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薬師とモフモフ

最終話になります

大きな寸胴鍋をルイド君と一緒にコンロの上に出した。


今日はいよいよ万能薬の調合を開始する。まあ、開始って言ってもただ煮込むだけなので、用意するものは鍋と木べらぐらいだ。材料の下ごしらえはシルバレーファミリーが総出で手伝ってくれている。皆で素材の必要分量を量り、切って鍋に入れていく。貴重な素材なので使う度にメモをしてミスが無いようにしていく。


義父さんとお義兄さんが切る係、私が分量を量る、メモを取るのはお母さん、後片付けはルイド君。


実は、この素材の調合中にも万能薬を狙う輩が現れるのを警戒して、私の家の周りには商会のワーウルフのお兄さん達が見張りに立っている。


ドラゴンの治療術師、マルタエル様の記述にも「液状化するまでひたすら煮込むべし。焦がさないように弱火で」としか書いてないので、じっくりコトコトするしかないのだ。


鍋に入れてしまえば焦げないように混ぜるだけ……だが全ての素材を入れた寸胴鍋の鍋の中の見た目がヤバイ。吐かれた〇ロみたいに見える…しかも


「匂い臭いっ!」


確かにめっちゃ匂うけど…これ異世界人の私には懐かしすぎる匂いなのよね……つまり納豆の匂いなのだ。確かに独特の発酵食品の匂いだけど…そんなに臭いかな?


クンクン…たしかにネバーーッとした豆の匂いがするけど?


「うっわわあわっリレッタ!?鼻がもげるだろ!」


「もげないよ…これ異世界でよく食べてた、おかずの匂いに似てる…懐かしいな」


ルイド君はひぃ…と小さく悲鳴を上げた。


「異世界にはそんな臭い食べ物があるのか……怖えぇ」


「何を言ってるのよ…もっと臭い食品があるのよ?魚を発酵させたものだけど、匂いで目が開けれないものがあるのよ」


そう…有名な臭い缶詰の話をしてあげるとシルバレーファミリーは慄いていた。


やがてじっくりコトコト煮込んでいた、闇鍋〇ロはねばねばしたブツが少し滑らかペースト状になってきた。


「おっ…ちょっと液体になってきたかも…」


「これ…万能薬ってこんな臭いがするって聞いたことないんだけど、本当に万能薬なのかな?」


鼻を摘まんで覗き込んできたギリッドお義兄さんが、何やら不吉な事を仰って………でも確かにこれ本当に万能薬なのかな?こんなに貴重な素材を使ってもし違う薬だったらシャレにならない。


グツグツ…


木べらを休みなく動かしながら、段々と滑らかになっていくブツを見ていて気が付いた。


これ…煮ているのに湯気が出てないじゃない…つまり質量が減らないで…入れた材料の分量のままが万能薬になる?


「ル…ルイド君!」


「っはい!何?」


匂いを遮断する魔法を使ってリビングでグデンとしていたルイド君は、ダッシュで私の元に来た。お前…今寝てなかったか?嫁の私がこんなに必死になっているのに…


「その調合方法の巻物見て!万能薬の処方の一回の摂取量はいくらって書いている?」


ルイド君は慌てて巻物を広げて見ている。


「え~と大匙いっぱいだって」


「え?たったの大匙いっぱいでいいの?ということは…この寸胴が100ミルムだから…」


1ミルムは異世界で言う所の約1リットル位なのだ。つまり、この寸胴鍋は100リットルくらい入るので…大匙いっぱい丸々取れるとすると、約6670杯!?


「ルイド君、ちなみにお義父さんはこの万能薬いくらで売り出すつもりなの?」


「う~んと180万ロエとか?」


「ヒャクハチジュウマン!?」


これも異世界で言う所の1ロエが大体一円位の十進法なので……


ひえええっ!?この寸胴鍋だけで約120憶円以上するじゃない!そりゃ狙われるわ…


「ん…でもこの素材集めの段階で人件費と経費で結構消えるよ。それにあまり安くするのも駄目なんだってさ、つまり安いとすぐに買う人がいるだろ?そうすると、万能薬に頼らなくてもいい人が薬を使いまくってしまって、重病にかかった人に薬が回らない状態に陥るからだってさ」


なるほどね…安いとそう言う弊害も起こる訳だ。この180万ロエは、異世界で言う所の一般的な新車の購入価格位だ。勿論、金持ちならすぐに払える額だが、庶民でも多少頑張れば払えるという絶妙な金額なのだ。


「あれ?匂いマシになってない?」


ん?


