第74話「No.21?」
俺たちは半田のいる[WHAT]の支部にいた。半田に[殺刃鬼]の仕業かもしれないと話すとすんなりと通った。他の幹部にも緊急事態ということで報告してもらった。
それに便乗する形で、知実さんの失踪のことも伝えると、来てほしいと言われたのだ。
「いつも思うんだけど、[WHAT]って超能力者保護組織を名乗る割に超能力者いないんだよな」
「そうなのか?」
「ああ。同調能力でもわかるけど、何より警備だよ。能力を使えば機械とかに頼らなくていいからな。異空間系とか」
「それは確かに……」
超能力には様々あるから、警備向きの能力者がいないだけかもしれないが。それにしても、半田以外の超能力者を見たことがない。
もしかしたら、やたら俺を勧誘するのは単なる人手不足なのかもしれない。超能力の存在はおおっぴらにはできないから、表立っての活動は別のことになるだろうし。組織運営のための資金繰りとか大変そうだよなあ。
なんて呑気なことを考えていたら、半田の姿が見えた。
「咲原くん! 佐倉博士がいなくなったって本当ですか?」
「ああ、家にはいなかった。俺が家に一旦帰ったときはいて、出かける風でもなかったんだけど」
というかむしろ引きこもりに行っていたから、俺は五十嵐の家に行ったのだが、五十嵐の家にそんなに長居したわけでもないんだよな。フィナンシェで軽く窒息させられただけだし、シグナルロストとか流れてきたの、すぐだったから……移動時間も含めると、一時間くらいか。
その間に知実さんが拐われたことになる。
だが、時系列を話すと半田が眉をひそめた。
「私たちが健一朗さんがいないと気づくまでの時間と被っています。わかるかと思いますが、この支部と咲原くんの家はそこそこ遠いです。二人同時に同一人物が拐うのは不可能でしょう。普通なら」
だが、犯人は普通でないことがわかっている。
というわけで痕跡がないか確認しに来たのだが、中に入る前に半田が突っ込む。
「なんで五十嵐さんは素手で黒い羽根持ってるんですか!? 意味わかんないんですけど」
だよなぁ。俺もわからん。
が、希少な証拠品である。持ってこられるのなら、それに越したことはない。そう思って五十嵐に持ってきてもらったのだ。
ちなみに、証拠品に素手で触るのはいかがなものか、とは思ったので、五十嵐ならピンセットや手袋で持てるんじゃないか、と試したが駄目だった。黒い羽根が消えないのは五十嵐が素手で触れたときのみである。何故なのかは本当にわからない。
半田に説明すると、困惑した顔でえぇ……と微妙に呆れられた。五十嵐の能力値が常人の域を遥かに超えるところにあるのは半田も知っていたが、今まで多くの研究者が断念してきた研究素材を素手で持つ逸材がいるなど誰が思っただろうか。ピンセット泣かせである。
ひとまず、部屋を案内してもらった。健一朗さんの部屋は案外殺風景だった。学校の司書室に紅茶とか置いているからそういう趣味のものがあるかと思えば、棚の中にも机の上にもほとんど物が置かれていない。おそらく壁紙とかも貼っていないその部屋はまるで……
「刑務所みたいだな。見たことはないけどさ」
「はい……健一朗さん、あんまり私物置かないんですよね」
図書室にティーセット持ち込んでおいて? とは思ったが、なんか突っ込んだら負けな気がする。
そんな殺風景な部屋に黒い羽根がちらほら落ちている。
「そういう予想はしてなかったんですけど、五十嵐さん、羽根を手に取ってみてください。それで消えなければ完全に同一犯でしょう」
「ああ」
五十嵐は片手に黒い羽根をまとめ、床に落ちている黒い羽根に手を伸ばす。そのまま拾うことができた。
半田はまあ色々思ったのだろう。溜め息を吐いた。
「これで健一朗さんと佐倉博士の誘拐犯は同一人物と断定していいでしょう。[WHAT]での[殺刃鬼]の能力の見解は変化系です。犯行時刻から考えて異空間系の特能者もいると思われます」
「もしくは[殺刃鬼]が二重能力者ってとこか。まあ、一度に二人を誘拐なら複数人いると考えるのが妥当だとは思う」
「[殺刃鬼]が二重能力者の線は薄いでしょう」
「え」
半田の断定的な物言いに俺は疑問符を浮かべる。半田が説明した。
「[殺刃鬼]が仮に二重能力者だとして、能力を併用しない理由がないからです。組織調べでのものになりますが、[殺刃鬼]のこれまでの犯行……殺害対象は同時に複数人を請け負っていたと見られるほどです。けれど、これまで[殺刃鬼]は律儀に一人ずつ順番に殺しているんですよ。今回のように二人ほぼ同時に拐うことができるような異空間系の能力があるなら、わざわざばらばらの時間に依頼をこなす必要はないんです。[殺刃鬼]がそういう主義の人物だとして、それなら何故今回は二人同時に? となりますから、もう一人誰かいるのは確実です」
なるほど、筋が通っている。感心してしまった。
殺しをやる時点でその人物のことは理解できないと思うが、理念や嗜好があるのは誰しものことだ。
「それに、佐倉博士同様、血痕が見当たりません。殺し屋の[殺刃鬼]に誘拐を依頼する利がわかりませんね」
「確かに……」
「だとしたら、[殺刃鬼]はブラフだろうな」
黙って聞いていた五十嵐が声を上げる。
「ブラフ? どういうことですか?」
「一流の殺し屋として名が知れているやつが絡んでいたら、その存在を脅威に感じ、慎重になるだろう。命がかかっているのだから。慎重になると捜査が難航する。犯人の特定がしづらくなるということだ。下手に触ると殺されるかもしれないなら、慎重にもなるさ。……だが、それは主犯の目的が殺しじゃないことも示す」
「殺すだけでいいなら、[殺刃鬼]に依頼すればそれで済むからか」
誘拐の目的は身代金の要求が相場だが、それは世間一般での話である。まあ、殺害目的で拐うこともあるにはあるが。いい大人二人捕まえて身代金要求は考えづらい。
五十嵐が何か言いかけたとき、半田が何かに気づく。紙切れが落ちていたようだ。
「No.21?」
「何かのメモか?」
「よくわかりま」
紙切れをひっくり返して、半田は凍りついた。俺も覗くと、そこには赤いペンでびっしりと文字が書いてあった。
「忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな……」
それは何かを蝕むように、呪うように──あるいは、祈るように。




