ただいま魔道具制作中……
アザレアとミラには魔力操作の練習用にと、簡単なオモチャを作ってあげよう。
まずは木の板を準備。
昔、透過魔法を使う覗き魔や下着泥棒対策に作った『魔力を感知すると変色する呪術』の魔法陣を描き、白い石をコーティングする。
これで魔力を込めた指や棒なんかで触れると字や絵を描けるようになった。
ちゃんと魔力が無い状態で触れると元に戻るよう、魔法陣に仕掛けをしておく。
ドロシーちゃん特製のラクガキボードかんせーい。
ちゃんと3つ作ったよ。
……家の方からねっとりとした視線を感じて怖かったし。
「これでおねーちゃんを描くの!」
「魔力の濃さで色の濃さも変わるのですね。なんだか遊んでいるだけで技術が上がりそうなのです」
うん、喜んでくれた。
メルルは……
「これは設計が捗りますわっ。うふふふ。使わない時はドロシー様のあられもない姿をスケッチして飾らねば……」
聞くんじゃなかった……。
家の壁の一部にも施しておこうかな、便利だし。
さて、次は魔力計を作ろう。
硬化した石の板を置いて、太めの棒を立ててくっつけて、大体手の高さに石の板をくっつける。
よし、的みたいになった。
あとはー……長さで計るようにしよう。
もう一枚石の板を用意してと。
この板には、得た魔力を棒状にして固める魔法陣。
的になってる方には、放出済みの魔法や魔力を吸収して、ライン先に送る魔法陣。
その裏側に、魔力のラインを引いて、魔力を固める方の板へと繋ぐ。
よーし試運転。
まずは的に手を触れて、魔力を少し出してみる。
出した魔力は魔法陣に吸い込まれた。
にゅ〜〜〜
まずは良しと。
次は多めに魔力を出してみる
すると魔力の棒が伸びる伸びる。
なんか面白ーい。パスタみたい。
続いて風の刃、火炎弾、氷の矢、精神魔法……等々。
いろんな種類の魔法を的に当てて、その全てを吸収し、魔力の棒に変換して吐き出した。
この棒は壊そうと思えばすぐ壊れて消滅するし、およそ1時間は放っておいても維持するようにした。
数字でも良かったんだけど、測定して数字を自動的に板に描くとか、そんな魔法陣面倒臭くて嫌。
それに、にょきにょき伸びるのがなんか気に入ったし。
要望があったら数字版作る。
この魔力計は広い所に置いておこう。
「おねーちゃん、それなーに?」
いつの間にか、後ろにはアザレアと、アザレアの蔓にぶら下がるミラがいた。
「ああ、これは…ひぃっ!!」
魔力計の方に向き直ると、そこにはもの凄い顔で魔力計と私を睨むメルルがいた。
怖いんですけど……。
「ドロシーさまぁ、アタシも詳しくお聞きしたいのですわ……」
「もちろん教えるけど、そんな顔で睨まないでよ……」
私は魔力計について説明した。
メルルに試してもらって納得してもらった。
アザレアも魔力がにょきにょき伸びるのが気に入ったようだ。
「さっきのボードといい、即興で作るレベルの魔道具ではありませんわ……。王国などの魔法研究施設に技術サンプルとして売れば、屋敷とか買える気がしますわ」
なかなかの高評価。
これは魔法使う時の目安とかに使えるし、後でそこそこ使えるだろうね。
しかし今回これを作ったのには利便性以外に別の理由がある。
「ミラ、はいこれ」
「はい? 水なのです」
そう、ミラの魔法の正体を調べるの。
「いつも使ってる魔法を使って、どんな方法でもいいからあの的に当ててみて頂戴」
「わ、わかったのです……!」
そう言うと、ミラは私が持っている水に手を入れ、その水を半分以上引き抜き、槍のように伸ばして的に命中させた。
命中した水は弾けて飛び散ったが………魔力の棒は一切伸びない。
「おかしいですわね? 水に含まれた魔力を吸収して出力される筈では?」
「そうね、魔力を使って操っていればね」
つまりミラは魔力を使わずに水を操っていたということになる。
「……どういう事なのです?」
ミラが不安そうな顔をしている。
魔法なのに魔力を使ってないとか、普通訳が分からないわよね。
「これは天人族や神獣の力ね。契約したか力を与えられたか……ミラは小さい頃に力をもらい、魔法っぽい固有詠唱を教わっていたのね」
「うーん……全く覚えていないのです」
物心つく前にとか、なんだか古めかしい感じの家系みたいね……。
「ミラさんはそのせいで魔法を使えないとか、そういう感じですの?」
「んにゃ、この力は呪いとかじゃなくて本当に授かるだけ。弊害どころか、武器や魔法と一緒に使って出来る事が増えるよ」
「あらお得ですのね」
「ミラさん大当たりゲットだね」
そうそう、これはデメリットが無い嬉しい力だよ。
私もいくつか使えるしね。
「どうやらその力は接触中の水を操る…ような感じね。だから海中では何の疑問も抱かずに使ってきたってこと」
「それは海の中だとほぼ無敵ですわね……」
水中だとまさに空間全てが武器みたいな感じ。
「その通りね、でも地上だと限定的過ぎる。あと、ミラが魔法を使えないのはこの力に特化した教育のせいね」
「それじゃあ私はどうするのがいいのです?」
「このまま特訓して、魔法を使えるようになるといいわ」
夜に水を凍らせたような水魔法とのコンビネーションを使えば、きっといろいろ出来るようになる。
ミラの水魔法の進化が楽しみだなぁ。
「ありがとうなのです! アザレアちゃん、一緒に魔法頑張るのですよ!」
よしよし、すっかりやる気に火が付いたね。
お昼まで面倒みてあげよう。
水精製装置も作ったし、本格的に測定器作りますかっ!
