悠久の魔女 ドロシー
『カンパーイ!』
今は水しかないけどね!
いやぁ、なんだか人がいっぱいってのも賑やかでいいなぁ。
いきなり増えすぎだけど……。
シーラさんの計らいで、本来の上陸予定だったらしい女性陣と私達が一緒の席でまとまった。
「それじゃあシーラさん達は食事中だし、私達から名乗りますか」
私、アザレア、メルル、ミラの順に簡単な自己紹介。
そしてムニエル。
「なんでリヴァイアサンではなくムニエルと呼んでいますの?」
「このサイズで現れて、神獣だなんて思わなくてねー。蛇さんとか言うのも変だし、とりあえず名前つけたの」
「ムニエルさんはこの名前気に入ってるみたいなのです。みなさんもリヴァイアサン様じゃなくてムニエルと呼んでくれということなのです」
おお、気に入ってたんだ、食べ物の名前なのに。
……一応聞かれるまで言わないでおこうかな。
「ちなみに従者の契約についてムニエルさんに聞いたんですけど、教えてくれないのです」
「そうなの? まぁ多人数に知られるとよくないのかもね」
まぁやっちゃったもんは仕方ない、今更追い出すのも変だし。
ムニエルトークをしていると、シーラがまだ残ってる昼食をそっと台に置き、立ち上がった。
「それでは食事中ではありますが、先程も自己紹介をした私から……。シーラと申します、こちらのケリー様のメイドをやっております」
あら、この子お嬢様だったの?
そして専属メイドとは、なかなかやりますな。
今度はケリーと呼ばれた女の子が昼食を置き、立ち上がる。
茶色の瞳、ブロンドのロングヘアーで先の方がくるくると巻き髪になっている。
しっかりした生地の服で、長旅用なのかドレスに見えても割と動きやすそう。
「じゃあ次はわたくしね。ケリー・ウェリアルと申します。ウェルスの街を治める領主の1人娘です」
おお、領主の娘とな。
お辞儀もとってもお嬢様ね。
ムニエルめ、こんな子を口説いてくるとは。
続いて、セイレーンの子が立ち上がった。
銀色の髪にセイレーンの特徴であるヒレ耳。
そして黄色のワンピースがシンプルで可愛い、ちょっとだけ背が低めの『お姉さん』的な女の子だ。
「セイレーンのイルーナです。村や街ではリヴァイアサン様……ムニエル様の通訳係をしておりました」
「それはそれは、ムニエルがお世話になりました」
「いえいえ……とても光栄な事です」
礼儀正しいし、いいお嫁さんになりそうな子だなぁ。
そして次は隣の獣人の子。
黒と黄色のメッシュでショートカットに獣耳、見るからに活発なスタイルだね。
たぶん豹の獣人だと思う。
「ウチはアイラ、イルーナの友達で、えーと、一緒にムニエル様と行動してましたっ」
やっぱり元気そうな感じだねー。
最後はチョロチョロしたりムニエルの頭に乗ってたちっちゃい獣人の子。
5歳くらいかな? ちょっとハネてる茶髪が可愛い。
猫の獣人だよね。
お昼を食べ終わり、イルーナさんとアイラさんの間に座っている。
「ほら、お名前は?」
「なまえ? ミカゲっ!」
手をあげて名前を主張。
ほほう、これはこれは……うん、可愛い。
「ムニエル様にすっかり懐いてしまい、離れたくないと泣きついてくるので、あちらのお母さん同伴でついてきました」
ふーむ……。
「ムニエル、貴方もしかしてお嫁さん探しに行ってたの?」
私の名推理に、ムニエルや他数名がガクっとなった。
ムニエルが力なく首を振る。
違ったみたい。
「さっきのスキュラのルティエさんは、あっちの船員さんグループなのです?」
そういえば上陸予定には無かったのかな?
「あの子はここに来る途中で拾ったんです。なのでミカゲちゃんのお母さんに任せておきました」
乗船予定すら無かった。
全員食べ終わり、お水で一息。
ここからは本題かな?
「それでは我々の要件をお話しします」
「はい、よろしくお願いします」
かしこまって話を聞くなんて久しぶりだなぁ。
ここは気持ちを落ち着ける為に喉を潤しておこう。
「まずは失礼ですが……ドロシー様は、あの『悠久の魔女ドロシー』様御本人でいらっ───」
ブフーーー!!