ルイド君の指摘に鍋に顔を近付けると、確かにあのネバネバの匂いがあまりしない。それに更に液状になっている。もしかして完成か?


「ルイド君、お義父さん達呼んで来て完成しそう~」


「そうかっ分かった!」


匂いがどうしても気になるらしいので義父達は屋外で待機していたのだが、完成しそうだとルイド君が知らせると室内に戻って来た。


「出来そうなんだって?」


「はい!そろそろ液体になりそうです。瓶詰作業の方お願いします!」


義父達は、手早く小瓶の準備を始めてくれた。洗浄魔法、防腐魔法…魔法があるだけで滅菌が凄く楽だと思う。


「すげぇな…匂いが無くなったよ」


ギリッドお義兄さんが鍋を覗き込んでクンカクンカしている。


さて、あんなに闇鍋状態に見えた素材達だったが、液状になると桃色の可愛い色になっていた。暗黒色から薄紅色だと?万能薬の不思議である。


流石に疲れたので瓶詰作業はお義父さん達と事務のおネイサン達にお任せで、リビングのソファでごろ寝をさせてもらった。ルイド君が手のマッサージをしてくれている。


「お疲れリレッタ」


「あ~何が疲れるって一滴たりとも無駄に出来ないから乱暴に混ぜれないってことよね…」


ルイド君に頭を撫でられて、急に眠気が襲ってくる。ルイド君の匂いと温かさで私は静かに目を閉じた。


「…っ…タ…リレッタ…起きて」


ルイド君の声に目を開けると、ソファの上でルイド君に抱っこされて眠っていた。


「ん…っ私…随分寝ていた?」


「ん…いや?半刻くらいかな?」


30分くらいか…それでも大分体の疲れは取れた気がする。


「リレッタ、万能薬が出来上がったから販売を始めるよ。取り敢えずローズエッタお義母さんに事前に診察してもらって優先度の高い患者さんから処方するんだって…実はその方ご家族に付き添われてうちの商会にさっき到着したんだ。帝国の貴賓扱いだから…どこかの王族の方なんだろうけど、ローズエッタお義母さんが早くしないと危険だって…皆集まっている」


私はルイド君の言葉に一気に覚醒してガバッと立ち上がった。


ルイド君と急いで家を出ると、シルバレー商会の前で警備をしてるシルバーァァ!のフェーリーさんと目が合って、こっちを見て親指を立てている。フフ…教えてあげたサムズアップ早速使ってる…ぅ?ぅうう?…!!


「フェーリーさん?その足元に居るフワッとモッフリの小さき生き物は何ですか?」


私がフェーリーさんの足元にじゃれついている生き物を震える指で指差すとフェーリーさんは事もなげに言った。


「ああ…うちの息子、コーリー挨拶…」


フェーリーさんの足元で転がっていた、きゃわいいシルバーァァ!なチビ狼が私に向かって


「はじめまして!コーリーでぇす!」


と舌足らずの声で叫んだ。


「きゃあああああ!きゃわわわわっ!モフモフモフ……げふぅ…」


ルイド君に襟首を掴まれた。


「コーリーとは後で遊んでいいから、早くしろ。万能薬の効き目見たくないのか?」


私は我に返るとルイド君と商会の中に入った。受付の奥の廊下に出ると、商談室の前に鎧を着たお兄様達が立っていた。多分近衛騎士団とかの人だ。ルイド君は臆することなく商談室に入って行った。


私の両親とお義父さんと…この間お会いしたばかりの皇帝陛下がいるぅ!?そして…担架に乗せられているまだお若い男性…顔色悪い…確かに魔流が濁って腰と頭の後ろが真っ黒だ。


