得意な魔法は何でしょう
お風呂でぐったりした後は、メルルと一緒に魔道具作成。
メルルは魔道具を作った経験がないので見学中。
アザレアとミラには少しの間、壁を加工した大型のラクガキボードで遊んでもらっている。
「大事な事を書いておくと、消すのをためらってしまうのです……」
明日追加でボードをいくつか作ってあげよう。
今手元にあるのは、昼に作った石板、ダイヤが15個程度。
まずは錬金術を使ってダイヤを真っ二つにする。
メルルが小さく悲鳴を上げたけど無視。
それぞれの断面に小さく『火に対する魔素を吸収する魔法陣』と『魔素の分だけ赤く光る魔法陣』を描く。
ちなみに両方共、呪術系の魔法陣。
そして、この作業が滅茶苦茶細かい!
昔、米1粒に文字を書く人が居たけど、私には無理、これが限界。
描き終わった2つの断面をあわせて錬金魔法でくっつける。
まずは1つ出来た。
「これは?」
「簡単に言うと、火の魔力に反応して光るだけの魔封石ね。試しに魔力を込めてみて」
と言いながら、私は次のダイヤに取り掛かる。
「まぁ……赤く光りましたわ……」
「メルルは火の魔法も使えるからね。それなりの明るさになると思う」
そう言って、次々とダイヤを切っては魔法陣を描いていった。
「はぁ、目が疲れる……」
10個作り終えたら流石に疲れた。
次で最後、属性関係なく魔素を吸収する魔法陣を描いておしまいっと。
「お疲れ様ですわ。何か手伝えたらよかったのですが……」
「ありがと、興味があったらそのうち教えてあげるよ」
メルルは突然、私の額に手をかざした。
「おお? ヒエヒエだ。気持ちいい~」
頭がクールダウンされていく~たまんない♪
「水や氷は得意ではないですが、これくらいなら出来ますわ」
はぁ~………生き返る~………。
「ありがとメルル、これでまた24時間戦えるわ」
「そんなに戦わないでくださいまし……」
さて、次は石板を加工。
ダイヤをはめ込む10箇所を決め、その全部に魔力が同時に通過するようにラインを引く。
最後に11個目のダイヤの場所を作っておしまいっと。
「その魔力の線は消えないんですの?」
「どうだろう、100年程度だったら平気だけど」
時間が経ち過ぎて忘れたせいで、実は消えたとこを見たことがないのが難点。
それに魔力を流すから供給もできてるし……。
やっぱり壊れるか老朽化しなきゃいいんじゃないかな?
「じゃあ次はダイヤをはめていくね」
「ドキドキ……」
属性の魔法陣を込めたダイヤを手に取り、石板に錬金術の魔力領域を展開する。
ダイヤを埋め込む場所に1つずつはめていく。
石とダイヤの原子結合を緩め、炭素を利用して半分ほど溶け込ませる。
よし、ガッツリ結合した。
同じ要領で残りのダイヤを埋め込ませていく。
そして試運転。
魔力を送るとダイヤがカラフルに光りだした。
「かんせーい!! やったー!」
「はぁぁ。凄すぎて驚きがついていきませんわ……でも流石ですわ……」
気が散らないようにと、静かにしていてくれたメルルがため息をついた。
「メルルもちょっと試してみて」
「は、はい。緊張しますわ……」
いつの間にかアザレアとミラも見に来ている。
完成って叫んだからだね。
「両端を持って魔力を流すんですのね」
そう言って魔力を込めると、ダイヤが光りだした。
「えーっと、赤、緑、青紫……特に青紫が強く光って、他にも淡く光ってるものもありますわね……」
「光の強さは能力の高さ、相性の良さで明るくなるよ、ちなみに青紫は精神属性ね」
「色は属性ってことなのです?」
「そうよ。属性名をここに書けば分かりやすいんだけどね……」
筆記用具とかないし……。
今度炭素使って作ってみようかな?
