それはアタシの肉まんですわ
……ん……。
なんだろ……気持ち良い……。
フワフワでプニプニ。
んふふ……捕まえたぁ。
コレ私のー……。
空飛ぶ肉まんだぁ……えへへ。
柔らかくてあったかくて……おいしそう。
食べちゃお……あ〜………。
あぐっ
「っっっきゃぁぁぁぁぁ!!!」
ぅー?
肉まんが喋った……。
「ぇへへ……新鮮な……肉まん」
「イダダダダ!! ……肉ま………ですわっ!?」
そーだねー。
おいしそうだねー。
ペロペロ
「あひん!? ヒリヒリして………舐め………らっ!」
なめたらお餅になる?
それともチーズになる?
じゃあ私はパンケーキになりたい。
「………久し……の寝惚けおねーちゃ………」
ノネボケおねーちゃん?
新種のアイスクリームかな。
「そん…………助け………ましっ!」
肉まん……。
………………。
………………。
………………。
「………んぅ…」
朝だ……。
なんか美味しそうな夢見たなぁ。
窓からの明かりが気持ち良い〜。
なんか枕の抱き心地がすごく良いんだけど、こんな枕持ってたっけ?
「なにこれ、柔らかい……」
むにむに
「あうぅ……」
「あ、おねーちゃん、おはよー」
近くから聞こえるアザレアの声。
今日も元気だねー。
「おふぁよー……アザレア」
うー、ようやく目が覚めてきた。
まだ少しボーッとするけど……。
「おはようございます、ドロシー様……」
やけに近くから声が聞こえた。
「ん〜? 抱き枕が喋ったぁ?」
ちょっと見上げると……メルルの顔があった。
「メルル、近すぎない?」
「違いますわっ! 近いのはドロシー様ですわっ!!」
「うひっ!?」
近いから頭に響くぅ〜。
なんだかメルルは顔を赤くしながら叫んでる。
「むー……起きる……」
むにん
「なんで私、メルルのおっぱいを押し潰してるの?」
「寝惚けたドロシー様が、アタシの事をガッツリ捕まえて食べようとしたのですわ!」
……うん……?
「何してるの? ちゃんと避けないと」
「アタシが悪いのですかっ!?」
だって寝てる間にどうなったか分からないし。
とりあえずメルルを離して起きよう。
おや?
「メルル、左の乳に歯型があるよ?」
「……ドロシー様の歯形ですわ……」
私の?
そういえば肉まん食べる夢を見たような…………。
あ。
「ごっ! ごめんね、メルルっ! 美味しかったよ!?」
「どんな謝罪ですの……」
うっわー、もしかして私寝惚けてたのかな……。
恥ずかしい……。
いやいや今はそれよりも。
「本当ごめんね。今治すから……」
私は急いでメルルのおっぱいに手を添えて治療の魔法を使った。
跡だけだったので一瞬で完治。
「うぅ……ところでミラは?」
「アタシが捕まってて動けなかったので、頑張って1人でキッチンへ向かいましたわ」
朝から何やらかしてんの、私は………。
「てっ、手伝いに行…くぅ……」
急いで追いかけようとしたら、突然ぐらついてへたり込んでしまった。
「……寝惚けてた上に寝起きでいきなり立つからですわ」
立ち眩みだった。
「──集え水よ ミラが命ずる 我が身を包み込め!」
パチュッ
朝食が終わり、私はメルルの増築用の木を切ったり水場用の石を作ったりしながら、ミラの魔法を開発していた。
メルルはキッチンやリビングから作り始めるらしい。
アザレアは私の手伝いをしながら基礎魔力のトレーニング中。
はやく生活に使える魔法を教えてあげたいな。
メルルも一緒にって約束だったけど、ミラが移動できないというのは緊急事態なので、渋々了承してもらった。
「夜にでもドロシー様の美しい肉まんを堪能させて頂けるなら、朝の分も含めて許しますわ♡」
って、そりゃもういやらしい顔で言われて……悲しいことに断れなかったよ……。
夜が怖い。
はぁ、とりあえず貯水用の箱が出来た。
今度メルルが設計するらしいから、前回と同じ作りでパパっと作っていこう。
「む~……なぜ水を上手く操れないのですか……」
ミラは水の魔法が上手くいってない様子。
操れる水の量が毎回違う。
夜は上手く出来てたのに、なんでだろう?