「腰と頭のご病気なの?」


お母さんは担架の横に控えているローブ姿のオジサマに万能薬の小瓶を渡していた。


「あ、起きた?お疲れ様。今お薬をお渡しする所よ。そう馬で落馬されてね…」


脊髄損傷と脳挫傷かな…


「口の中に万能薬を少し垂らしてみて下さいな」


「承知いたしました」


ローブ姿のオジサマが万能薬の小瓶を開けて小さい匙で担架の上の、多分どこかの王族の方の口元に匙をゆっくりと差し入れた。オジサマの手が震えている。


皆が固唾を飲んで見詰める…


「あっ!魔流が」


「まあ!」


私とお母さんが叫んだとほぼ同時に担架の上の男性の体が輝いた。


「殿下っ!」


「やった!」


担架の上の男性は殿下という職業の方だった。この言い方はおかしいか…殿下というお生まれの方だった。


「ここは?どこだ…」


殿下は(名前は分からない)は起き上がってきた!お母さんはお付きのローブの男性に声を掛けた。


「万能薬を全部飲んで頂いて下さい」


「は…はいっ!マシューア殿下、落馬されたのは憶えてらっしゃいますか?殿下は危ない状況でございました。万能薬をお渡ししております!全部お飲み頂いて…」


その時、マシューア殿下は顔色を変えてローブ姿の男性を顧みて怒鳴った。


「なんだとっ!?世界的に万能薬が枯渇している状況なのは知っておろう!まさかどこからか強奪してきたのではあるまいな!?」


「落ち着いて下さい!正規のルートで販売されたリレッタの万能薬ですわ」


マシューア殿下は枕元に座っていたお母さんを見た。


「あなたは…」


「ローズエッタ=リコランティスで御座います。治療術師をしております。薬術師をしております私の娘、リレッタが万能薬の調合を致しました。ご安心下さいませ…全世界の治療術師に調合方法を公開しておりますし、同じく素材ハンターの皆様が素材を探して揃えて下さり、数は揃っております」


お母さんが私を見たので、慌ててマシューア殿下の近くまで移動して膝を突いた。


「リレッタ=リコランティスと申します。ドラゴンより調合方法を伝授して頂いたものを販売しております」


この殿下…お優しいな。万能薬の枯渇をご存じで強奪とかしてきたんじゃないかとそのことを真っ先に心配されるなんて…


殿下はワナワナと震えると、ローブを羽織ったオジサマから手渡された万能薬の小瓶を見詰めて涙を流しておられた。


「ありがとう…ありがとう…この薬を世界に届けてくれ」


やっぱりこの殿下お優しい…


それからシルバレー商会の皆さんと一緒に、万能薬の注文を頂いていた方々の所へ急いで万能薬を届けた。重篤な患者さんばかりだ。世界中の素材ハンターの皆さんも配達を手伝ってくれた。


そして万能薬が流通し始めて、薬が()()だという事が分かると、益々ローズの魔道具店やシルバレー商会から万能薬を盗もうとする悪党が増えた。


だが、マホーミッツ帝国とスローティニア王国…そして落馬から無事生還されたマシューア殿下こと、ビュリエアラーデ公国の公子殿下が三カ国同盟を宣言し、万能薬に関する売買には必ずシルバレー商会を通すことを発表したり…その後、シルバレー商会が国の準公共商会の扱いになったりと色々とひと悶着はあった。


そんな喧騒もやっと落ち着き…数が月が過ぎた。


私はこの日、ゴローデ石鹸を作ろうとしていたが大きな寸胴鍋の前で困っていた。


「ゴローデの匂いがキツイ…」


嘘でしょう?ただの柑橘類だよ?こんなに匂いが駄目になるの?


取り敢えず皮を剥かないと…ゴローデの実を入れた網籠を調理台の上に置こうとして持ち上げたら、作業室に入って来たルイド君に見つかってしまった。


「あっ!こらっ…またすぐ重いもの持とうとするぅ~」


「そこの作業台に移動させるだけだよ?」


ルイド君は私から網籠を取り上げると作業台に置いてくれた。


「ホラ、椅子に座ってろ…体を冷やすな。」


椅子に座らされるとひざ掛けを掛けられる。


「俺が剥いてやるよ~指示してよ?石鹸はゴローデの皮の部分を使うんだろ?実の方は?」


「化粧水とシャンプーに…後は食べたい…けど、今は無理。ゴローデの実美味しいのにぃぃ」


ルイド君は私の頭と唇に軽く口付けをくれた。


「悪阻で果実も匂うか…マイフの炊いたのも駄目だったよな~母さんが言うには後少しの辛抱らしいから」


「うぃーす…」


そうだよ、お腹のモフモフジュニアよ。せめて日本人の必需食品の米だけは食べさせておくれよ…


お腹の中のモフキュルリンの魔力はクルクルと動いている。まるで返事をくれているみたいだね。


そんなモフモフジュニアの入ったお腹を撫でながら、作業台でゴローデの皮を剥き始めているルイド君の背中を見詰めた。このモフモフが私の旦那様でジュニアの父親か~なんて背中を見てほっこりと幸せを噛み締めちゃうね。こんな私ですがもうすぐモフモフ狼のママになります!


                 

モフモフ言わせたい為に書き殴りました。勢いで始め過ぎて途中で更新遅れましたが、完結致しました。拙作にお付き合い頂いてありがとうございました^^

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[良い点] ( ゜∀゜)o彡゜もっふるもっふる [一言] なかなかの"お点前(もっふる)"で( ^ω^)
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