ちなみに昼食は魚のハーブハンバーグだった。
さーて、どんな形の魔道具にしようかな。
魔力の質や経験を計測して、属性と合わせた時の反応の強さが分かればいいんだよねぇ。
「……よし、決めた」
土台は手に持てる軽めの長方形の石板。
これに魔力を流し込んで測定しよう。
左右の取っ手から流して、中心に溜め込むように、魔力のラインを引いてと。
あとはここに『魔封石』を付けていこう。
現代の属性は5種類か。
なんか少ないから増やそうかな。
次は魔法を封入するための鉱石が必要。
できれば純度が高いやつね。
でも、採掘とかしてないし……
「やっぱアレしかないよねー」
私は焚火とキッチンへと向かった。
「むむぅ、やっぱ灰になっちゃってるか」
まぁいっか、搾り取ろう。
燃えカスから『炭素』のみを抽出、固めていく。
ゴミを再利用することで、その辺の木材とか消費しなくて済むのがいいよね。
ついでに周囲の空気中からも。
……テキトーにやったからカーボンブラックの塊が出来た。
作業が細かすぎるから完成は魔法陣使わないと無理ね。
──というわけで、鉱石生成の魔法陣が完成。
このカーボンの山からどれだけ作れるかなー?
「よっしゃ! 魔法陣起動!」
気合十分、カーボンの山を放り込んだ。
「ドロシー様~。少々相談が……何をしてますの?」
メルルがやってきた。
「ん、ちょっと魔道具に必要な石を作ってたの」
「へぇ、どのような石…………」
いきなりメルルが石になったし。
「どしたの? メルル」
そんなやり取りしてる間に鉱石は全部完成した。
うわ、なんかいっぱい出来た。
「あちゃー、10個程度でよかったんだけどな。やり過ぎちゃったか」
そこには直径1cmの、多面体の鉱石が……ざっと見ても30個はあった。
光を反射してとっても綺麗な透明の鉱石。
「まぁ使う時が来るまで何処かに置いておこうかな」
「あの、ドロシー様? それって……」
メルルがいつの間にか復活してた。
「ほい、なんかいっぱい出来ちゃったからあげるー」
メルルに石を1つ、ポンと手渡した。
「ひぃぃぃぃぃ!? やっぱりこれダイヤモンドじゃないですかああぁぁ!!」
「いやぁ、純度の高い鉱石が必要だったんだけど、なんかその辺に余ってる物を使って手軽に綺麗に作れるのって、ダイヤしか無くってさー」
ロンズデーライトは配置ややこしいし、鉛じゃ色がねぇ……。
「そんな余り物料理感覚でダイヤモンドなんか作らないでくださいましいぃぃぃぃ!!」
メルルってば、今日はなんだかずっと元気だなぁ。
それだけに今日の夜が怖いけど。
いや、今のうちに消耗させればいいのか?
その作戦、アリだな?
あ、そういえばその前に……
「メルル、なんか相談って言ってなかった?」
「そうでしたわ、良い感じに枠が仕上がってきたので、壁が欲しいのですわ」
早い……さっき気持ち悪い早さで組み立ててたからなぁ……。
「そんなに早くできるなら、壁板沢山用意した方がよさそうね」
「あ、でもそんなに沢山作ったら、またドロシー様が……」
あれは試行錯誤の後に重労働だったから疲れただけだからなー。
疲れて寝ただけって言っても信じてもらえなかったし。
だったら手伝ってもらおう。
「大丈夫、雛形は出来てるから、みんなで壁作ろ?」
こうして壁を作る為に、4人で東の岩場へ向かった。
魔道具は夜でも作れる工程まできたから、後回しで平気。
さーて、メルルには頑張って疲れ切って貰おう。