夜のお楽しみタイム
お昼御飯で体力を消耗し、すっかり日も傾いて来た。
あまり意識してなかったけど、寝室から出た場所が広場みたいになっていて、丁度いいなと思って丸太椅子と焚き火を設置。
今夜は久し振りに焼き魚とサラダにしようかな。
「今出来てる事は一通り教えたけど、アザレアは何かやりたい事あった?」
室内用のテーブル用に、木を魔法で切りながら聞いてみる。
「うーん、畑が少し気になるかなぁ」
おお、さすが天然の植物博士。
「畑だったらアザレアの好きなようにしていいよ?私はあんまりよく分かってないし」
「そうなの?」
「分からなくてもやるしか無かったからねー。だからアザレアがやってくれるなら心強いのよ」
そう言って、私はアザレアに微笑みかける。
「えへへ……」
おお、照れてる、可愛いなぁ。
「畑の事は任せるけど、私も手伝うからね。手を貸して欲しい時はちゃんと言うよーに」
「うんっ!」
よしよし、さっきの『ワガママ』の成果が出るのを待ってるよ。
ついでにテーブルもできたし、これでアザレアと向かい合って食べれるね。
2人と1匹になってからまだ間もないけれど、夜も楽しい時間になったと思う。
やっぱり話し相手がいると全然違うね。
今まではムニエルにも時々話しかけてたけど、首を動かすくらいしか無かったから会話が続かなかったし。
なんだか虚しくなって、最終的に家具作りに戻ったりしてた。
今日は初めて寝床に全員揃ったし、親睦を深めようと思う。
「とゆーわけで、2人でムニエルを質問攻めしてみようの巻~♪」
「わーい!」
うーん、このノリは懐かしいなぁ~。
ムニエルちょっと引いてるけど。
「アザレアもわかってるでしょうけど、私達はムニエルの言葉が分からないから『はい』か『いいえ』で答えられる質問にするのよ?」
「うん、わかった!」
よし、じゃあ早速今日気になってた事から聞いちゃおう。
「朝にアザレアを紹介した後に、この住処の上で寛いでたのって、やっぱ高いところからの方が海が見やすいからなの?」
ムニエルが首を振った。違うのね。
「おねーちゃん、実は外で過ごしてる時、たまにムニエルの方を見たらアザレアの方を見てる時があったの。たぶん見守ってくれてたんじゃないかなぁ?」
「ほえー。危ない事無いようにずっとアザレアのこと見ててくれたの?」
ムニエルが頷いた。
「あはっ!ありがとう!ムニエル!」
アザレアがムニエルに抱きついてる、仲良くなってくれてなによりね。
ふーむ、やはりこの蛇、イケメンである。
この後本当に質問攻めにしてやった。
Q:ずっと陸に居ても平気なの?
A:はい
Q:お魚以外は食べないの?
A:いいえ
Q:海の中でも寝れるの?
A:はい
Q:今度抱っこして寝ていい?
A:視線を逸した
Q:ムニエルも家族の一員だよね?
A:はい
Q:私達に何かやって欲しい事ってある?
A:ちょっと考えたけどいいえ
Q:おねーちゃんって美人さんだよね。
A:いいえ
Q:ちょっとまって即答ってどういう──
A:いいえ
Q:わーにげろー♪
A:はい
Q:待ちなさーい!
A:いいえ
Q:あはは、捕まっちゃったね。
A:はい
Q:よくもからかってくれたわねー?
A:自分のベッドに逃げた
ふぅ、今夜は楽しかったな。
「さて、私達も寝よっか」
「うん…あのね、おねーちゃん……」
「なぁに?」
「一緒に寝ていい?」
うほぉ~~!! まさかのお誘い!って……。
「私はもちろん良いんだけど、妖花族って転がって寝ないじゃない? 私が座って寝ればいいの?」
昨日は一緒に花びらをソファみたいにしたし、平気といえば平気だけど。
「大丈夫、おねーちゃんは転がって寝れるよ」
「どういうこと?」
「ちょっと待っててね」
そう言うと、アザレアは私の草ベッドの上に行った。
するとアザレアの下半身にある葉の裏から、蔓が数本前方に伸び、うねりながら地面に固定。
その後は巨大な葉が蔓の上に覆いかぶさって、あっという間に立派なベッドになった。
「おおおおお!?これはっ!!」
これは驚いた。縁には花びらで装飾までされていて、豪華なベッドにしか見えない。
妖花族は、自身の体の一部を大きくして身を守ったりするけど、その応用ね。
「えへへ、どうかな?」
「凄いわアザレア!こんな特技があったのね」
どうしよう、もうアザレアの居ない生活が出来ないかもしれない。
「でもこれってアザレアはちゃんと眠れるの?」
「うん、こうやって……」
背後に大きな花弁を出し、気持ちよさそうに寄りかかっている。
「うはぁ、見てるだけで寝心地よさそう」
「さ、おねーちゃん、こっち来て」
アザレアが手招きする。
すっかり吹っ切れたみたいね、まだ私の為になる要求しかしてこないけど。
「ふふっ、はいはい今いくよ~」
「まだベッドに慣れてないから、寝にくいかもしれないけど。そしたらごめんね?」
「そういう時はちゃんと言うわよ、貴女のことだから良くしたいんでしょう?」
「もちろん!」
私はゆっくりとアザレアベッドの上に乗った。
意外とフワフワしてる気がする。
蔓がバネで葉がマットになってるのかな。
「大丈夫? 重かったりしない?」
「平気だよ、ちゃんと固定したし」
うーん、妖花族の感覚の話になるから私には分からないけど、大丈夫っぽい。
「おねーちゃん、寝っ転がって、頭こっち」
「うん……うん?」
今私が頭置いた場所って、アザレアのおへそのちょっと下くらいだよね?