イメージが難しいのかな?
いや、イメージの補完として詠唱が使われているから……詠唱が間違っている?
「ねぇミラ、その魔法の詠唱は貴女のオリジナル?」
「いえ、私の住んでいた場所で伝わっていた詠唱方法なのです」
そもそも詠唱の中に自分の名前を入れるなんて、契約系の魔法くらいしか思いつかない。
つまりイメージに対する魔法の種類が違う?
なんか複雑な事情的なものがありそう。
「これは今日明日でなんとかなる感じじゃないね」
「そんなぁ……」
いろいろ実験して分かったことがある。
・海水だと上手く操れる確率が高い。
・触れている海水なら完璧に操れる。
・出身地の掟で何かと契約している。
・詠唱については他の文法を全く知らない。
・イメージと言われてもピンとこない。
この調査結果をまとめると……。
「ミラ、貴女…家出してきた箱入り娘でしょ」
ビクゥッ
「にゃ……にゃにゃにゃにゃ……」
ショックで猫化してしまった?
「にゃーんのことーなのですー?」
目が泳ぎまくってる。
契約、固有詠唱、海水特化、そして一般教養と家事以外は完璧とも言える程の無知。
そこから一番想像しやすかったシチュエーションを言ってみたけど、大当たりのようね。
「まぁ安心して、私はそれで何かをするつもりは無いし、出来る事も無いよ」
「はい……ドロシーさんには敵わないのです……」
うーん、それにしても契約魔法を水魔法として教わってたとなると、こりゃ普通の属性魔法は全滅だなぁ。
対策を考えないと……。
「ミラ、一旦アザレアと同じ特訓してて。私がなんとかしてあげるから」
「………………」
ミラの肩が震えている。
……ああ、それもそうか。
「うっ……うっ…………ぐすっ…」
これまでの人生が、実は嘘まみれで空っぽだったなんてね。
家出する程だから本当は気づいていたのかも。
私はそっとミラを抱き寄せた。
「こんな無人島で言えるような事じゃないかもしれないけど、貴女はもっと自由になりなさい。その為の力は私が責任持って教えてあげるから」
「う、ううううう〜〜〜〜………!」
気が済むまでこのままで居てあげよう。
ミラのこれまでを吹き飛ばせるくらい、強くしてあげようかな?
ドサクサに紛れて私の太ももに頬ずりしてる変態にも協力させよう。強制的に。
「恥ずかしい姿を見られてしまったのです……」
必殺、ワンモアハグ!
「ひゃっ!? ドロシーさん、もう落ち着いたのですよー……あぅぅ……」
「うっさい、今は甘やかしサービスタイムよ」
「どんなサービスなのですかぁー!」
もちろん言っててよく分からない。
おっと、アザレアが近づいてきた。
「ミラさん元気だしてー」
ひしっ
なんとアザレアがミラの後ろから抱きついた。
ちょっと羨ましいが、これは……。
「大変ですわ! ドロシー様とアザレアちゃんによるフィッシュサンドが完成してしまいましたわっ!?」
力いっぱい挟んじゃってるよ。
「あわ…あわわわ………」
あ、息できてるかな?
顔赤くなってきてるから苦しいんだろうか。
「ミラさん……なんて羨ましいっ! アタシもその楽園に入りたいですわっ!」
……一体何を言ってるのかな?
まぁアザレアが楽園の花なのは否定しないよ。
「ぷしゅぅ……」
なんか変な声出してミラの力が抜けた。
だ、大丈夫かな?
「ミラさんはもう心配ありませんわ。さぁ次はアタシが挟まれる番ですわ! さぁいつでもいらして下さい!」
メルルは両手を広げて、全力で『カモーン!』な雰囲気を出している。
えーっと、どうしよ……。
「お、おねーちゃん……メルルさんが変だよ……」
アザレアが怖がってる。
私も怖い。
だって目が血走ってるんだもん!
「そちらから来ないのであれば、こちらから行きますわっ! とうっ!」
メルルが飛んだ!
あろうことか、空中でレオタードを脱ぎ捨てて飛び込んでくる!
『いぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁ!!』
その異様な痴態に、私とアザレアは抱きしめ合って絶叫したのだった。
しばらくして満足したメルルは、気持ち悪いスピードで建築作業を進めていた。
私とアザレア…とミラは、しばらく動けなかった……。




