ウェリアル家の食卓
わたくしはケリー・ウェリアル。
ウェルスの街の領主の娘です。
先日旅行から帰って参りました。
どこかと聞かれると、わたくしにも詳しい場所は分かりませんが、無人島へ少々……。
のんびりと、のどかに数日を過ごしていたはずなのに、街にいるときよりも充実した日々でした。
とても不思議な感覚です。
伝説の『悠久の魔女ドロシー』様は、若くて親しみやすいお方でした。
何千年と生きていらっしゃるので、お年を召しているものだとばかり思っていましたからね。
次回行くときはもっとお話をしたいものです。
今回はシーラが暴走してしまい、迷惑をかけてしまいましたもの。
シーラとは長い付き合いですが、あのような姿は初めて見ました。
それほどまでに衝撃的だったのでしょう。
そのシーラがドロシー様に作って頂いた魔道具、保温庫。
よく分からないですが、食べ物を冷やしておいたり、温かいまましばらく置いておく為の魔道具らしいです。
シーラが凄いと言っていたので、おそらく凄い物なのでしょう。
リーベルトが兵士たちを指示して、シュリーくんをキッチンに置いてから、しばらくは騒ぎになりました。
シーラは使い方をメモした紙を見ながら、上の段を涼しく、下の段を寒くしたようです。
これで長期間の保存ができると言っていました。
……やはりよく分かりません。
しかし、なぜか家のメイド達が涙を流しながら、拝んでいる姿を見てしまいました。
ちょっと怖くて引いてしまいました。
後日1時間以上メイド達に囲まれ、シュリーくんの素晴らしさについて熱く語られてしまいましたが、やはり理解できません。
話では埒が明かないので、シーラが使った時の違いを教えてくれるそうです。
2つのジュースが用意されました。
片方はシュリーくんに入れていたジュース、もう片方はいままで通りのジュース。
見た目は全く同じです。
では今まで通りの方から飲んでみましょう。
……普通です、美味しい以外に何も思う所はありません。
シュリーくんに入れていた方を飲んでみます。
なんでしょう、手が冷たいですね。
まるでドロシー様の家で出された飲み物と同じ……
……!!
なんですかこれは!
本当に同じジュースなのですか!?
冷やしただけですって?
たしかにドロシー様のところで出された水は、不思議と冷たくて美味しかったのですが、それを我が家で再現できるなど思いもしませんでした。
これまで風や水で冷やしていたのはなんだったのでしょう。
比べ物にならない程、冷たくて美味しいです。
これは大変です、事件です。
お父様に報告しなければ。
我が屋敷の食事がガラリと変わりました。
冷たい飲み物と温かい食事が同時に出てきます。
シュリーくんをくださったドロシー様には感謝の言葉もありません。
これは早くイルーナさんとアイラさんを招待しなくては!
……あら、これはフルーツゼリーですね。
普段よりしっかり固まって、プルプルしてて美味しいです。
ま、まさかこれもシュリーくんで作ったのですか?
え? 冷やすのが楽になったので沢山作れる?
………………。
お父様、キッチンの防衛力を高めましょう。
警護兵を増やし、壁を強くするのです!
シュリーくんは必ず死守しなければいけません!
──な、なぜ殴るのですかシーラ……。
あぁ、防衛の方は既に考えているんですね。
たしかに、最初からシュリーくんの素晴らしさを理解していたシーラなら、そこまで考えていてもおかしくはありません。
それでしたらお任せします。
わたくしの方は、イルーナさん達に招待状を書くとしましょう。
驚いてくれるでしょうか、今から楽しみです。
招待状を送ってからというもの、最近料理がおかしいのです。
冷やしハンバーグ、コールドポタージュ、冷やしドリア……。
連日冷えた料理ばかり出されます。
色んな意味で寒いです。
理由を聞いてみました。
「イルーナ様、アイラ様、ミカゲ様とアカリ様を招待しましたので、冷たくて美味しい食べ物を模索しておりました」
……えっ……わたくし、もしかして毒見役になってたのです?
