移動しました。
「『幽霊船の邪宝探索クエスト』、中々面白そうだろ?」
ビーチに持ってきていた資料と、ホテルに戻る途中であれこれ買い足した資料を纏めてテーブルに拡げていました。
「レイドではなくパーティークエストで、推奨平均レベルは33か。低くはないが、今の私達なら問題あるまい、クククっ」
「ピャ~」
頭に装着ゴーレムから出た3号さんを乗せてる緩い部屋着のベルミッヒさん。
「面白そうだなぁ。俺達も暇だからよぉ、混ぜろよぉ」
メハと同じような格好に着替えたけど、風体が違うから地元のマフィアの兄貴分みたいになっちゃってるノライオさん。
「やるんだ? いいけど、こういうの久し振りだわ~」
着替えず、パーカーを脱いでらっしゃるから倍セクシーになってるモカミンさん。
「お二人が来て下さるなら心強いですね」
私はストンとした感じのサマーワンピースに着替えてました。
「『普通』の冒険者クエスト、やっちゃいましょう!」
メンバーが増えた私達はちょっとバカンス要素の入った? 新しいクエストを始めることになったのでした。