いじり過ぎ注意報
「ふぅ……低温の長湯というのも良いものですが、ミラさんは熱くありませんの?」
「大丈夫なのです、これくらいならぽかぽかして気持ちいいのです」
マーメイドは冷たい水の中で暮らす種族なので、警戒はしていたけど、大丈夫そうね。
「アザレアも、もしボーッとしてきたらちゃんと言ってね?」
「うん、まだ大丈夫!」
もうしばらくは入ってられそう。
今日は溶けるように寝ちゃいそうだなぁ……。
ふぅ………。
「ドロシー様?眠たそうですが大丈夫ですの?」
「……えっ……あ、うん大丈夫……」
もしかしてウトウトしてたかな。
「実はドロシー様がお倒れになった時にアザレアちゃんにお聞きしましたの。あの魚が暴れた事で島を飲み込むほどの津波が起こり、それを魔法で全て防いでいたのだとか……」
「それを聞いた時はびっくりしたのですよ」
「加えて、あの魚をおひとりで捌きながら冷凍をし続けるという離れ業。あのレベルの魔法を使い続けるなど、魔法が得意な夜魔族でも普通は無理ですわ」
なるほど、今日あったことはお互い説明してくれてたんだね。
なんだか助かるよ。
ちょっと恥ずかしいけど。
「あれだけの魔法を使用して、まだお風呂まで用意できるんですもの。さすがはドロシー様としか言いようがありませんわ」
そう言ってメルルは私の手を握ってきた。
メルルってば、私のことを褒めちぎり過ぎじゃないかなぁ……。
アザレアがキラキラした目で私のこと見つめてくるじゃないの、はうぅ。
「も、もういいよぉ…そんなに持ち上げられると……はずかしぃ……」
「ドロシーさんが真っ赤なのです♪」
恥ずかしいのに……片腕は体半分ごとアザレアに抱きしめられ、もう片腕はメルルに捕まっているため、顔を隠せない。
たすけてぇ~……。
「あぅ……あぅ……あぅ……」
恥ずかしくって言葉がでない!
「すっかり温まってきたようですわね。それではアタシがドロシー様の肩を揉んで癒やして差し上げましょう」
「はへ?」
マッサージできるの?ちょっとうれしいかも。
「背をこちらに」
のぼせ気味で少しボーっとしてた私は、大人しくメルルの言う事に従って背を向けた。
「あら、アザレアちゃんの言う通り、やわらかくてすべすべのお肌ですわね」
「う〜」
もぉ……何言ってるの……。
でも肩気持ちいい……。
あ、駄目だ、眠く……まぶたが重い……目を開けていられな……。
むにゅり
…………へ?
背中に何か柔らかいものが当たったのに気づいて、ハッとなった。
高さ的に、思いつくのはひとつしか無い。
「あの、メルル?当たってる気がするんだけど……」
「当ててるんですのよ?」
故意だった。何やってるのこの人。
「ねぇドロシー様? アタシは貴女に多大な恩を感じてますのよ? 出来ることであれば、なんだってして差し上げたいのです」
そう言いながら、メルルは私の体と両腕を縛るように抱きしめてきた。
あの、全然動けないんですが……。
動けない私の耳元でメルルが呟く。
「家事、狩猟ならある程度はたしなんでおりますわ。もちろん下のお世話はお手の物です♡」
「いや、あのっ、そんなの…いいから……。はぁん…そんなとこ……触ん……なぃ……」
疲れ切って、温まって、ウトウトしながらほぐされた私の体は、殆ど寝てる状態なのか力が全然出ない。
ポカポカして、気持ちよくって……意識も保てなくなってきた。
「おねーちゃん……」
「……アザ……レ……」
メルルの腕の中でぐったりしてる私は、目の前のアザレアに助けを求めた。
声にも力が入らない。
眠気に抗うだけで精一杯。
お風呂で寝ちゃ駄目……。
アザレアが私の元へ寄ってくるのが見えた。
よかった、私をメルルから剥がして起こしてくれる筈。
お願いね……アザ───
チュウウゥゥゥゥ
アザレアに唇を奪われた瞬間、私は諦めにも似た感覚で眠りに落ちた。
………あぁ、なんだか気持ちいい……。
それになんだかちょっぴり良い匂い。
そっか、私いつのまにか寝てしまったんだっけ。
お風呂であんな……あれ? 何かしてたっけ?
やっぱり疲れてたのかなぁ。
……体が動かない、ちょっと重い気がする。
あったかいな……。それに柔らかい……。
……柔らかい?
