第75話「なんで健一朗さんと知実さんのパスワード同じなの!?」
手がかりになるかどうかと言われると微妙だけど、これが落ちていたことに何か意味があると思いたい。
俺は半田の案内でオフィスに向かった。健一朗さんの部屋にはパソコンがなかったから。
「No.21……何かのファイル名でしょうか。っていうか五十嵐さん、いつまで見てるんですか、そのメモ」
「いや……」
ついてきている五十嵐が上の空なんだが。赤ペンの「忘れるな」じゃなくて、じっと「No.21」の方を見ているな。
健一朗さんの部屋にはほとんど私物がなかったので、この「No.21」の手がかりを求めてオフィスに向かうわけである。これで本当にただのなんでもない覚え書きだったら拍子抜け甚だしいのだが、赤ペンで書くにしたって、紙を埋め尽くすようなあの書き方は尋常ではない。
半田曰く健一朗さんの字で間違いないようだし、今は藁にもすがる思いだ。手がかりはそのメモと五十嵐だけが触れられる黒い羽根のみ。
「健一朗さんのデスクはここです」
「パソコン起動できる?」
「パスワード、誰かの誕生日だったような……」
誰のだよ、と思いながら、俺は棚のファイル(物理)を調べる。「No.21」がパソコンのファイルを示すとは限らないし。
ただやはりそんなに簡単に見つかるものではないらしい。ただ、[WHAT]は[WHAT]で超能力に関する研究をしているらしいな。ただ、「No.21」とされているものはない。そもそも資料がナンバリングされていない。読みにくくないか?
「ぐぬぬ……」
「使えない女だな」
「両手塞がって物理的に使えない女に言われたくありません」
半田と五十嵐はまた喧嘩か? 歪み合っている場合ではなかろうに。と目をやると、半田はパスワードがわからないで悪戦苦闘しているようだった。
一応、健一朗さんは半田のお目付け役感があったし、半田も健一朗さんの部下っぽい振る舞いをするからいけるか、と思ったんだが、まあ自分で使っているわけじゃないパソコンのパスワードなんて覚えていられないか。
「健一朗さんの生まれ年の四桁から始まって、nnで終わるのは覚えてるんですけど……」
「ん? 半田、健一朗さんの生まれ年って何年?」
「え?」
口を挟んだ俺に驚きつつ、半田が教えてくれる。俺も驚いた。
「け、健一朗さんと知実さんってもしかして同い年なのか……?」
「ええっ、佐倉博士の方が若いと思っていました」
「なるほど言われてみると、うん」
それに、末尾が「nn」で終わるなんて、どっかで聞いた話だぞ。
「半田、ちょっとキーボード貸して」
「咲原くん?」
ぱたぱたと打ち込む。八桁とnn。エンターキーをたん、と打てば、パソコンは起動した。
「ええっ、咲原くんなんで」
「それは俺も聞きたいよ」
俺は深く溜め息を吐く。記憶力がいいであろう五十嵐も察したようだった。
「なんで健一朗さんと知実さんのパスワード同じなの!?」
今度変えるように言わないとな。
「誰かの誕生日って言ってたけど、誰の誕生日か半田は知ってる?」
「わかりません。でも、大切な人だと言っていました。あんな顔してフィアンセの一人でもいたのかもしれませんし」
過去形とあんな顔してとはなんだ。まあそれは俺も思うけど。
「フィアンセなら幼馴染みだろう。大切な人なんてもって回った言い方をしなくてもよかろう」
「揚げ足を取らないでください。例えばの話ですよ、例えば」
「あまりにも都合がよすぎる。もしかしたら、佐倉氏と伏見氏は同級生か何かかもしれないな。同中か同じ高校か」
「パスワードの末尾がnnなのも気になるし」
「No.21」というファイルは見当たらないが……
「これは暗号かもしれんぞ、咲原、半田」
「暗号?」
俺たちは五十嵐を振り向き、二人仲良く首を傾げる。五十嵐はメモをデスクに置いて、黒い羽根でちょんちょんと示しながら続けた。
「我々が[ナンバー]と読むこの文字列、ローマ字読みにすると[No]だ。[.]はピリオドとも読み、日本語表現にすると句点、つまり[。]ということになる。つまり、読むのは[2]から始まって[No]で終わることを示す。あとは語呂合わせだ。[21No]で何と読むか」
「ちょっと待って」
思い当たる名前が一つある。でも……
「夢先生は知実さんより年下のはずだ」
「ああ。この新乃はあの夢という教師のことではないだろう。パスワードの末尾は[nn]。イニシャルだとしたら、新乃夢では合わない。家族か誰かじゃないか?」
「まさか五十嵐」
「ああ」
五十嵐は頷く。
「新乃夢が今回の犯人だろう」




