アルラウネと伝説のマゾ
さて、そんな中、話に入ってきていないアザレアはというと……。
「すいせー族で、マーメイドで………。よしっ」
初めて会った相手の名前と種族を頑張って覚えようとしていた。
微笑ましいなぁ。
メルルーナさんとミラさんもそんなアザレアに気づいて、ニコニコしながらアザレアを見ている。
「どうかなアザレア、お名前覚えた?」
「うんっ、だ、大丈夫だよ」
そう言って、アザレアはメルルーナさんを見て、
「メル…ルー・じぇ…じぇーどっく…さん?」
うん頑張った。
「ふふっ、アタシの名前、長すぎますわよね?メルルとお呼びくださいませ」
メルルーナさんはトロンとしただらしない笑顔で、短い呼び名を伝えた。
すっかりアザレアの可愛さに骨抜きになっているご様子。
「えっと、メルルさんは、夜魔族のサキュバスさんでぇ……」
「はい、よくできましたわ」
続いてアザレアはミラさんの方を向いて、
「ミラさんは、水棲族のマーメイドさん」
「ばっちりなのです♪」
2人とも、アザレアに名前を覚えてもらって嬉しそう。
「えへへ」
アザレアが私を見てニコニコしている。
「偉いよ、アザレア。ちゃんと覚えたねー」
もちろん褒めながら頭を撫でてあげた。
「ふあぁ……♪」
アザレアさん? その心底幸せそうな顔は私の理性がマッハで危険なのですが?
「ぐっ……尊いですわ……」
メルルーナさんが口元を押さえながら下を向いてプルプル震えていた。
わかるよその気持ち、すごーくわかる。
一方ミラさんは、うっとりした表情でよだれを垂らしながらアザレアを眺めている。
なんだか実害は無さそうな気がするから放っとこう。
「この流れだと、次はこの子に自己紹介してもらいましょうか?」
私の提案にメルルーナさんとミラさんは……。
「ぜひなのです!」
「お願い致しますわ。それに真打ちは最後と決まっておりますものね」
何その真打ちって……。
「それじゃあ、さっきの2人みたいに、アザレアのことを教えてあげてね」
「が、頑張る……」
すっかり緊張してる。
「困ったら助けてあげるから、大丈夫よ」
その言葉に安心したのか、少し表情が楽になった。
「えと……アザレアっていいましゅ。妖花族のアルラウネです」
ちょっぴり噛んだねー、だがそれがいい。
「アザレアちゃんですわね………ハァハァ……」
ああ……メルルーナさんが興奮しきった顔でアザレアを見つめてる……。
「アザレアちゃん、可愛すぎるのですっ」
うんうん、そうだろうそうだろう。
アザレアは噛んでしまったことで恥ずかしがっている。
ぐうぅ、たまらんけど…今は私だけでも冷静になっておかないとっ!
「アザレア、よくできたね~。よしよし」
まずアザレアを褒めておいて……。
「アザレアは名付けて間もない子なの。一緒に暮らしていて、植物に詳しいから畑をみてもらってるわ」
私が補足でどういう子かを簡潔に紹介した。
「成る程。産まれたてでそれだけの美貌を持ち、他に類を見ない程の純心無垢な妹属性……。ドロシー様、理性の方はご無事ですの?」
「ゔっ………だだだ大丈夫……だと思う……」
いきなりヤバイ事を聞かれ、私は思わず目を逸した。
「ですわよねー」
「無理もないのです」
悔しいけど何度も気絶したりしてるし、否定できない。
「りせい? おねーちゃんどこか悪いの?」
アザレアが心配そうな顔で、私の頬やおでこに手を添えていく。
「あっ、これは私も無理なのです」
「アタシもこの子にこんな事されたら簡単に堕ちる自身ありますわ。というか見てるだけでおかしくなりそうですの……」
人を堕とすのが生業のサキュバスにまで認められるアザレアって……。
私はもう少しだけ、疲れた体をアザレアに委ね、癒やされておいた。
「気丈になさってましたが、ドロシー様は本当にお疲れでしたのね。元気でしたらアザレアちゃんに抱きついてらしたでしょうに」
なんかいろいろバレて恥ずかしいんですけど?
