ムニエルの冒険 ウェルスの街
見られている。
外に繰り出してから、ずっと周囲から視線を感じる。
「ウチら、街中から見られてるね……」
「当然です。『領主の娘』と『白銀の大蛇』の存在感が大き過ぎます」
うぅむ、ならば仕方ないか。
しかし、ケリーとシーラまで着いてくるとはな。
ケリーが共にいることで、我は安全な存在だと証明されるようだ。
「せめてもの恩返しですよ、この街にいる間は民衆から貴女方を守って差し上げます」
そういう事なら世話になろう。
まずは何処へ向かうのだ?
「アルラウネのスズネさんから、『人間と暮らすアルラウネは、服に興味を持つ事が多い』と聞きました」
なるほど、それは重要な情報だ。
確実に手に入れておこう。
アザレアの上半身の大きさ?
……そこの人間の子程度だったぞ。
人間の方も服を買っておくのか?
全体的にイルーナと同じ程度の大きさだったな。
あとは任せて大丈夫なのか?
わかった、頼んだぞ。
……そんなに手に入れたのか?
下着も含めて20日分以上?
よくわからぬ。
シーラが夜に購入品の目録をまとめてくれるとな?
その目録とやらがあれば伝えやすいのか、わかった。
次は……花屋?
ドリアードが住んでおるが、ここは巣なのか?
家の中に草が沢山生えておるではないか。
「妖花族は植物の扱いに長けております。花や野菜等の種を買っておけば活用するでしょう」
たしかに思い当たる節がある。
わかった、できるだけ沢山の種類を頼む。
なんだその本は?
植物の育て方?
サービス品?
む、勝手に詰め込まれた。
まぁ荷物はまだまだ余裕だ、問題はない。
シーラが鉄を着た人間達に荷物を渡しておるな。
成る程、ケリーの家に運んでもらっておるのか。
しかしお前達、随分と楽しそうにしているな。
「リヴァイアサン様の分とは別に、イルーナ様とアイラ様の買い物をしてますので」
それは楽しい事なのか。
「楽しいしとっても幸せですよ~。村のみんなにお土産買っていけるのもリヴァイアサン様のおかげです」
我はオーガを仕留めただけなのだが……。
しかし、他に欲しいものは思いつかぬな。
シーラとイルーナも悩んでおるな。
カフェとやらで相談?
そうだな、皆で考えてみるのも大事であろう。
「さて、これより『無人島に何を持っていけたら生活できるでしょう会議』を始めます」
「なんだかそのまんまなネーミングだねぇ」
「シーラは無表情でお茶目なことを時々言うんです」
「なんだか面白い人なんだね」
「私は真面目ですよ?」
「もっと面白かった……」
「それでまず、無人島には何があるのです?」
『木と草と石があるぞ』(訳:イルーナ)
「ケリー様、無人島には人の作った物は何も無いのですよ。家や道具も自分で作るしかありません」
「それだったら、ウチは作り方が分かるものを持って行きたいな」
「それいいね、アイラ冴えてるー」
「では本屋にも立ち寄りましょう」
「他には───」
「楽しかったぁー!今日だけで1年分は買い物した気がするよー!」
部屋いっぱいに手に入れた物が敷き詰められていたな。
それにしても貰ったお金が殆ど減っておらぬようだが……。
「流石にこの大金を使い切るのは無理ですよ。買い物どころか、村が数年安泰する程ですから」
そんなにあるのか。
人にとって魔物は本当に脅威なのだな。
我としても交流を持った者達が、ただ危険にさらされるのは面白くない。
うーむ。
「リヴァイアサン様、イルーナ様、アイラ様。お食事の準備が出来ました。どうぞこちらへ」
長い間、街へ繰り出しておったからな。
イルーナとアイラはすっかり空腹のようだ。
料理がテーブルに運ばれてくる度に驚いておるようだ。
「こんなのウチらの村じゃ絶対食べられないよー、一生の思い出になるかもっ」
「ちょっと服と種を買って帰るつもりが、こんな凄い事になるなんてね。みんな羨ましがるだろうなー」