あ、葉っぱの掛け布団だ、ちょっといいかも。
じゃなくて、頭の位置のせいで妙な気持ちに………。
「これで一緒に寝れるね、おやすみおねーちゃん」
「え、うん、おやすみアザレア」
えっ、ちょっとまって、ドキドキするんですけど?
妖花族的にはこの位置はおかしくないのか?
私が人間だから勝手に意識してるだけなのか?
………私このベッドでちゃんと眠れるかなぁ……。
「ふあ〜ぁ……」
むー、なかなか寝付けなかった……。
頭がボーッとする……。
「おねーちゃん、おはよー」
「う…ん…。おはよぉ……」
ちゅーペロペロ
「あーおいし、おはようのチューだよ♡」
あーうん、アザレアだもんね。
おはようにしてはディープな気がするけど……。
「あふ……」
だめだぁ、まだ眠い……。
「アザレアぁ、眠いよぉ〜…」
「ひゃん! おねーちゃ……!」
あーいい抱き心地ぃ……私このままコアラになるー。
ぷにぷにして気持ちいいよー。
「はわ…はわ………はわ……」
アザレアの声が耳の近くから聞こえるぅ……もうちょっとこうしていたい……。いいよね……。
………………。
ん………。
あ、そっか、二度寝しちゃったんだ……。
なんでこんな格好で寝てるの?
「うぅん…」
私は何を抱いて……。
………………。
「あ、え、アザレア!? なんで!?」
私が抱いていたのはなんと、顔を真緑にして目の焦点が合わず、カチコチに固まったアザレアだった。
「アザレア! 大丈夫!? 一体何故こんなことに……」
愕然としていると、アザレアが目を覚ました。
「あぁ、おねぇしゃぁん…おはよぉ。もぉらいりょうふぅ?」
何故か呂律が回ってない。これは一体……!
「アザレアこそ何があったの!? なんでこんなにもフラフラしてるの!? しっかりしてぇっ!!」
私が思わず悲痛な叫びを上げると、朝の漁から帰って来たらしいムニエルが姿を見せた。
ムニエルはアザレアと私を見た後、うなだれて横に首を振った。
えっ、何その『やれやれ…。』みたいなアクション。
「あはは、おねーちゃん寝ぼけてて覚えてないんだね」
えっ? どういう事?
「アザレアなら大丈夫だよ。なんていうか……嬉しかったし……」
訳が分からない。なんでモジモジしてるのかな?
えっ?私なんかしたの?
「んーと……」
オロオロと慌てる私を心配したのか、アザレアが口を開いた。
「落ち着いて聞いてね?」
────朝から謝りまくった。
私、色んな意味でもうダメかもしれない。
ってゆーと何?過去泊まり込みで私の弟子になった男子達が部屋まで起こしに来てくれた時、真っ赤になりながら顔を逸らして、しばらく会話もままならなかったのって、全部私のせいなの!?
思春期のチェリーが多かったというのに、ネグリジェで抱きついて全身を押し付けてたらそりゃそーなるよ!
みんなゴメンよ、お姉さんってば君達のピュアなハートをぐちゃぐちゃに掻き乱してたのね……。
「うう……こんな寝ぼけ方するなんて、知らなかった……」
「おねーちゃん大丈夫だよ、アザレアはそんなおねーちゃんが大好きだからね?」
「…………ゴフッ!」
無邪気な天使の笑顔と言葉は、既に致命傷だった私の心を粉砕するのに十分な破壊力だった。