質問半ばで飲んでいた水を思いっきり吹き出してしまった。
しかも正面のシーラさんにギリギリ気を使ったせいで、横を向いてしまい、アザレアに全部かけてしまう大失態。
「げほっゲホッ!ごめっ…アザレア!」
慌てて謝るが、かけられた当の本人を見ると、こっそり後ろに向きつつ、なんだか笑顔で顔にかかった水を舐めとっている。
あーうん、そうだよね。
アザレアだもんね。
それはそうと、あまり聞きたくない単語が……。
「ドロシーさんって悠久の魔女って呼ばれてるのです?」
ヒクッ
ヤバイヤバイやめてやめてやめてやめて……。
その二つ名は超恥ずかしいからやめてっ!
メルル助けて……。
チラッとメルルと目が合った。
ニヤリ
あ、その笑みはアカンやつですね、はい。
今の私には味方などいなかった。
逃げるか?
いや、まだアザレアがいる!
「アザレアちゃん、ちょっと…….ね、……を………の……」
うん?
メルル? アザレアに何をコソコソ言ってるの?
「おねーちゃん、あのねあのね!」
アザレアが近寄ってきたと思ったら、一瞬で蔓と葉でぐるぐる巻きにされてしまった。
………えっ?
「アザレアもね、おねーちゃんの昔を知りたいの♡」
………………。
私の味方は本当に1人もいなくなった。
もうだめだぁ、おしまいだぁ……。
せめてここから逃がしてよー……。
「ドロシー様が暴れて逃げたくなるほどに嫌がるので、代わりにアタシが説明致しますわ。……このドロシー様は、230年前の大氾濫を収め、400年前の天人族による戦争を解決し、1160年前の世界魔法大戦を強引に鎮めたという『悠久の魔女ドロシー』様に違いありませんわ」
ひぃ……私の歴史暴露大会が始まってしまった……。
ぐっ、メルルめ、チラッとこっち見てニヤニヤするなっ。
めちゃくちゃ恥ずかしいんだからさぁ……。
「やっぱり! ドロシア村に伝わっている魔女様なんですね!」
なっ………!
「あら貴女達、ドロシア村の方々でしたの?」
「ウチとイルーナとミカゲ、あとあっちに4人いるよ」
なんですとおおぉぉぉ!!
「ちょっと待ってぇ!! もしかしてあの昔話が残ってるんじゃないの!?」
「はい、あのお話が好きで移住したんです!」
イルーナさん、まさかのガチ勢だあぁぁぁぁ!!
逃げたい!
飛んで逃げたらアザレアを引っ張ってしまうから駄目。
攻撃して抜け出すのは論外。
すり抜けは、アザレアの蔓が全身に巻き付いて力が強いので無理。
ならば誤魔化す!
「私、そのドロシーとは別じむぶっ!?」
アザレアの葉によって口を塞がれた!
見るとアザレアに指令を出すメルルの姿!
「ふっふっふ、証拠は揃ってますのよ!貴女が本物の悠久の魔女であるという証拠がっ!」
自信ありげに胸を張るメルル。
この裏切り者ぉ!
「むぃむぃあうぃ!!」
まだ口を押さえられただけだ!
母音だけでも反論してみせる!
「往生際が悪いですわね、流石は伝説の魔女。アザレアちゃん、最後の手段よ」
「はーい」
まるっきり悪役な台詞で命令するメルルに、ニコニコと従うアザレア。
私は持ち上げられ、アザレアの葉の上に寝かされて、膝枕をされているような状態になった。
そして口を抑える為の葉が外され、新たな厚めの葉が口の近くに……え、これ私にしか見えないように蔓が隠されてるんですけど……。
口を開けなきゃいいよね……。
そしたら突っ込まれないし。
いやだめだ、反論……してもしなくてもアウトじゃん!
詰んだ………もう希望は残されていない………。
「ドロシー様も快く諦めてくださったようなので、その昔話をお聞かせ願えませんこと?」
「分かりました! 僭越ながら私が語りたいと思います!」
イルーナさんが元気よく挙手。
やだやだ!
よりによってあの事件の一番恥ずかしい話を聞かされるなんて!
「やっぱダむブォっ!?」
堪えきれず、反論してしまった私の口は葉で押さえられ、隠されたアザレアの蔓が口内に入り込んできた。
もう私は喋れない。
首も体も動かせない。
耳を塞ぐ事もできない。
この暴露大会が終わるまでは、決して。
誰かこの羞恥プレイから助けてぇ……。