「それでしたらこのボードに表を作って頂けませんこと?」
「それもそうだね、明日またボードいくつか作るから、これもらうね」
というわけで、対応表を描いた。
───────
火 :赤
水 :青
風 :緑
雷 :黄
熱 :橙
光子:白
重力:黒
空間:黄緑
身体:赤紫
精神:青紫
他 :水
───────
「知らない属性が多いのです……」
「ごめんね? 今の属性分類の魔法陣知らないからさ、私の知ってる属性表になっちゃった」
天属性なんて初めて聞いたし……。
「そういう事ですのね。そうすると簡単な解説も欲しいですわ」
「おっけー、今書くね」
──────────────
火 :赤 火を操る
水 :青 水を操る
風 :緑 風を操る
雷 :黄 雷を操る
熱 :橙 温度を操る
光子:白 光を操る、今で言う天属性の一部
重力:黒 重力を操る、今で言う天属性の一部
空間:黄緑 場所と場所を繋げたりする、召喚魔法など
身体:赤紫 身体強化や治療
精神:青紫 精神を操る
他 :水 上記以外の魔法、呪術、契約、錬金など
──────────────
「これでいいかな?」
「なるほどー……」
これ、いつの時代の属性だっけ……忘れた。
「じゃあミラ、メルルがやったみたいに測ってみよっか」
「魔力はどれくらい流すのです?」
「好きなように流して大丈夫。どれが一番強く光るかを調べる道具だから、流す魔力量では順位は変わらないよ」
「了解なのです」
さてミラの結果は~………。
「青が一番強いのです。次は橙、黒なのです」
「水、熱、重力か。そういえば凍らせてたもんね」
なかなかの素質ね、しかも重力なら浮遊魔法出来るんじゃないかな?
「あの、これって他の魔法を練習しても意味無かったりしますの?」
「ううん、練習すれば順位は変わるよ。まぁ相性とかはどうしようもないから、最初は得意なのから伸ばすといいけど」
生活環境の影響のせいか、ミラの場合、緑と白は全然光らなかった。
風どころか天然の光も無かったんだろうね。
「それじゃあアザレア、やってみよっか。これ持って手に魔力を込めるだけでいいからね」
「はーい。わくわく」
アザレアは楽しそうに石板を持ち、手に魔力を込めた。
さーて、結果は……。
「青、白、赤紫、水色がかなり強めですわね。でもほとんど光ってますわ、赤以外」
「水、光子、身体、その他ですね、火が使えないのは分かるとして、ほぼ全属性なのです」
私のアザレアは天才だった。
「やったねアザレア! 凄い凄い!」
「きっとおねーちゃんのおかげだよ~」
もう、そんな事言っちゃって可愛いなぁもう!
ぎゅ~ってしてチュッチュしちゃう♡
「えへへ~♡」
「それにしてもアルラウネでこの才能は凄いですわね……」
「もしかしてドロシーさんが伝染ったのです?」
「へ? うつっ……」
私は病原菌かい。
「産まれる前から一緒に居ますもの、不思議ではありませんわ」
「アルラウネってそーゆーもんだっけ?」
アルラウネと一緒に生活するのは実際初めてだから、その辺よく分からないなぁ。
「名付け親と似るという前例はあったりするのですが……確証が得られていないというのが実情ですわね」
異種族間のアレコレは、長い間研究されてるんだけどなぁ。
「ま、こんなトコで考えても分かんないし、アザレアが凄いって事は変わらないから」
「それもそうですわね」
可愛さの前には疑問など無意味。
「しかしこのダイヤ凄いですわね……どうなってますの?」
「それじゃあ今日はそれを含めたお勉強ね」
☆3限目 魔力のしくみ
魔力とは精神の血液のようなもの。
だから無くなると倒れたりするから注意。
そしてその魔力を形成している『魔素』というモノ。
魔力版赤血球みたいなものね。(3人はわかってないけど)
この『魔素』によって魔力に命令をもたせる事が出来る。
命令自体が無くても、魔素は本人が得意な属性を知っているから、常に命令を保持している状態。
だから魔力をこの石板に流す事で、この『魔封石』が魔素の保持属性を感知吸収、発光する。
「──というわけなのよ」
「『魔素』ですか、知らない事って多いのですねぇ」
私は魔素に命令をもたせる工程を『アプローチ』って呼んでるけど、『魔素』で一括りにすることが多い。
「今回アザレアとミラに一番教えたかったのは、魔力を使い切ると倒れるよって事ね。魔素の仕組みは必要になったらまた教えてあげるね」
「はーい」
さて、メルルが口を開けて固まってるのはどうしようかな。
「メルルー、メルルー? 生きてるー?」
う~ん、動かない。
「おねーちゃん、お目覚めのキスとかどうかな?」
「まさか、アザレアじゃあるまいし……」
「試してみてはどうです?」
むぅ、気がついたら襲われそうでヤなんだけどなぁ。
でもこのままって訳にもいかないし……。
私が迷っていると───
「必殺ドロシーさんクラッシュ!」
「わきゃっ!?」
いきなりミラに持ち上げられて、メルルにぶつけられ……押し付けられた!?
えっと……。
ガシッ
「どぉ~ろぉ~しぃ~さまぁ~♡」
「ひぃっ!?」
「もうしょうがないですわねぇ、そんなに愛して欲しいなんて」
「何も言ってないし私のせいじゃないしぃ~~!!」
そしてまた……今夜もグッタリして眠ることになってしまった。
ちなみにあの魔道具1個と解説だけで、魔法の研究者達の間でガチ戦争が起きるかもしれない、というメルルからの評価を頂いた。