一応、貴女達の主なのですが……。
「しかし火を使う主食系は全く上手くいきません。生で食べる物やデザートは美味しくなるのですが」
たしかにサラダやゼリーなどの、もともと熱くない物は美味しかったです。
これはもう冷やすのはデザートとサラダにしてもらいましょう。
いつの間にか実験体になった、わたくしの体は無駄ではなかった…と思うことにします。
もしかしたらドロシー様が、美味しくて冷たい料理をご存知かもしれません。
次回交易時にシーラと共に聞いてみましょう。
またシーラが暴走しなければいいのですが……。
後日、イルーナさん達が遊びに来てくれました。
久しぶりに会い、夕食まで街でショッピング。
以前のオーガの件で、おふたりの懐も温かいようで、街に来る時は使いすぎない程度に持参しているそうです。
賢いです、もしかしたらわたくしよりも……。
「イルーナ様はケリー様と違って、随分大人びていらっしゃいますね」
シーラ酷い……絶対わざと聞こえる様に言ったでしょ。
明日は濡れた枕洗ってもらうからね?
いえ、まだ大丈夫ですよ、まだ。
だからそんなに慰めないでください、イルーナさん……。
なんでしたら貴族を交代しますか?
……冗談はさておき、今回は折角招待させていただきましたし、皆様の行きたい所を回りましょう。
前回はムニエル様の買い物でしたからね。
もちろんアカリさんも遠慮なさらないでください。
到着したばかりですし、まずはカフェで軽食でもいかがでしょう?
ふふ、ミカゲちゃんはお腹がすいたようですね。
おすすめのフルーツカクテルをご馳走してあげましょう。
やはり、みんなで買い物するというのは、とても楽しいです。
服、本、食材、日用品。
ムニエル様の時の買い物を思い出します。
しかし、農具の為に鍛冶屋に行くとは思いませんでした。
初めて見ましたが、熱くて肌が焼けるかと思いました。
武器だけかと思っていましたが、わたくし達の食べ物を作る道具も作っていたのですね。
もうどんなお仕事であろうと、見下したりなど出来る気がしません。
知らない所で、わたくしの生活と繋がっているかもしれないのですから……。
お待ちかねの夕食です。
アカリさんは緊張してらっしゃいますが、大丈夫でしょうか。
一応わたくしのパーティということで、お父様には軽い挨拶だけにしてもらいましたが。
皆様、やはり冷たい飲み物に驚いています。
無人島以来の感覚ですからね。
シーラが飲み物について説明すると、イルーナさんとアカリさんがシュリーくんを羨ましがっています。
やはり交易の時にお願いしたい様子ですね。
ですがわたくし達からドロシー様に差し上げられる物は、島に無い食材や衣類程度。
魔道具はとても高価と聞いています。
そう簡単に引き受けていただけるでしょうか。
無理かどうかは交渉次第でしょうね。
──皆様食事の方は満足いただけたようです。
ではシーラ、デザートを……。
わたくしも見たことがない物が出てきました。
いちごしゃーべっと?
ものすごく冷たいです、スプーンで食べればいいんですね?
……口の中に入れた瞬間、溶けて甘い幸せが広がりました。
な、な、なんですかこれは!!
見るとイルーナさんも、アカリさんも、もの凄く驚いています。
アイラさんは頭を抑えて何をしているのでしょう?
ミカゲちゃんは幸せそうに食べていますね。
シーラによると、これは冬にしか作れない夏の為のデザートという、とても謎めいた食べ物だったようです。
シュリーくんのおかげで、夏にも作れるようになったとか。
さらに聞くと、このレシピにはかなり昔にドロシー様が関わっているらしく、どうやって夏まで凍らせておくのかなど、料理をする者達の間では長年の謎だったようです。
そして今、夏ではないですが、だんだんと暑くなっていきます。
寒くない時期に冷たい物を食べられるのは、今現在の料理界ではおそらく初とのこと。
ドロシー様、貴女はどこまで凄いのですか……。
その夜わたくし達は、客間でドロシー様について延々とお話してしまいました。
気がついたら朝でしたが、まだ話し足りません。
こんなことなら1泊の招待ではなく、5泊程で招待するべきでした……。
うぅ、眠いです……。
もう夏ですね。
ミルクジェラートが恋しいです。