「ん………」
目を開けた。
いつもの岩肌の天井だ。
背中には柔らかい葉の感触、頭には柔らかいアザレアのお腹の感触。
いつも通り。
ここまではわかる。
両腕を挟む巨大なマシュマロのような感触は何?
右を見た。
メルルと目が合った、やけに近いけど。
左も見た。
ミラの寝顔だ、こっちも近い。
他にもおかしい所がある。
アザレアのお布団を被ってるけど、私は明らかに何も着てない。
訳が分からない、なんで?どうして?
「混乱するドロシー様も、アザレアちゃんに劣らず可愛いですわね」
あれこれ考えていると、メルルが色っぽい声で語りかけてきた。
「わたし、おふろ……うごけない……はだか……?」
考えがまとまらない。
裸なのは分からないけど分かる、分からないけど。
それよりも、なんか全身に生々しい感触が絡み付いてる気がする……。
「それはアタシとミラさんで、ドロシー様を半分こ♡してるからですわ」
ぜんぜんわからないよぉ……だれかたすけてぇ……。
あたまのなかがぐちゃぐちゃ………う……うぇぇ………。
「ドロシー様にとっては昨晩からずっと意味の分からない状況ですものね。可哀想に、頭を撫でて差し上げましょう。よしよし」
「そこは乳の頭だよおぉぉぉ!!」
メルルのいじりに、ついに頭がパンク!
身動きが全く出来ないまま大泣きしてしまったのだった。
「なんだか昨日と同じなのです……」
「申し訳ありません。あまりに可愛いと思い、やり過ぎてしまいましたわ……」
メルルとミラは朝食の準備中。
アザレアは私を慰めてくれている。
おかげで大分落ち着いてきたかも。
私の泣き声でビックリして目覚めたアザレアは、慌てて蔓でメルルとミラを剥がして投げ、私を抱き寄せてくれたのだ。
寝てる最中に投げられたミラはかなり驚いていたけど。
「とにかく今日はドロシーさんいじりは禁止なのです。もしわざとじゃ無くてもお仕置きするのです」
「はい……わかりましたわ……。気をつけますわ」
巻き込まれたミラはご立腹。
お仕置きってなにするつもりなんだろう……。
いやそれよりも……。
服が無くて落ち着かない。
今はアザレアの大きな葉に包まれている。
すっかり原始生活だなぁ。
後で洗うからってことで服は任せてあるけど、水は昨日お風呂にかなり使ったよね。
気分転換に水汲んでこようかな。
「アザレア、ごはん出来るまで少しお散歩しよう」
「はーい」
メルルに浜まで行くと伝えて2人でお散歩。
水場も見ておいたけど、案の定ほぼ空っぽだったので、海水を持って帰ろう。
ザザーン
風が気持ちいいなぁ。
アザレアと手を繋いで、歩いていると、
「おねーちゃん、まだ元気出ない?」
心配そうに見つめてくるアザレア。
「あ……ごめんね、元気無いように見えちゃってたのね」
「だって、ずっとボーっとしてるよ?」
「あはは……朝から泣いちゃったからなぁ」
子供みたいに大泣きしちゃって恥ずかしい。
しかも囲まれてだなんて……。
「アザレアに心配かけちゃったね、そろそろ戻ろっか」
「うん、困った事があったらアザレアに言ってね」
「ありがと」
いてくれるだけで癒されるよ。
なんとなく和んだ後、魔法で海水を浮かせ、拠点に向かった。
「ドロシーさ…まあぁぁぁ!?」
「なななんなのですー!? 水が浮いてるのですー!」
わっ!ビックリした!
見るとミラを背負ったメルルが立っている。
あぁ、朝食が出来たのかな。
「呼びに来てくれたの? 丁度戻るとこだったのよ」
「あ、いえ、ところでその水はなんなのです?」
ああ、この水球を見て驚いていたのね。
ついでだから手短に紹介しておこう。
「この石箱に魔力を通して、海水を放り込むの。そうするとホラ、この下の石箱に飲める水が溜まって、そっちの台に塩が───」
「地味にとんでもない装置ですのおおぉぉぉ!?」
水精製装置を理解したメルルが絶叫した。
「もー、そんなに叫ばなくてもいいじゃない。必要だったんだし」
「え、えぇぇぇ……」
困惑して口が塞がらない様子。
「そんな事より、お腹すいたよ」
「ごはん食べよ?」
「は、はーい」
私とアザレアが座って催促すると、動かないメルルからミラが降りてワタワタと席についた。
ここまでビックリされるとは思わなかったけど、おかげでスッキリしたかも♪