きっと私とメルルーナさんは同類なんだろうね、そういう意味では気が合いそう。
「なんというか見苦しい所をお見せしてしまいましたね、最後になりましたが───」
「あの、ドロシー様?」
メルルーナさんが私を遮った。
「はいなんでしょう?メルルーナさん?」
「初対面という事もあるでしょうが、どうかアタシ達にお気を使わず普段どおりにお話くださいまし」
「メルルーナさんの言う通りなのです。命の恩人に気を使わせてしまって申し訳ないのです」
むぅ、たしかに初対面だから社交的にやってたけど。
「それと、おふたりともアタシの事はメルルとお呼びくださいませ、呼び捨てで構いませんわ」
「それじゃあ私もミラと呼び捨てがいいのです」
2人とも優しい笑顔でそう言ってきた。
……んーまぁ、2人がそう言うなら……。
「おねーちゃん……」
アザレアが心配そうに見てくる。
「大丈夫よアザレア、ありがと。メルルもミラも、すまないわね」
なんだか少し楽になった気がする、やっぱ気を張ってたのかなぁ。
「それじゃあ改めて。私はドロシー、魔女をやっている人間族よ」
「に・に・に・にんげんぞくうぅぅ!?」
自己紹介すると、いきなりミラが叫んだ。
「ひゃっ!?どうしたんですの!?」
「人間族ですよ! 人間族! はぁぁ~凄いのですぅ……」
えっちょっとまって、なんか私を見るミラの目が妖しいんですけど?
「ミラ? 確かにドロシー様は人間族ですが、それがどうかしましたの?」
「だって人間族って伝説上の生き物じゃないですか!興奮が止まらないのです!」
えっ、地上に来ない水棲族の間ではそうなんだ?地上にはいっぱいいるんだけどな……。
それにしても伝説て………。
「はぁ、この方はこんなにも価値観が真逆ですのね」
「そうね、こちらとしてもリアクションに退屈はしなさそうね」
興奮してるミラを眺めていると……。
「おねーちゃんは伝説なの?」
アザレアがキョトンとした顔で問いかけてきた。
「確かに伝説といえば伝説ですわね」
「いやそんな事はないと思うんだけど……」
メルルまで嬉しそうに何言い始めるかなぁ。
「だっておねーちゃんさっき凄いかっこよかったもん、きっと伝説のまぞなんだね!」
『ぶホッ!?』
私、メルル、ミラの3人が同時に吹き出した。
待って!ちょっと待って!
「アザレアっ? マゾじゃなくてマジョだからね?ちょっと2人とも! なにヒソヒソしてるの!? まだアザレアはジョが言えないだけだからっ! 違うからっ!!」
「え、ええ、わかってますとも……あのドロシー様ですから、いろいろあったのでございましょう……」
全然わかってない!お願い目を逸らさないで頂戴!!
「……私も聞いたことがあるのです……地上には様々な趣味を持った方々が居ると……」
何その偏った知識!! 一体海底に何が伝わってるの!?
「2人とも違うの! ちょっと聞い───」
「心配なさらないでくださいまし、アタシ達4人の秘密ですわ」
「わわっ、秘密! 初めてなのです! 友達っぽいのです!」
うぅ……聞いてくれない……。
何これ、新手の試練か何かなの?
先程の騒動の疲れのせいか、一気に落ち込んできた。
いけない……私、魔力が無くなると……ネガティブに……なりやすくて……。
「おねーちゃん?」
ず~~~ん
「ど、どうしたの?」
「なんでも……ぃょ……」
声が出ない。
もうだめ……。
ついに私はアザレアのお腹に顔をうずめて動けなくなってしまった。
「おねーちゃん! おねーちゃん!?」
「どっどうなさいましたの! ドロシー様!?」
「ドロシーさん!?」
いーもんいーもん、どーせ私の話なんか意味ないし。
それもこれもこの世に生まれた私が悪いんです……。
「アザレアちゃん、そのままドロシーさんを撫でていてあげて」
「うん、おねーちゃん大丈夫かな……」
「やはりお疲れだったようですわね……。あんなに巨大な魚を解体冷凍すれば無理もありませんわ……」
「それだけじゃないよ。おっきなお魚が出した津波をいっぱい防いでくれてたの……」
「えっ、津波ってどういうことなのです!?」
「えっとね───」
なんか言ってるけど、よくわからない……。
別に大したこと無いよね、私なんかヒトデ以下だもの。
くすん……。