エピローグ
風が吹いて、花びらが散る。
辺りは一瞬にして桃色に染まった。
「うわぁー!」
小さな手は初音を振り切って、歓声を上げて走り出す。
「こら、走ったら転ぶでしょう」
聞く耳を持たず、我が子は両手を上げて桜並木に駆け寄った。
絶え間なく降り散る桃色の破片を捕まえるように、踊るようにたたらを踏んでいる。
「きれいだねぇー」
美しいのう。
声が重なる。
いつかの記憶、いつかの風景。
「ねえ、ママ。知ってる?」
なあ、初音。知っておるか。
「きれい、はえーごでびゅーてぃふるってゆうんだよ」
美しい、はえーごでびゅーちふるというのじゃぞ。
「へえ、知らなかった。直隆は物知りだね」
へへん、と直隆は得意げに顎を上げた。そして甘えるように初音に向かって走ってくる。
抱き上げると子供特有の日向のにおいがした。
「さて、チビ。そろそろお家に帰ろうか」
「チビ言うなー!」
すとんと降りた子供の小さな手を取って歩き出す。
この手はいつか離れてゆくけれど。
あなたのお父さんと同じように、あたしに美しい世界を見せてくれる。
初音はゆっくりと微笑んだ。
世界はとってもビューティフル。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
お気に入りに登録してくださった方、評価下さった方、感想下さった方、厚く御礼申し上げます。
未熟な部分も多々ありますが、それでも読んでくださった方の心のどこかに引っかかってもらえれば、これ以上の喜びはありません。