第97話「伴奏者は誰だ!?」
「白い白い淋しい場所で
青い青いきみを見ていた
黒い黒い眩しい場所で
赤い赤い糸を辿って
もう一度
もう一度だけ
きみに逢いたい
きみに触れたい
許して
許されるなら
きみに逢いたい
もう一度だけ」
「んー、やっぱり綺麗な曲だな」
童話風というだけあって、あまり難しい音程はないが、合唱向きのメロディアスな感じのあるいい曲だ。女性ボーカルの曲がベースだから、女子パートをメインに据えているが、男子パートが加えられることで深みがある曲調になっている。
さすがだなぁ、と思う。原曲は知らないけど、こういうアレンジってぽんぽんできるものじゃないはずだ。っていうか、女声二部分と男声分のパート分の譜面作るっていうだけで意味がわからなくてすごい。
佐竹もほわあっとしていたが、今回やつは司会進行である。何故ならやつは行事実行委員だからだ。
「と、課題曲はこんな感じです。女子はソプラノとアルトに分かれてもらいます。あと、伴奏者と指揮者決めします」
佐竹の敬語を物珍しく見物していた俺だが。
「咲原、指揮者やってみねえか?」
「は!?」
佐竹のぶっ飛び発言で他人事ではなくなった。
おま、お前、なんてこと言うんだよ。コミュ障に指揮者なんてできるわけないだろ!? 下手したら歌うより目立つじゃねえかよ!? と反論したいのは山々なのだが、クラス中の視線が俺に一点集中したことにより、頭も体もがちごちに固まってしまった俺は舌が回らず、何も言えない。
「異論なければ咲原に決定するけど」
やめろ馬鹿! と思うのだが、「見られている」恐怖から声が出ない。
誰かしら反論してくれ、と祈ったところでどうにもならず、誰も何も言わない。いや、話し声は聞こえる。「咲原って誰だっけ?」ひどくね!? 今何月だと思ってんの!? 七月だよ!? 入学してから三ヶ月は経ってますよ奥さん!? 「五十嵐さんと二人三脚してたやつでしょ」そんなことは覚えていなくてよろしい!! 「昨日まで休みだったせいでうちのクラス何も決められなかったんだからいいんじゃね?」ぐ、耳が痛い……「あの冴えないのが指揮者かー、ま、自分に回ってくるより遥かにましだしいっか」冴えなくて悪かったな!?
耳を澄ますんじゃなかった。なかなかのダメージだぜ……俺はよろよろと手を挙げる。
「はい、咲原くん」
佐竹のくん付けがわざとらしくて憎い。
「あの……僕以外にも適任はごまんといるのではないでしょうか……?」
言った!! 一人称おかしくなったけど言ったぞ、自分の意見を!! 俺えらい!!
しかし、俺ごときにやられるような佐竹ではなかった。
「では、具体的にどなたが適任と思われますか?」
「えっ」
ヤバいヤバいヤバいヤバい。俺クラスの他のやつらと話したことないよ。顔と行動と名前が一致してないよ。五十嵐と倉伊と佐竹しかわからん。佐竹は実行委員だから参加できないし、五十嵐や倉伊に振るのはなんか逃げてるみたいでやだ。いや、逃げたいんですけどね?
ええ……名前しか知らないやつを下手に使命して恨まれたくない……でもやりたくない……
「はい、時間切れ」
「制限時間なんて聞いてないんですけど!?」
「咲原くん、時間は有限です。いつまでも待っていられませんよ」
ぐっ、ぐぬぬ……
「では皆さん、指揮者は咲原くんでよろしいでしょうか?」
ぱちぱちぱち。
満場一致の拍手。いやだ、なんでだ。俺はやりたくないんじゃーーーーーーー!!
だが、この雰囲気を払拭できる気概が俺にあったらそもそもこんなことになってない。おのれ佐竹め。絶対わざとだろ。
「じゃあ次。伴奏者は誰だ!?」
急にテンション高くなるなや。まあ、佐竹は[HITOKATAeyes]の熱狂的なファンなようだからな。原曲からすると、だいぶ難易度はダウンしているとはいえ、好きなアーティストの曲の譜面弾く人にはこだわりたいだろうな。
俺が滅茶苦茶他人事なのは他人事だからである。だって指揮と伴奏は同時にできない。だから間違っても俺が指名されることはない。まあそもそも俺、ピアノ弾けないんだけど。
……いや、待てよ。指揮者ってせめて伴奏者とは連携取れないと駄目じゃないか?
びっ!
「はい、咲原くん」
元気に手を挙げる俺。クラスからはひそひそと訝しむ声が聞こえる。「咲原ってあんな喋るやつだっけ?」普段は喋んないよ、コミュ障改善の見込みねえもん。「座学のとき意地でも挙手しないタイプのイメージだったわ」「まじそれ」草生やすな。
俺は深呼吸ののち、大きく息を吸って発言……というか、叫んだ。
「五十嵐さんか倉伊くんがいいです!!」
じゃないと俺の身が保たない。というかもう座ったのにみんなからの視線が突き刺さってきてオーバーキルなんだけど。俺のHPもうゼロよ!?