楽しそうでなによりだ。
魚料理の本という物も手に入れたから、主なら上手く使いこなしてアザレアに良いものを作ることだろう。
主はアザレアの笑顔が好きだからな。
む、どうやら食事が終わったようだ、なんとなく世間話をしておるな。
ここには買い物で一緒だった4人しかおらぬ、好都合だ。
「私達に礼を? いえ、神獣であるリヴァイアサン様の役に立てるだけで光栄なのですが……」
ええい、4人とも遠慮しおって。
ならば先に渡すのみ。
ポウ……
「なんですか? この魔力のようなものは。受け取ればよろしいのですか?」
「あ、触ったら消えたよ?」
「あ……あ……」
む、流石セイレーンのイルーナ、受け取った瞬間に理解したか。
ならば説明を頼む。
「この力は、神獣様から認められた者だけが授かる事ができる、理力や神力と呼ばれるものです。海では海神の御子と呼ばれる最高位の…地上で言う教皇や皇帝にあたる方にのみ、許される力なのです……」
説明する声が震えておるぞイルーナ。
しかしそんな大層な扱いだったのか。
やけに懇願されるから与えていただけなのだが。
む、残りの3人も震え出した。
『落ち着け、魔物などに襲われた時の防衛手段として与えたに過ぎん。使いこなせば魔物に対抗できる力だ』(訳:イルーナ)
「つまりこの力があれば、これまで以上にケリー様をお守りする事が出来るという事ですね?」
シーラが落ち着き始めたな。
『水を操る力だ、ケリーと共に上手く使うのだぞ?』(訳:イルーナ)
「でもリヴァイアサン様、なんでこんな凄い力をウチらにくれたの?」
『御子うんぬんの話は知らん、水棲族が勝手に決めた事だろう。我は縁があり気に入った者達に与えただけだ』(訳:イルーナ)
イルーナよ、泣いて震えながら翻訳しておるが大丈夫なのか……。
まぁこれで何も出来ずに魔物にやられるなどという事は、もうあるまい。
さて、村に戻る時がきたな。
「領主様、お世話になりました。その上送迎まで……」
どうやらケリーとシーラが同乗して村まで来るようだ。
村の調査と力の研究と我の見送りとの事だが。
4人が仲良く見えるのも理由かもしれぬな。
荷物は荷馬車とやらに詰め込んだらしい。
村には馬車を走らせて昼過ぎに着くようだ。
のんびり景色でも眺めておくとしよう。
4人とも楽しそうに話をしているな。
しかしシーラよ、ケリーが馬鹿な事を言う度に、悶絶するほどの一撃を食らわせるのはなんなのだ……。
本当に仕えておるのか?
「愛の鞭です」
まぁケリーが良いなら何も言わぬが。
助けを求めるような視線が気のせいである事を願う。
力についてはイルーナはもちろん、シーラもそれなりに使いこなしている。
メイドというのはやはり強いようだ。
この力を地上で使うには、水に触れてないと使えぬのだな。
水が無ければ使えないが、コップ一杯程度の量があればナイフにする事も可能のようだ。
特に何かを失う等の代償も無い、それを伝えたら皆素直に喜びおった。
アイラは必死な形相でコップの中で水を動かしている。
ケリーがお茶をコップから出して……落とした。
すかさずシーラが落としたお茶を拭きながら、ケリーの腹に一発入れているのも、見慣れてきたな……。
何にせよ目的は果たした、すぐに島に戻ってもよいが……。
「ミカゲちゃん、寂しくて泣いてたりしないかな?」
そうであったな、ミカゲとしばし遊んでやらねば。
きっと我の尾を掴んで離さぬであろう猫獣人の幼子。
あと数日で別れると考えると、少々寂しくもある。
主の世話好きが感染ったか?
……悪い気はせぬがな……。
「皆様、村が見えて参りました!」
御者の声で皆が前方を見た。
「あれが私達の『ドロシア村』です」
そんな名前の村だったのか。
…………なにやら主の名に似ておるな?




